少年少女の戦極時代・アフター
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After12 光に焦がれたカラス ②
その子が「来てほしいとこ」は海浜通りだった。
アベックやらペットの散歩やらジョギングに勤しむ人やらで、通りは賑わっている。
「どうしてこんなとこに?」
光実が尋ねても、その子は答えなかった。
「アーマードライダー龍玄」
その子はおもむろに学生鞄を放り捨てた。
「この沢芽市の正義の味方なのよね。呉島くんは」
「……そんな重苦しいものじゃないよ。僕のはただのヒーローごっこだ」
去って行った紘汰のようになりたくて、がむしゃらに戦っただけ。
「ごっこでもヒーローなら、目の前にバケモノが現れたら、殺してくれるわよね」
「あのさ。さっきから何を」
体ごとふり返ったその子が――変貌した。
黒い羽根。黒い体毛。黒いくちばし。どう見ても、カラスをモチーフにした怪人だった。
「オーバーマインド……!?」
光実はとっさに距離を取り、学生鞄から戦極ドライバーとブドウの錠前を取り出した。
『そウヨ。ワケの分かラナイ果物なんカ食ベて、バケモノにナッて、地球かラ連れ去らレタ。なりタくテなッタわケジャないノニ。ヒドイ、ヨ』
カラスインベスが片翼を揮った。ソニックブームが生じ、通りにいた人々がカマイタチに遭ったように裂傷を負った。
のどかだった公園に悲鳴が満ちる。
光実はブドウの錠前を開錠し、装着した戦極ドライバーにセットし、カットした。
「変身」
《 ブドウアームズ 龍・砲・ハッハッハッ 》
紫翠の中華鎧が光実を覆い、龍玄へと変身させた。
と、同時に、カラスインベスは空へ舞い上がり、飛んで行った。
『くそっ――待て!』
龍玄はカラスインベスを見失うまいと、何度も空と正面を見ながら、カラスインベスを追跡した。
やがてカラスインベスが降り立ったのは、海に面した、立入禁止の鉄柵に囲まれた一画だった。
龍玄は鉄柵をジャンプして乗り越え、カラスインベスに向けてブドウ龍砲を、撃った。
カラスインベスは――避けなかった。
むしろ両腕を広げ、自ら銃撃を浴びた。
『どうして……』
『……1年の頃、まだわたシ、自分の背ノ高サがコンプレックス、だッタ。男子よリも高クて、からかワレテばっかデ。勝手ナ期待、されテばっカデ。でも一人だけ、「カッコイイ」って言ッテくれタ人がいた。アなタヨ、呉島クん』
龍玄は混乱した。光実としての学生生活でそんな記憶はない。あるいは、あったとしても忘れてしまっていた。
『呉島くんガ、あそこでカッコイイなんテ、言ってクレタ、カら。嬉しカッタ。高い背が気ニならナくなった。呉島くんハ、ワタシの恩人なノ。だカら、こんな体二なっタ時、呉島くんに殺サレたイ、思ッて、帰っテキた』
カラスインベスはふらふらと龍玄に迫ってくる。
カラスインベスに攻撃の意思はない。何故なら彼女の望みは「光実に殺されること」だから。
そのためにこの子は地球へ帰って来たのだから。宇宙の塵と消えるリスクを侵して、バケモノとして囚われる危険を顧みず。
『呉島くん、オね、ガ、イ』
『どうして――生きればいいじゃないか。死ぬ必要なんてないじゃないか!』
この街には妹や戒斗といった、ヘルヘイムを克服してヒトとして生きている実例が二人もいる。この子もそうなれないことはないはずだ。
この子は学校では完璧に人間だった。光実に数式の答えを教えてくれるくらいには頭脳もある。それならば沢芽市で人間として生きていくのに不都合などないはずなのに。
カラスインベスは首を横に振った。
『ワタシタチ、インベス。ヘルヘイム、ノ、果実、食べナイと、死ヌ。ワタシハもウ末期ッて、ロード言った。今日ガ、ワタシが人間ラしくいラれるリミット』
ヘルヘイムの果実は地球上のどこにもない。全て紘汰と舞が持って行った。
オーバーマインドと名乗ろうが、本質はインベス。食糧になる果実がなければ、餓死するしかない。
『――――分かった』
龍玄はカッティングブレードを2回倒して、ブドウ龍砲を、至近距離に来たカラスインベスの胸に押し当てた。
《 ブドウオーレ 》
『さよなら。ごめん』
龍玄はレバーを引き、トリガーを引き絞った。
かつて龍の息吹と称された紫の光弾は、カラスインベスの胸部に留まらず胴体をぐちゃぐちゃに破砕し、爆散せしめた。
『ごめんね。最後まで名前、呼べなくて。ノート見せてくれて、ありがとう』
後書き
光実に春が来た! と思ってくださった皆様、申し訳ありません。春、来ませんでした。
カラスインベスの女の子は、自作です。別の鎧武二次で使おうと思っていたキャラクターを使いました。
名前も性格もちゃんと設定してあったのですが、出せたのは長身のコンプレックスと光実への憧れ部分だけ。ちょっと寂しい……(/_;)
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