少年少女の戦極時代・アフター
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After9 甲殻奇兵 ②
ずるり。ずるり。
イザナミインベスが前へと進み始める。通った跡に粘液を残しながら。
鍬木が警戒してか、ペコから足をどかせて下がった。
「ゲホッ、ゲホッ!」
「ペコ、大丈夫!?」
チャッキーはペコに駆け寄った。
チャッキーはペコの腕を肩に回させ、二人してひょこひょことイザナミインベスの背後に回った。このイザナミインベスは、巨体だ。しばらくは盾になってくれるはずだ。
イザナミインベスの体中の隙間から、鍬木がクワガタインベスとなって曲刀を揮うのが見えた。
あんな斬撃をペコが食らっていたらと想像すると、体感温度が下がった。
「ごめん。俺、また役立たずだった……っ」
「いいんだよ。そんなの。無事だっただけで儲け物だって」
チャッキーはとにかく急いでスマートホンのボタンを連打し、耳に当てた。
もどかしいほどのコール音の連続を経て、ようやく電話が繋がった。
「ミッチ! お願い、来て。オーバーマインドが出たの。あたしやペコじゃ相手にならない。助けて!」
《――君は、光実のチームメイトの》
よく似た声だが、違う。電話の向こうで応えたのは、光実ではなく貴虎の声だった。
面食らい、はたと思い当たった。
電話帳はアイウエオ順にアドレスが表示される。きっと自分は同じ「呉島」姓で、五十音順では上にある貴虎に過って電話してしまったのだ。
《オーバーマインドが現れたんだな?》
「は、はい……でも、貴虎さん、ベルトが」
貴虎も元アーマードライダーのザックや凰蓮と同じくドライバーを持っていない。アーマードライダーに変身して戦うことはできない。
《大丈夫だ。対策は用意してある。君たちはどこかに隠れているんだ。すぐに向かう》
電話が切れた。
チャッキーはインベスゲームをほとんどしたことがない。裕也がいた頃は裕也か舞、裕也が失踪してからはもっぱらライダーバトルだったからだ。そのためチャッキー決してインベスの制御に秀でてはいない。
それでも開錠したのが彼女である以上、このバケモノは彼女にしか制御できない。
(お願いよ。少しでも長く保って!)
チャッキーはロックシードを両手で、祈りの形に組んで握り締めた。
――だが、祈れば加護が与えられるほど、現実は甘くない。
きぃぃぃぃぃぃぃ!
がしゃん。
イザナミインベスの骨の腕の片方が地面に落ちた。
ちらりと見えた。クワガタインベスは曲刀2本を連結させ、クワガタの角の形にしていた。
――何かのバラエティ番組の検証で観たことがある。クワガタの角で挟まれると、対象物によっては繋ぎ目から真っ二つに切断されることがあると。
では、そのクワガタがインベスで、あの曲刀2本が角に対応するなら?
答えはこの状況だ。
背後にいるチャッキーたちからは見えないが、イザナミインベスの悲鳴が上がるたび、イザナミインベスは体のどこかしらを曲刀の鋏によって切断されているのだろう。
(もし貴虎さんが来る前にこのインベスが負けたら)
パニックを起こしかけた時、ペコがチャッキーの手と肩を掴んだ。
「俺だって、今度こそ……っ」
ペコが一緒にイザナミインベスを操作しようとしてくれている。
(そうよ。一人でダメなら二人で。ピンチの時、仲間と力を合わせるのは恥ずかしいことじゃない。あたしだって。ペコとなら)
イザナミインベスがクワガタインベスの曲刀の鋏に対して攻勢に出た。
あとはこれで貴虎が間に合いさえすれば。
キュキキキキーーッッ!
車の乱暴なブレーキ音がした。
もしや、と視線をやれば、運転席から出てきたのは、呉島貴虎その人だった。
駆けつけた貴虎は、チャッキーとペコの背中の両方に大きな掌を当てた。
「よくやってくれた。後は私に任せて離れていなさい」
貴虎は、チャッキーとペコが二人で握るヨモツヘグリのロックシードを取り上げ、開錠・施錠し、イザナミインベスを還した。
「でも貴虎さん、ドライバーもロックシードもないのにどうやって」
貴虎はスーツの懐から、イニシャライズされていない戦極ドライバーを取り出した。
チャッキーもペコも目を瞠り、まじまじと貴虎を見た。
「駆紋に渡りをつけてもらったとはいえ、次期“財団”のトップ候補との会談は肝が冷えた。だが、おかげでどうにか1台だけ調達できた。ロックシードも持っている。だから心配は要らない。さあ」
「は、はい」
チャッキーはペコと支え合い、都市公園の出口へと歩き出した。
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