少年少女の戦極時代・アフター
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After8 甲殻奇兵 ①
「何で俺たちを……」
「アーマードライダーを排除するのが私の任務だからだ」
「何で俺たちがアーマードライダーだと思ったんだ」
「知れたこと。ヘルヘイムにまつわる全てが地球外へ出た今、ロックシードを持つのはライダーのみ」
鍬木と話しながら、ペコが背中に隠して差し出したのはスマートホンだ。
――連絡っ。戒斗さんに――
囁きにはっとしたチャッキーは、スマートホンを受け取って戒斗の電話番号を画面に呼び出そうとした。
「痛っ」
手に鋭い衝撃が走り、手からスマートホンを落としてしまった。
痛みに手を押さえながら地面を見下ろした。
落としたスマートホンの近くに転がっているのは、知恵の輪のリングの一つ。
ペコがずっと前にしていたスリングショットと同じだ。鍬木は知恵の輪のリングを目視できない速さで飛ばして、チャッキーの手からスマートホンを弾き飛ばしたのだ。
「チャッキーに何しやがる!」
「ちょ、ペコ!?」
ペコが鍬木に殴りかかった。鍬木はペコの拳を躱す。ペコは止まらずパンチやキックをくり出し続ける。鍬木はそれらを避け、受け流している。
(ペコってこんなにケンカ慣れしてたっけ? ザックは元アーマードライダーだから分かるけど)
ペコのパンチを鍬木が躱し、ペコが鍬木の横につんのめった――かと思われた。
「でりゃあ!」
ペコは鍬木の脇腹に両腕を回し固め、鍬木を抱え上げてバックドロップで石の回廊に沈めた。
ペコが荒い息をしながらも立ち上がった。
「凰蓮流捩り式バックドロップ! 見たかこの野郎!」
「ペコ、やるじゃん! どうしたの、それ」
「実は凰蓮のオッサンにちょっとだけ護身術教えてもらったんだよね」
ペコは得意げに胸を張った。
最近ステージで踊る日が減ったのは凰蓮の訓練のためだったのか。チャッキーはようやく腑に落ちた。
「バックドロップって護身術?」
「そこは俺も疑問に思ったけど聞けなかった」
謎である。これにはチャッキーもペコと揃って首を傾げるしかなかった。
「これが沢芽市のアーマードライダーの変身前の実力か」
むくり。鍬木が何事もなかったかのように起き上がり、立ち上がった。
「インベスだから手加減なんてしなかったのに……!」
「あれでか? だとしたら貴様はライダーの中でも低い実力の持ち主なのだな」
「~~っならもういっちょ!」
ペコが再び鍬木に向かって行った――が。
「お前の動きはすでに見切った」
再び鍬木の脇に回り込もうとしたペコの、髪を、鍬木は掴んで、上に引っ張った。
「い…ぎ…っ」
「やだ、ペコ!?」
鍬木はペコの髪を掴んだ腕を大きく振り、ペコを地面に転がした。
鍬木は転がったペコの胸板を踏みつけた。強く圧をかけているのが、ペコの痛がり様からチャッキーにも分かった。
「やめて! お願い! ペコ死んじゃう!」
「アーマードライダーは排除する。それが任務だ。――お前も」
鍬木の目がチャッキーに向いた。無感動なまなざし。チャッキーも本当は怖かったが、勇気を総動員して鍬木を睨み返した。
「ロックシードを持っているなら、早くドライバーを出して変身したらどうだ」
はっとした。ヨモツヘグリロックシードはチャッキーの手の中にあるまま。
「――あたしたちはアーマードライダーじゃない」
鍬木が訝しさを露わにする。
「でも、戦えないわけじゃない」
チャッキーはヨモツヘグリの錠前を開錠した。
――宙にクラックが開き、ずどん、と“それ”は落ちてきた。
脚は枯れ木の根、背中はハリネズミ、頭部は剣山。肩は大きな貝殻らしき物で覆われ、手だけが細すぎる長い骨。
イザナミインベス。
このロックシードでしか呼び出せない、特殊なインベス。
光実や城乃内は未だに変身できる。つまり、ロックシードはまだどこかのヘルヘイムの森と繋がっている。ならばインベスも召喚できるはず。チャッキーはそう考えた。
(ミッチは連絡しろって言ったけどきっと間に合わない。今、ペコを助けられるのは、あたしだけなんだ)
チャッキーはヨモツヘグリの錠前を叩くように閉じた。
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