少年少女の戦極時代・アフター
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After13 “ロード・デューク”
人混みの中にあって他人と肩がぶつかるくらいは、よくあること。
スクランブル交差点を渡っていた戒斗も、すれ違った誰かと肩が接触した。相手が何も言ってこなかったので通り過ぎようとして――勢いよくふり返った。
短い白衣に、メッシュが入った一束ねの髪。
その後ろ姿に嫌というほど見覚えがあった。
(戦極、凌馬?)
戦極凌馬が生きているはずがない。初めてロード・バロンになった日、戒斗は確かに凌馬をこの手で葬った。
(だが、俺は咲に蘇生された。奴が何らかの方法で生き延びていることも、ありえなくはない)
今追わなければ、凌馬に似た男は人混みに流されて消えてしまう。
戒斗は仲間へのメール報告の時間も惜しんで、その男を尾け始めた。
男は徐々に人気のない方向へと突き進んでいった。
人波にまぎれにくくなりながらも、物陰に隠れるなどして、戒斗は男の追跡を続けた。
この間に光実たちの中の誰かにメールなりすればよかったのだろうが、なぜか、この男は目を離した瞬間に掻き消えるという嫌な予感が拭えなかった。
やがて男は、去年のヘルヘイム災害以来、廃棄区画となっている工場地帯で立ち止まった。
「鬼ごっこはここまでにしないかい?」
そうだ。戦極凌馬もこんな声だった。
戒斗は資材の角から出た。
「貴様は戦極凌馬なのか」
男はくす、と笑み、ふり返りながら――怪物に変異した。
「オーバーマインドか」
戒斗が赤と黄なら、そのオーバーマインドは、青と黄をベースとしたステンドグラスを全身に貼りつけたような模様をしていた。目だけが、ヘルヘイムの植物を思わせる深緑色。
『ああ。ハジメマシテ。駆紋戒斗君。それともキミとしてはお久しぶり、とでも言ってほしいかな? だがどちらにせよ、私の名は「戦極凌馬」ではなくなったんだ』
「――なに?」
『キミ、ロード・バロンって呼ばれてるんだって? 私もあやかって、ロード・デュークと名乗っているんだよ。ただの“ロード”じゃつまらないからね』
自らデュークを名乗っている。戒斗の中で疑念が強まった。
本当にこれは戦極凌馬のオーバーマインドではないのか。口調といい、ヒトを見下した態度といい、何より姿といい、凌馬を思い出さずにはいられない。
「今までのオーバーマインドが“ロード”と呼んで従っていた相手は貴様か」
『ま、一応、オーバーマインドのトップに祭り上げられちゃったからね。これでも期待された仕事には応えるのが私のポリシーなんだ』
「ならば貴様がオーバーマインドを地球に連れて来た黒幕か。地球でオーバーマインドを暴れさせて、一体何が目的だ」
『黒幕なんてとんでもない! 私はただ、故郷へ帰りたいと願う人々に、少しの知恵と手段を与えただけ。帰った後の彼らがどこで何をしようと、それは私の与り知らぬことだよ。それに彼らはあくまで本当にこの星へ帰れるか試すための先発隊。むしろ志願した勇気を讃えるべきではないかな』
殴りたい。
心からそう思ったが、実行しなかった。
今のは、相手の腹を探るなど、似合わない真似をした戒斗が悪い。
(小難しいことを考えるのは別の奴の役目だ)
相手が怪人ならば、こちらも怪人でなければ敵わない。
そう判断した戒斗は、半径100M圏内に人間がいないことをオーバーロードの卓越した五感で確認してから、自らもロード・バロンに変異し、杖剣を構えた。
『うおぉぉ!!』
『ははっ、そう来なくっちゃ』
ロード・デュークが構えた武器は、ゲネシスライダーが使っていた物よりさらに大きな弓。まるでヘルヘイムの植物で作ったように、弓全体に蔓が巻きつき、所々にヘルヘイムの花が咲いていた。
先攻はロード・デュークから放たれたソニックアロー。ロード・バロンはそれを避けた。
すると、相手の深緑色の両目が妖しく光った。
ロード・バロンは直感任せにその場を飛びのいた。
やはりと言うべきか、背後からソニックアローが飛んできた。
彼が避けたことでソニックアローは方向転換し、再びロード・バロンに狙いを定めて飛来した。
(追尾式の矢か。厄介な)
3度目のホーミングアローを、ロード・バロンは杖剣で斬り落とした。
『やるじゃないか。でも、まだまだあるんだ』
ロード・デュークは連続してストリングを引いては放した。次々とホーミングアローが放たれ、避けるロード・バロンを執拗に狙ってくる。
ロード・バロンは一度工場の壁にぴたりと背中をつけ、アーマードライダーバロンに戻った。
戦極ドライバーのカッティングブレードを3回切る。
《 バナナスパーキング 》
『は――ぁ!』
真正面から飛来したホーミングアローを、バナナ型のソニックブームで全て打ち落とした。
『ここであえて弱体化するなんて。なかなか肝が据わってるじゃないか』
状況に合わせて使い分けているだけだ。
バロンは思ったが、答えてやる義理はなかったので、無言でバナスピアを構えた。
『それじゃこういう趣向はどうかな』
ロード・デュークは天に向けてソニックアローを放った。ソニックアローはバロンの頭上で弾けた。
矢が次々と地面に突き刺さった。問題はその矢の性質だ。
矢の一本一本が実体を持ち、バロンを囲む檻を形作っていたため、バロンはその場から動けなくなった。
『この、程度っ』
オーバーロードに変異すれば破って出ることはできる。バロンは変異に集中して――気づいた。
(オーバーロードになれない!? この矢の檻のせいか!)
正面にいるロード・デュークは弓を肩に担いで愉しげだ。
『その矢は特別製でね。我らが“はじまりの王”と“はじまりの女”さえ無力化したんだよ』
バロンの頭がすぅっと冴えた。
『……にをした』
『ん?』
『舞と葛葉に何をしたッッ!!』
人生で最大の怒号を上げた。
ロード・デュークは答えず、再び大弓のストリングを引き、ソニックアローを連続して放った。
放たれたソニックアローは全てがバロンを射程に捉えている。
それらのソニックアローを、紫の光弾と赤い爆炎が掻き消した。
煙が晴れたそこには、バロンを守るように、ガトリング砲付きの盾を構える斬月が。
『『セイ、ハーッ!!』』
横ざまからは、ロード・デュークに対してライダーキックをくり出す、龍玄と月花が。
ロード・デュークは大弓を盾に二人分のライダーキックを受け、大きく後方に追いやられた。
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