ワールド・エゴ 〜世界を創りし者〜
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world war2-『戦というモノ』-
天冠は、神々の中ではトップクラスの神に位置する存在だ。
認識した存在や概念を問答無用で斬り払い、錬金術を操る神。
その神格は、かの天空神系列最高神格に位置する全能神、《ゼウス》《ダーク》及び《タツ》に匹敵する。
一介の闇がそれを喰らうなど、出来るはずもなかった。
溢れ出す闇はコンマ一秒後には分断され、消え失せる。
再び再生しようにも、その《再生の力》を斬られるのだ。
強い。
幾らましろといえど、ましろ一人の力ではまず勝てないだろう。
あれ程ましろが苦戦した闇を、天冠はほんの数十秒足らずで全滅させた。
「これで宜しいのでしょうか?」
「はい、ありがとうございます」
「礼は必要ありません。私は我が主の命により参上しました故、何なりとお申し付け下さい」
雷雨の中、額に張り付いた髪を払い、丁寧に整った口調で素早く答え、天冠は先の道を見据える。
今回ましろに言い渡された任務は《異世界に存在する神、天冠の通る道を開き、尚且つ連れ帰る事》だ。
恐らくこの調子なら直ぐに戻れるだろう。
彼女は強い。
そこらの敵では傷一つ付けられない。
その前に死んでしまうから。
その前に息途絶えてしまうから。
自分の命を救われたからか、ましろは深く彼女を信用していた。
根拠も無い自身だ。敵に彼女以上の力を持つ者が居ないとも限らない。
だが、彼女ならば、ルークの期待にも答えられるだろう。
彼女の剣は全てを切り裂く。
彼女の剣は総てを祓う。
この戦は勝てる。
少なくとも、この任務は。
そう思った。
--『 』が、其処に現れるまでは。
「……面倒な奴を呼んでくれたな」
「ッ……!」
吹き荒れる暴風雨の中、うっすらと大木の上に佇むその影が見える。
息を呑む。
コイツは不味い。
非常に不味い。
あのルークが危惧する敵。管理者だ。
この闇の元凶。世界断絶を受け入れる者。
そして、『物語』の現し身。
「……ましろさん、彼は敵ですか?」
「……はい、敵です。しかし余りにも強過ぎます、ここは一旦引いて__」
ましろは一歩後ろに下がり、天冠を連れ、逃げようとした。
幾ら天冠とはいえ、この敵は荷が重い。
さっきとは真反対の、そんな事を考えた上での行動。
だが、その天冠は。
「--撫で斬りにいたします」
既に攻撃を仕掛けていた。
凄まじい斬撃音。
落ちる雨雫一粒一粒が揺るぐ事なく分断され、その先に存在する『 』へと迫っていた。
『 』は動かない。
否、動かない『ように見えた』。
不可視の斬撃は、何も無い虚空を虚しく切り裂いた。
--躱された……ッ⁉︎
ましろは驚愕する。
天冠が攻撃を仕掛けた事についてではない、その天冠の攻撃を《躱した》『 』に驚愕したのだ。
彼女の攻撃は物理的な物ではない。
認識した物を分断する。
其処に準備や過程は無い。
現れるのは結果のみだ。
つまりは、『躱せる筈が無い』のだ。
だが、実際『 』は躱して見せた。
当の本人である天冠はさして驚く事もせず、流れるように次の動作に移っていた。
腰の鞘から美しい日本刀を抜き放つ。
曇天の隙間から漏れる太陽の光を反射し、美しい輝きを魅せるその刀は、
最初の一瞬以外に、ましろの眼に留まる事は無かった。
破裂するような衝撃音が響き、天冠の姿が消える。
刀から反射された太陽の光の残光だけがその軌道をましろに教え、しかしその速度は本来の一割にも追いつけていない。
『 』の持つ『剣』が大地を裂き、天冠の持つ刀が天を斬る。
衝撃音が、まるで一つの音を機械で引き伸ばしているかのように響き続ける。
間隔が空いていないのだ。
『 』の『斧』を、天冠の刀の柄が受け止める。
天冠の不可視の斬撃を、『 』の『殺気が』弾き飛ばす。
「シィィィィィッ‼︎」
天冠が刀を引き戻し、そして突き込む。
当然のように空気が割れ、直線上の天地が分断された。
だが、『 』には当たらない。
今度は、『 』の『槍』が天冠へと迫り、そしてその右掌に当たり、刺さる事無く止められた。
勢いを総ての筋肉に分散させ、指先に加わる力程度では刺す事すら出来なくなるまで弱めたのだ。
これも勿論、天冠には通じない。
「……少しはやるか」
「……貴方こそ、私と此処まで戦えたのはゼウス殿以来です」
「俺をあの程度の低級な存在と一緒にして貰っては困る……なッ‼︎」
『拒絶』の性質を込めた殺気を放ち、天冠を弾き飛ばす。
拒絶をまともに受ければ身体中が他の原子を拒み、内部から崩壊する筈だが、
それが無いという事は天冠が『拒絶』を斬ったということ。
「……やはり、一筋縄では行かないな」
闇を、創り出す。
大地から。
天空から。
大海から。
総ての自然から、負の感情を具現化する。
闇を、具現化する。
世界の『闇』を、具現化する。
闇は、世界を喰らい始める。
闇は広がり、樹を。土を。草を。水を。風を。
構う事なく喰らっていく。
抗いようの無い絶望が降り注ぎ、天冠の視界を埋め--
「闇は、もう斬り飽きました」
直後に、切り捨てられた。
広がった闇は消し飛び、喰らった自然を吐き出した。
「……ッ⁉︎」
「--ハァッ‼︎」
それは、0.001秒の間だった。
『 』の驚愕から来る、たった0.001秒の硬直。
たったそれだけの硬直、それだけの隙。力のある者でも、突きようのない短い隙。
だが、それでも--
天冠の前では、致命的だった。
刀は、地を斬り、空を斬り、雨を斬り、雷を斬り--
その刀は、『 』を貫いた。
◇◇◇◇◇
「天冠さんッ‼︎」
天冠の身体が崩れ落ちる。消え去った『 』を貫いていた刀が、天冠の手から転がり落ちた。
「……ッ、申し訳ありません、負傷致しました。数刻で治療出来ますので、お構い無く」
「いえ、無理矢理にでもさせて貰います。じゃなきゃ《白亜宮》メンバーの名が泣きます」
戦いを始めたのが天冠とはいえ、何も出来なかった自分を責める様に、半ば意地で治療を始める。天冠の身体には、戦闘中には気付かなかった大量の傷が存在していた。
まるで爛れた--いや、溶けた様な、そんな傷が。
「闇--ですね」
やはり、『 』を倒すのに無傷とは行かないらしい。幾ら倒せたとはいえ、この怪我の量は重傷だった。
『 』が貫かれたその時、『 』が闇を天冠にぶつけたのだ。
__タダでは死なないという訳か。
「勝ててないですよ」
思考に割って入るかの様に、天冠のそんな言葉が聞こえた。
「……え?」
「勝てて居ません。撃退しただけで、あの存在は無傷です。もっと力を付けねばなりません」
再びましろに驚愕が襲い掛かる。
__そんな馬鹿な
此処までの傷を負って、あそこまでいい勝負をしたのに、無傷だと言うのか。
そこまで、敵は圧倒的だと言うのか。
ましろの中には、少しだけ余裕があった。
此処までの実力者が揃えば、絶対に目的を果たせるだろう。そんな余裕が。
--誰がそんな事を言った?
これは余裕では無い、油断だ。
こんな事では、到底勝てない。
敵は余りにも巨大だ。それを、今更ながらましろは思い知った。
--力を。
--力を得なければ。
天冠の言う様に、抗えるだけの力を。
「……天冠さん、少し全力で走ります。捕まって下さい」
背に天冠を抱え、ルークから授かった力を使う。
踏み込むと同時に一気に景色が流れ、空を駆け抜ける。
恐らく、他のメンバーでもまだ勝てないだろう。
他の任務に当たっている仲間は、文字通り世界中に散らばった。
その全員がましろ本来の力よりも強い。
逃げる事なら出来るだろう。だが、勝つ事は到底不可能だ。
闇は恐ろしく強大だ。
例え死の淵まで近寄ろうと。
例え刃が喉の皮を切り裂いても。
力を--得なければならない。
ましろは、たった一人決意した。
世界転生まで、あと50時間。
《滅びの依り代》の完成まで、あと48時間。
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