少年少女の戦極時代・アフター
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After11 光に焦がれたカラス ①
“えっと、今日一回こっきりのペアだけど、よろしく。××さん”
“僕も××さんくらい背が高かったらなあ”
“女の子にとっては嫌なこと……だったよね。ごめん。でもやっぱり、僕は、女子が背が高いのってカッコイイと思うよ”
…………
……
…
私立天樹高校の、数ある2年生教室の講堂の一つ。
光実がいつものように模試の過去問を解いていると、段上の入口が急に騒がしくなった。
ふり返って見上げる。教室のドア前で、一人のロングヘアの女子が、数人の女子に囲まれている。
ここからでは話は聴こえないが、剣呑な話ではなさそうだと見当がついた。
よって光実は過去問の復習に戻った。
「おはよう、呉島くん」
突然声をかけられ、ノートに書き込んでいた数式がズレた。
顔を上げて挨拶してきた生徒を見る。その生徒とは、たったさっきドアの前で女子に囲まれていたあの女子生徒だった。
「……おはよう」
挨拶はしたものの、彼女の名を思い出せない。1年の時も同じクラスだったことは覚えているのだが。
挨拶を返してもらえて嬉しかったのか、彼女は顔を綻ばせ、光実から何脚か離れた席へと座った。
翻った黒いベリーロングヘアに対し、カラスの濡れ羽色とはこういう色をいうのだろう、とぼんやり思った。
始業5分前を告げるチャイムが鳴った。このチャイムで生徒は自席に戻って座り、参考書やらを開く。本チャイムが鳴って教師が来る頃には、熱心に予習しているクラスの出来上がりというわけだ。
担任教師の代わり映えしないホームルームが終われば、5分の休み時間を挟んで、1時限目の始まりだ。
今日の1時限目は数学である。
光実は板書そっちのけで、現在の勢力図をノートに書いていた。
(確実に味方なのは、僕、兄さん、戒斗さん、城乃内さん、咲ちゃん。逆に異星側から来たオーバーマインドは、確認されてる限りで曽野村、鮫島、鍬木の3体。侵入者がそんな可愛い数で収まってるとは思いにくい。日本に落ちずに世界中にバラけたなら話は別だけど。とにかく、沢芽市に現れるオーバーマインドくらいは、僕らの手で処理しないと。もう紘汰さんはいない。この街を守れるのは、ドライバーを持ってる僕たちだけなんだ)
「次、呉島。前に出てこの問題を解いてみなさい」
「え? あ、はいっ」
光実は慌ててノートを持って教壇へ下りて行った。
ホワイトボードに並ぶ数式を見て、ノートを見渡して、光実は絶句した。
予習したはずなのに答えがノートにない。
(この辺確か、作戦会議から戻ってやろうと思ってほっといた部分! しまった!)
光実は黒ペンを持ち、知識だけで書ける部分を書いていく。だがそれも限界に達し――
「先生。上の問題、やらせてもらってもいいですか?」
教師が許可を出して、二人目の生徒が光実のそばに寄って来た。今朝挨拶したあの子だ。
並ぶと、その子が光実より頭二つ分は長身だと分かった。
その子はノートを見るフリをしながら、光実の肩を小突いてきた。こんな時なのに。
光実は焦りを隠して彼女のノートを見た。
光実が指名された問題の数式の解答が書いてあった。その下には矢印でメッセージが。
――『これ見て書いて』――
その子はどんどん上の問題を解いていく。
いけない。早く書き写さないと、先にこの子が帰ってしまったら、本当に大ピンチだ。光実は急いで数式をホワイトボードに書き尽くした。
光実とその子が席に戻ると、教師は問題の二つともに赤いペンで〇をして、解説を始めた。
ありがとうを言いたいのに。席が微妙に離れているのがもどかしかった。
放課後。さすがにこの時間は、名門校の生徒であれざわつく。そこでお茶しようだのあそこに寄ろうだの。特に女子の盛り上がりは、光実であっても軽く引く。
「呉島くん」
「……」
「呉島くん」
「え? あ、なにっ?」
光実に声をかけたのは、例のノートを見せてくれた女子だった。
「来てほしいとこがあるの。一緒に帰ってくれない?」
「ええっと、別にいい、けど」
その子はほのかに笑んだ。光実が知るどの女子とも異なる笑い方に、つい見入った。
後書き
光実に春がキタ……?
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