化かす相手は
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2部分:第二章
第二章
「この列は。さっきより長くなっていないか?」
「これはかなり待ちそうだな」
「まあいいではないか」
ぬらりひょんは彼等を宥めるようにして声を出してみせた。
「それはな。構うことはない」
「構わんか」
「山の中にいると思えばよいではないか」
「それもそうか」
「そうじゃ。だから待つとしよう」
こう仲間達に言う。
「丁度ほれ。食い物でも口にしながらな」
「おお。そういえばじゃ」
「見ろ、あそこを」
傘が傘に化けた状態で言ってきた。ただ傘になっていればいいのだから彼はかなり楽だった。
「あそこの菓子か何か凄い美味そうじゃぞ。あれを食いながら待ってはどうかな」
「おお、そうじゃな」
「それはいい」
仲間達もそれに頷き一人が菓子を買いに行った。そうしてそれを食べながら芝居を待つ。芝居までそれを食べながら時間を潰した。そして待ちに待った芝居を観てそれから堪能した顔で小屋から出たのだった。
「いやあ、中々」
「面白かったのう」
彼等は口々にその堪能した顔で言い合う。
「出雲阿国とかいったのう」
「うむ」
芝居をしていた女の役者の名前が出た。
「人間の女じゃが中々いいものじゃった」
「あの神様の。ほれ何というたか」
河童は頭が禿げて背の小さい侍になっていた。
「何とかいうじゃろう」
「何とかでわかるか」
「あれじゃあれ」
無理矢理目を動かしてついでにもう一方に目を作って入れた一つ目小僧に対して言う。
「アメノウズメとかいったな」
「ああ、あの神様か」
「あれに匹敵するよさだったのう」
「それは褒め過ぎではないのか?」
「褒め過ぎではないぞ」
殆どそのままの天狗に対して少しムキになって言葉を返した。
「あれはまことに。素晴らしきものよ」
「やはり褒め過ぎじゃ」
「全く」
「わしは菓子がよかったのう」
鬼は今度は水飴を舐めている。壺ごと左手に持ちそこに大きなヘラを突っ込んで次々に口に入れている。その大きな口の周りが飴べったりと濡れている。
「この水飴にしろな。安くなったわい」
「そうそう、菓子も安くなった」
「全くじゃ」
妖怪達は今度はこのことを言い合うのだった。
「その五十年前までそれこそ貴族の屋敷にこっそり入ってじゃったのに」
「今ではおおっぴらに買って食える。全然違うのう」
「違うなんてものじゃないぞ」
鬼は仲間達に答えた。
「この水飴なんてもう。寺の糞坊主が持っておればいいもので」
「そうじゃったな」
「味も全然違う」
舐め続けながら言う。
「格段に甘くなっておるわ」
「しかし。あれじゃろ?」
一つ目小僧が怪訝な顔で仲間達に尋ねてきた。
「何じゃ?」
「まだ人は戦をしておるのじゃろ」
彼が言うのはそれだった。
「確か。それは」
「うむ、その通りじゃ」
彼の言葉にぬらりひょんが答えた。
「まだあちこちで戦が行われているぞ」
「それでどうして都はここまで急に」
「そのきんきん声が頑張っておるらしい」
「そいつがか」
「うむ、そうらしいな」
ぬらりひょんはこう仲間達に対して述べた。
「どうやらな」
「ふむ。きんきん声のう」
「どういった奴か」
彼等も話を聞いていて次第に彼に対して興味を持ちだした。
「見てみたくなったな」
「そうじゃな。それではだ」
「うむ。我等の見るのはな」
ここで彼等の心に悪戯心を宿らせる。これはほぼ妖怪の習性のようなものだった。
「見方はわかっておるな」
「驚かすか」
「その通り。では早速そのきんきん声のところに行ってやるか」
すぐにこうすることに決まったのだった。ここまでの話の流れは実に早かった。こうして彼等はそのきんきん声を驚かすことにしたのだった。
だがここで。一つの問題があった。
「それはそうとしてじゃ」
「どうしたのじゃ?」
輪入道が子泣き爺の声に顔を向けた。
「そのきんきん声は何処におるのじゃ」
問題はそれだった。彼等はきんきん声が何処にいるのか知らないのだった。
「都なのか?」
「そうではないのか?」
彼等はただ何となくこう思うのだった。
「都をここまで立派にさせたのだからな」
「そうじゃないのか?藤原だの足利だのも都におったしの」
「あの平とかいうのもな」
「うむ。それならじゃ」
彼等は自分達の記憶を辿って話をする。話をしていってそれが自然だと思っていたのである。ところがだ。都で遊んでいるうちにそうではないらしいということがわかった。
「そのきんきん声じゃがな」
「うむ」
彼等は夜鴨川のほとりで車座を囲んで飲んでいた。辺りに人はおらず都で買った酒や御馳走で宴を開いていた。鬼火を灯りに出してそれを頼りに明るく楽しんでいる。
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