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駄目親父としっかり娘の珍道中

作者:sibugaki
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第74話 後ろには気をつけよう

 
前書き
これまた随分と間が空いちゃいました。そんな訳で今回もどうぞ。 

 
 何がなんだか訳が分からない。
 一言で言うならそれであった。つい今しがた雨霰の如く砲弾が降り注ぎ爆発と黒煙が周囲を支配していた。が、今は違う。確かに、目の前から未だに雨霰の如く砲弾が降り注いでいるのだが、それが自分達の元へは届く事はない。
 何故なら、放たれたであろう砲弾は偽装船の前に展開された光の壁により阻まれてしまっているからだ。
 いわゆる一種のバリアの類かと思われる。だが、生憎現在この偽装船にはそんな上等な代物は搭載されていない。紅桜の製造の為にスペースの大半を占めてしまったが為にバリアを置くスペースを確保する事が出来なかったのだ。その為に降り注ぐ砲弾に対しどうする事も出来ず成すがままの状態となっていた。
 そんな偽装船を守るかの様に張られた謎の光の壁。そのお陰でこれ以上砲弾が命中する事は恐らくはないであろう。とりあえずの脅威は退ける事が出来た。
 新たに出来た問題を除けば―――

「え~~~っと………何これ?」
「いや、それは私達が聞きたい事なんすけど―――」

 静かにまた子はツッコミを入れた。現在また子や武市は勿論、大勢の攘夷志士達の目の前に居るのは、両手を天に翳し、例の光の壁を張り自分たちを守っているであろうと思われる一人の少女の姿があったからだ。
 天に翳している両手はまばゆい光を放っており、それに連動するかの様に光の壁も堅牢さを誇っている。
 一体どう言った原理であれが張られているのだろうか?
 仮にこれらが天人のもたらした技術の賜物だとしてもそれでは納得が出来ない。幾ら技術力の発達した天人だとしてもこんな何の変哲もない子供にそんな大層な代物を埋め込める事は恐らく不可能に近いからだ。
 隣に居る武市曰く、これは異なる世界の技術だと言っているそうだ。最近巷で噂になっている異界から来た異邦者達。その者達もまたこれと似た様な力を用いていたと言うのはまた子自身も耳にはしていた。だが、実物を見るまでは正直半信半疑であったのだ。
 何しろ、魔法の力など出来の悪いSF小説かアニメなどでしかお目に掛かれない代物なのだから。

「いやぁ、助かりましたよなのはさん。貴方のお陰でどうにかこうにか私達は大海原へダイブしなくて済みそうですよ。いやぁ助かっちゃった」
「真顔で可愛い子ぶってもキモいだけっすよ武市先輩」
「貴方に言われたくはありませんねぇ」

 安心出来たと思ったらこれである。どうやらこの二人は常にいがみ合ってないといられない存在の様だ。まるで銀時と土方みたいな感じに思えた。

「要するに私がずっとこうしてればあの丸っこい球が当たる事はないって事だよね」
「正にその通りです! そのままそうしてくれていれば我々が被害に遭う事は絶対にない筈です! 多分―――」
「うおっしゃぁ! それじゃ此処は私に任せてよ! 例え黒い球、略して黒玉が100発来たって皆弾き返してやっからよぉ!」
「キャー! なのはさんカッコエー! まるで何処かの鉄の城みたいぃぃぃ!」
「キモッ! 武市先輩が黄色い声を出すと騒音にしかならないっすよ!」

 何はともあれこれで一安心と言えるだろう。目の前に展開している桂の手勢たちは皆躍起になって偽装船を守っている光の壁をぶち破ろうと先ほど以上に砲弾を連射してきている。だが、幾ら砲弾を浴びせようと光の壁はビクともしない。それだけなのはの力が凄まじいと言うのであろう。

「にしても凄まじい力っすねぇ。正直魔法の力なんて私信じてなかったっすよ」
「ご存じないのですかまた子さん。我々江戸の人間だって30歳まで童貞を貫き通せば魔法使いになれるのですよ。嫌、私は願わくば魔法少女になりたいのです!」
「なれるかぁ! 仮にあんたがなったとしても魔法少女じゃなくて魔法変態じゃぁ!」
「誰が変態ですか! 仮に私が変態だとしてもそれは変態と言う名のジェントルマンですよ!」
「格好つけて横文字使ってんじゃねぇよ! それで誤魔化したつもりっすか! そんなんでこの私を誤魔化すなんて1万と2千年早い―――」

 二人の醜い痴話喧嘩を突如として爆発が遮った。丁度二人の真ん前に位置する甲板に敵の砲弾が飛来し、爆発したのだ。後1,2メートル程位置がずれていたら危うかった。幸い直撃は避けれた物の、一体何故砲弾がこちらに飛んできたのか?
 疑問に思った二人の答えはなのはを見る事により瞬時に解決した。
 目の前でなのはは相変わらず手を翳して光の壁を展開している状態ではある。あるのだが、今は両手ではなく片手でそれを行っているのだ。そして、開いたもう片方の手で必至に背中に手を回して何かをしている。

「な、なのは……一体何してるんすか?」
「いやぁ、ちょっと背中痒くなっちゃってさぁ。この服着慣れてないから擦れちゃったみたいなんだよねぇ」

 要するに痒い所に手が届かない為に悪戦苦闘中だったようだ。さっきまで両手で維持していたのを片手でやる羽目になった上に背中の痒みの為に結界の展開に意識を集中出来ずに居た為に、その結果として偽装船を守っていた結界の強度が弱まりだしてしまったと言うのだ。

「誰か、誰か急いで孫の手持って来るっすよぉ! 死にたくなったらさっさと持ってくるっす!」

 このままだと結界が破られるのも時間の問題になってしまう。が、結界を張っている当の本人はそんな事よりも背中の痒みの方が重大らしく顔を真っ赤にして痒い所に必至に手を伸ばしている。が、生憎その痒い場所と言うのが背中の丁度真ん中より少し上辺りらしく、手が届かずの状態となっていた。
 その間にも敵から夥しい量の砲弾が降り注いでおり、防ぎきれなかった砲弾が偽装船にぶつかり爆発すると言った事態が頻発し始めているのだ。
 
「仕方ありませんねぇ。此処は私が直々に背中を掻いて差し上げるとしましょうか」
「先輩は駄目っす! あんたがやったらマジでこの小説に18禁タグがつけられかねないっすからね!」
「何を言うんですかまた子さん! 私は只ちっちゃい娘と触れ合いたいだけなんですよ! まぁ、願わくば色々と触りたいってのも事実なんですけどね」
「尚更ダメに決まってるでしょうが! あんたこれ以上変態発言したら脳天に鉛玉お見舞いするっすからねぇ!」

 なのはの後ろにて武智とまた子との相変わらずな口論が勃発しているのはさて置き、今のなのはにとっては背中のかゆみが尋常じゃない位にまでなっていた。正直両手を使って背中を掻きたい位なのだがそんな事をすれば折角張った結界が決壊してしまう事になる。
 かと言ってこのまま背中の痒みを放置することは出来そうにない。もう結構痒いのだ。着慣れない服を着たが為に違和感を感じた上に服が擦れてしまい痒みが倍増していると言う次第であった。
 つくづく面倒であった。確かに砲弾を防ぐ結界は便利なのだがその為に両手が塞がってしまうのは不便である。何か別の用途はないだろうか?
 結界を張りながらなのはは考えた。結界を張りつつ両手を自由にする方法。そもそもこうして展開させている結界の理論すら理解出来ていない現状でそれの応用なんて思いつく筈がない。
 かと思われたのだが、案外すんなりと別の案が浮かんだ。
 突然何を閃いたのか、なのはは自分が張った結界の中心部分を掴むと、そのまま奥へと引っ張り出したのだ。すると、結界が平面状から円錐状へと形を変えていく。更にその円錐の中心へと吸い込まれていくかの様に放たれた砲弾が中心へと集まっていくのだ。
 一体何をするつもりなのか? 疑念に思う一同を他所に、後ろを振り向いたなのはが突如として笑みを浮かべた。何やら企んでいる笑みであった。
 そして、その企みは直ちに実行された。
 さっきまで掴んでいた結界を主室に放したのだ。輪ゴムを限界まで引っ張り、それを話すと反動で飛んでいく理論である。それと同様に限界まで引っ張った結界の中心を突如放した影響により結界が反動で押し戻されたのだ。そして、その際に中心に溜まっていた大量の砲弾が押し戻される形で辺り一面に飛んで行く。結界の強度と張力が加わり放たれた砲弾は正に弾道ミサイル並みの速度で放ったであろう者達の居る船へと叩きつけられたのであった。
 忽ち敵の軍艦から黒煙が立ち上る。予期せぬ襲撃を受けて敵側は大慌てである。
 これぞ正に予想だにしない痛恨の一撃であった。

「うっわ、あんな使い方とかあるんすねぇ」
「素晴らしいですねぇ。あの力もそうですが彼女の発想の転換もまた素晴らしい。頭の固い人間にはまず出来ない発想でしょうね」

 武智の言う事もまた一理あった。理屈でガチガチに固められた頭の固い大人ではまず思いつかない戦法だ。それをまだ10歳にも満たない子供が見事にやってのけたのだから末恐ろしい事この上ないと言える。

「へぇ、駄目元でやって見たけど案外出来る物なんだねぇ。もしかしたら他にも色々と使えたりして」

 なのははすっかり結界に夢中になっていた。敵の砲弾を防ぐだけでなくそれを弾き返す事が出来る。もしかしたら他にも応用戦術があるかも知れない。何とも奥深い話であった。そう言う奥深い事に子供はとても熱中し易い物だ。敵の砲撃の心配がなくなった途端、なのはは結界を使い遊び始める始末だった。
 両側に結界を展開させて其処に飛び込む事でトランポリンよろしく飛び回っていたり結界を掴んで丸めて投げてみたりなど明らかに結界の本来の使い方とは逸脱した使用をしていたのだ。恐らく、絶対普通の人間は結界をこんな使い方をする筈がない。誰もがそう確信を持てた。
 正にそんな矢先の事だった。突如として上空を小さい何かが飛び回っているのが見える。
 羽虫かと思ったが違った。それは、小型の飛行型木馬を駆る侍である。しかも、その侍は右腕がなく、変わりに巨大な刀が腕の変わりかの様に生えている。

「あ! あいつはっ!!」

 上空を飛び回る侍を見て、なのはは仰天した。空を飛び回っていたのは紛れも無くあの岡田似蔵その人であった。上空を飛翔しながら、反撃する事が出来ない桂派の軍艦に攻撃を仕掛けている。
 それに対し桂派の攘夷獅子達は全く反撃する事すら出来ずにされるがままの状態になっていた。
 耳を澄ませば聞こえてくる攘夷志士達の悲鳴と断末魔。本来ならば聞こえる筈のないそれらが今、なのはの耳にはしっかりと、それらが聞こえてきた。とても痛々しく、悲惨なのばかりであった。
 なのはの中で沸々と熱い何かが湧き上がってきた。それは怒りだった。それも、とても純粋で、とても強い怒りの感情がこみ上げてきたのだ。
 元を正せば自分のせいで、彼らの反撃の手段を奪ってしまった。それを、あの岡田はあろう事かまるで獲物を弄ぶかの様に蹂躙していくのだ。その行為がなのはには許す事が出来なかった。無抵抗の相手を嬲るなんて男の、増してや侍のする事ではない。
 その事がなのはにとってはとても不愉快に映っていたのだ。そして、何よりもあの男には個人的に借りがある。それを返さずして終わる訳にはいかなかった。
 だが、問題が一つあった。とても大きな問題である。
 どうやって岡田の元へ向かえば良い。現在岡田の居る場所から今居る偽装船まではかなりの距離がある。その上此処は洋上。即ち空の上だ。飛行する手段を持っていないなのはにはどうする事も出来ない現状であった。
 だが、ふと脳裏に先ほどの光景がよぎった。桂派の攘夷志士達が放った弾丸を結界を用いて跳ね返したあの光景。
 もしかしたら、あれを使えば―――




     ***




 煙を巻き上げている軍艦を前にして、岡田は舌なめずりをしていた。自分の体と一体化した紅桜、そして桜月の欠片が歓喜しているのが感じ取れる。
 人を斬った感触を受けて、人の血しぶきをその刀身に受けて、人の肉をその刃で切り裂いて、刀は喜びに満ちていた。久方ぶりの人間の血だ! 肉だ! 魂だ! 命だ!
 刀が人を切り裂く度に、刀が軍艦を破壊する度に、体全身に力が湧き上がる感覚を覚える。
 その感覚が岡田には快感であった。人を斬る度に岡田の顔がにやける。人を殺める度に岡田の見えなくなった筈の両の目が輝く。人の命の輝きを消す度に岡田の命の輝きがより強くなる。
 そして、その度に岡田は痛感する。自分はやはり人殺しなのだと。
 だが、今更後悔などしない。自分で選んだ道なのだ。今更何を迷うことがあろうか。何より、これ以外の道を選ぶことなど今更出来る筈がない。どうせ行き先は地獄の一丁目と決まっているのだ。ならば地獄に行くまでの間にしこたま斬って斬って斬りまくるのみ。
 声が聞こえてきた。だが、断末魔の悲鳴ではない。寧ろ怒りの篭った雄叫びであった。声のした方へ頭を向けてみる。
 その突如であった。岡田の体に何かがぶつかってきたのだ。完全に油断し切っていた岡田は対応が遅れてしまい諸にそれを受けてしまう形となってしまった。
 だが、幸いにもそれは弾丸や砲弾の類ではなかった。何故なら、ぶつかってきたのは人間、それも小さな子供であったのだ。

「な、何だ一体!?」

 余りにも唐突の出来事に流石の岡田も動揺を隠せなかった。本来ならこれ位避ける事など雑作もない筈。だが、紅桜に体を侵食されてしまった際の高揚感と敵攘夷志士達を切り続けていた際の精神的充実感に加え、飛んできたのが子供と言う殺傷性の低さから対応が後手に回ってしまい、この様な結果を招く事になってしまったのだ。
 驚く岡田を他所に、ぶつかってきた子供は怒りを体全体で表すかの如く岡田の胸倉を両手で掴んで何度も揺さ振っていた。

「お前! お前お前お前お前! お前はぁぁぁぁぁ!!!」
「ちっ、うざったいガキには用はないんだがなぁ」
「あんたに用はなくてもこっちにはあるの! つべこべ言わずにぃぃ―――」

 言葉の途中で子供は大きく仰け反り、息を吸い込んだ。一瞬間を置き、溜め込んだ息と一緒に言葉を吐き出す。

「私のリボン返せぇぇぇっ!!!」
「なっ、お前さんあの時の―――」

 この時、岡田は子供の正体を改めて理解した。そう、岡田に猛烈な勢いで飛び掛り、胸倉を掴んで怒りをぶつけていたのは、他でもない昨晩岡田が斬り捨て、無残にも髪を毟り取られたなのは本人であったのだ。
 しかし、髪を毟り取られた事は余り気にしている様子はなく、寧ろそれよりも大事なリボンを取られた事に怒りを感じているご様子であった。




     ***




 表では色々と大変な事になっているそんな今日この頃。銀時と鉄子の二人は密かに偽装船の中に潜り込む事に成功していた。
 だが、如何せん適当な場所から潜り込んだが為に今何処に居るのか全く理解出来ず、船内を右往左往している

「銀時、その……本当にこの道であってるのか?」
「知らねぇ」

 鉄子の心配を他所に銀時はひたすら前進を続けていた。確かに船内の地理など無いに等しい。だが、歩き続けていればその内出口に辿り着けるのかも知れない。淡い期待を胸に今はひたすら歩を進める。それだけの事であった。

「あ~、たるいなぁ~。ここらで一旦休憩でもすっかなぁ」

 前言撤回する。本人は全く何も考えていない状況であった。まぁ、幸いなのは船内の殆どがもぬけの殻状態だったので特に戦闘と言う戦闘がなかったのが救いではあった。

「ん!?」
「どうした?」
「何だ、急に白夜が―――」

 一瞬だが、銀時は何かを感じた。手に持っていた白夜から何か鼓動の様な感覚を感じたのだ。もしや、この付近に桜月があるのかも知れない。それを伝えようとしてるのだろうか。
 事の真偽を問うのは後回しだ。今はこれを信じて突き進むしかない。
 銀時は歩を早めた。船内を走り回り、鼓動を頼りに道を進む。白夜が鼓動を強めている。これのお陰で船内を今まで以上にスムーズに移動する事が出来た。全く、何処かのアニメのOPで言っていたフレーズが嘘の様に思える感覚だった。

「ったく、俺を何処へ連れて行くつもりなんだ? 白夜」

 白夜が道を教えてくれているのは半分有難いが、それ以上にこいつにいい様に扱われている気がしてならなかった。
 それが少し銀時には気に入らなかったのであった。

「此処か―――」

 ひたすら進んだ頃だった。突然白夜の鼓動が止まった。白夜が「此処に来て欲しかった」と言っていたと暗示しているかの様に二人は導かれた気がする。
 二人の目の前には、透明なガラスケースに収められた幾本もの刀が其処にあった。
 紛れも無く、それらは全て紅桜だった。もう既に紅桜の量産は行われていたようだ。だが、幸いにも作られたのはまだ刀身だけらしく、まだ完成形とは呼べない姿ではあった。

「この状態だと、多分まだ熟成中の様だと思う。今なら簡単に壊せる筈」
「そうかい、だったら今の内に叩っ壊すとするか」

 そう言い、銀時は持っていた白夜の柄に手を掛けた。桜月を使用している紅桜を破壊出来るのは白夜しかない。そして、今この瞬間を置いて他に紅桜を破壊出来るチャンスは恐らくない。熟成中の今ならば多分白夜以外でも破壊出来る可能性はあるだろうが万が一と言う事もある。壊せるときに徹底的に壊すまでだ。

「下がってろ鉄子。こいつで紅桜をぶっ壊す!」
「それを使ってか?」
「!!!」

 突如、声が響いた。そして、同時に背後に感じる冷たい感覚。鋭い殺気と狂気が其処から感じ取れた。そして、銀時はその殺気と狂気を知っていた。

「てめぇ、高杉!」
「よぉ、勝手に人様の家に土足で上がり込むたぁ感心しねぇなぁ」
「人ん家を火の海に変えようとしているてめぇの言う事かねぇ?」
「くくく、それもそうだな」

 銀時の皮肉を間に受けるかの様に背後に居た高杉は肩を震わせて笑っていた。だが、銀時に向けている殺気に揺らぎはない。少しでも動きを見せれば即座に袈裟懸けに斬り捨てられるのみ。しかも、今回は以前の時とは違い密着した距離ではない。刀も恐らく押し付けられているのではなく切っ先を向けられているのだろう。これでは刀身を握って無力化を図る事も難しい。第一、まだ銀時は抜刀していないのだ。

「銀時!」
「来るな、鉄子!」
「でも!」
「お前はそれを破壊しろ! 此処でそいつを壊さなかったらどうなるか分かってんだろうが!」
「あ、あぁ!」

 半ば歯切れの悪い返事を鉄子はした。銀時を救いたいと言う気持ちはあったが、恐らく彼女では到底後ろに居る男には勝てそうにない。それに、今此処で紅桜を破壊出来なければ待っているのは江戸の最期だ。

「頼む、そいつをぶっ壊してくれ! これ以上そいつに人の血を吸わせちゃならねぇんだ!」
「それは貴殿の考えではないのかな?」

 今度は別の方から声がした。位置からして鉄子の近くだ。声のした方へ視線が注がれる。丁度部屋の暗がりの中からゆっくりと声の主は姿を現した。
 村田鉄矢その人であった。

「あ、兄者!」
「やっぱりてめぇが作ったのか!」
「その通り! この紅桜は拙者が桜月の欠片をベースとして作り出した全く新しい決戦兵器なのだ!」
「決戦兵器?」
「この紅桜を用いれば、あの忌々しい天人達の乗る戦艦すら破壊する事が出来るのだ! そして、これを使い、この腐った江戸を丸ごと破壊する!」
「止めろ兄者! そんな事をして何になるって言うんだ!?」
「鉄子、貴様には分かるまい! 最強の刀を作る。これこそが拙者の生き甲斐だったのだ! かの村田一族が残した名刀「白夜」そして「桜月」。この二本を超越する刀を作ろうと幾千幾万の刀を打って来た。だが、そのどれもが駄目だったのだ! だが、遂に拙者は成し得た! 先代が残した名刀を凌駕する最強の刀。それこそがこの「紅桜」なのだ!」

 村田鉄矢にとって、白夜と桜月と言う二つの名刀を超える刀を作ること。それだけが目的であり生き甲斐であった。そして、それをなし得る為に作り出されたのがこの紅桜なのであったのだ。

「今、外で戦っている岡田の使っている紅桜はまだ試作段階でしかないが、此処にある紅桜が完成すれば拙者の理想は成就したも同然になる! その時こそ、この紅桜は白夜と桜月を凌駕出来ると言うのだ!」
「そんな事の為に多くの血が流れたんだぞ! それでも兄者はまだそんな妄想に走ろうと言うのか!?」
「幾ら血が流れようと構わん! この紅桜が最強の刀となるのならば、例え江戸を火の海に変えようとどれ程の血が流れようと、それが拙者のたった一つの望みなのだからなぁ!」

 まるで狂気だった。この男は自分の作った刀を仕上げる事しか頭になかった。その後の事もその間で起こる過程すらもこの男には全く無関心な事でしかなかったのだ。ただ、紅桜を仕上げる事。そして、それを用いて白夜と桜月を超える事。それしか頭になかったのだ。

「さぁ、銀時殿よ。白夜を渡して貰おうか。それが無ければ紅桜は完成しないのだ!」
「あぁ? 何でだよ」
「紅桜の完成には白夜と桜月のデータが必要だ。だが、残念な事に白夜のデータが殆どないのだ。これでは完成したとは言えん。此処にある紅桜は言わば桜月のコピーでしかないのだ。これでは桜月には勝てても白夜には勝てん! だが、桜月と白夜の二つのデータを取り入れれば、紅桜は正しく天下無双の刀となり得るのだ!」
「あっそう、それじゃ尚の事これを渡す訳にゃぁいかねぇなぁ」
「貴殿は今自分が置かれている状況がまるで理解出来ていないようだな。今、貴殿に選択肢はないのだぞ!」
「生憎だな。例え背中からザックリやられようとそれにどてっ腹を貫かれようと、こいつだけは悪用させる訳にゃぁいかねぇ。そんな事したら、あいつが悲しむ事になるんでな」
「あいつ? それは紅夜叉の事か? 何を世迷い言を言っているのだ。その紅夜叉を殺したのは他でもない。白夜叉。貴様であろうが!」

 銀時を指差し豪語する鉄矢。そして、その言葉に驚く鉄子。
 一体どう言う事なのだろうか。銀時が紅夜叉を手に掛けた? 紅桜の真の目的は白夜と桜月を凌駕する事。そして、その為には白夜が必要になる事。
 果てさて、これから先どんな風に話が進むのか?
 それはまた次のお話っつぅ事で今回はこれにてお開きとさせて頂きます。




     つづく 
 

 
後書き
何やら原作とは全く毛色の違う展開になってしまい書き手としてもどう収集つけようか大変な状態だったりします。
でも負けないもん。そんな訳で次回をお楽しみに。 
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