ワールド・エゴ 〜世界を創りし者〜
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『終末戦争』-The end of ragnarok-
world war1-『降臨せし刀神』-
流星が空を駆けた。
続くように、数多の流星が空を横切る。
その無数の流星群は、消えることなく大地に沈み、破壊の雨を降らした。
別の世界では大竜巻が巻き起こり、人口が集中する街を削り取っていった。
真空の刃が電線を刈り、巻き上げられた砂がその勢いだけでガラスを粉々に割った。
自然が、人類に攻撃を始めた。
まるで、自らを好き勝手に使った人間への復讐でも果たそうとするかの様に。
或いは、滅亡を感じ取り、恐怖のあまり狂った様に。
世界自身が、人類を排除しようとするのだ。
人はそれに抗えない。
自然は、人類が生き延びるのに必須の要素でありながら、人類を容易く消し去る事すら出来るのだ。
世界が破滅するまで、もう時間は無かった。
◇◇◇
ましろは、ひたすらに道を駆け抜けた。
後ろから猛スピードで追ってくる、人の形をした二つの闇に襲われているのだ。
勿論、ましろほどの力を持ってすれば、この存在を打ち倒す事など簡単だ。
だが、今のましろにはその時間と余裕が無かった。
「くっ……しつこいですね!」
逃げつつも異能の力で強化した手榴弾を数発転がす。
元々の《性質》とルークの施した異能の力が合わさり、下級の神程度なら一撃で粉砕するレベルとなったその爆弾は、
しかしその闇を消し切ることは出来なかった。
闇は片足を失いつつも、いつの間にか表した闇翼で飛翔し、未だましろを追い続けた。
「くっ……!」
とある目的の為に異能を使えないましろは一旦急ブレーキを掛けて、両手にクロー__正式名称、《超震動神格兵器:第四型試作八号機改》を展開し、闇に斬りかかった。
ましろの急な攻撃を予測していなかった、闇の片方はあっさりと切り裂かれ、その体を散らす。
だが、反応できたもう一方は距離を取り、ましろにその手を突き出してくる。
空気を切り裂き、振り抜かれてきたその貫手をましろは間一髪で躱し、お返しにと言わんばかりに特殊なエネルギーでコーティングした回し蹴りを入れる。
それだけで闇の頭は千切れ飛ぶが、やはりその程度では死なない。
頭を失った闇は、それでもまた貫手を放ってきた。
これがただの貫手ならば受け止めるのも容易いが、この《闇》には『侵食』の性質がある。
要するに、触れると溶けるのだ。それも猛スピードで。危なくてマトモに近づけない。
先程の回し蹴りの様に、ルークから渡された謎のエネルギー体を纏わせることで侵食を防げる様だが、その量にも限度がある。
使いまくっていれば、すぐにでも底を尽きてしまう。このエネルギー体の状態はましろも把握していない為、生成のしようが無いのだ。
貫手は、ましろの髪を数本千切りながらも当たる事はなく、闇はすぐにましろのクローに引き裂かれ、消えた。
一つ安堵の溜息を吐き、再び進行方向へと向き直る。
視線の先に佇むは--Parthenōnと呼ばれる神殿。人間が世界遺産などと言っているが、別にそれは関係無い。
重要なのは、其処が神を崇める場所だという事。つまり、その神殿自体が、強い神気を帯びているという事。
本来、其処はギリシア神話の女神、アテネを祀る神殿ではあるが、神気があるのなら問題無い。『開く』には十分だ。
一気に跳び、神殿の入り口へと立つ。
中は大して広くは無い。少し歩けば、直ぐに中央に到達した。
パルテノン神殿は、黄金比に基づいて建造されている。
そういえば昔、この黄金比を戦闘に使うとかいうバトルマンガがあったなぁとどうでも良い思考に浸りながら、ましろはその右手を天に掲げた。
同時に、ましろの視界の端で、闇が蠢いた。
「ッ……‼︎まさか、もう来たというの⁉︎」
パルテノン神殿は、中から外まで吹き抜けだ。吹き抜けの先の地平線がくっきりと見える。
その地平線上に、闇が迫っていた。しかも、途轍もなく巨大。
あれが来れば、幾らましろとはいえ対処出来ない。だからと言って此処を落とされれば、かの《神》を誘えない。
直ぐに務めを果たすしか無いと判断したましろは、もう一度クローを構え直した。
自分の中の全ての異能。そしてルークから預かった異能の総てをクローに__いや、正確には、《ストライクディメンション》に回す。
次元を貫く一撃を、徹底的に強化する。
あの《神》がいる世界と、この世界の間を阻む《次元》を、この一撃で打ち壊すのだ。
《次元》の数は膨大だ。幾重にも及ぶ次元が、この世界への道を閉ざしている。
ならば、貫くしか無い。
この一撃で、道を開くのだ。
失敗すれば終わり。ルークの計画は崩壊し、ましろも死に、世界は滅ぶ。
すぐ近くには、もう闇が迫っている。その速度はもう桁外れにも程がある。
貫け。それだけを考えろ。雑念を混じらせるな。細く。強く。一点に--
「『ストライクディメンション』……Lv.10‼︎」
時空が、割れた。
空間に大穴が開き、その先の次元すら突き破る。
その先、その先、その先へと--
闇が一層、その速さを高めた。
もう神殿のすぐ表に到達した。後はましろに襲いかかり、その全身を喰い尽くすのみ。
次元は壊れ続けている。一撃は未だ衰える事なく、突き進んでいく。
闇が迫る。
次元が砕ける。
闇が降りる。
次元を裂く。
闇が、降りかかる。
「--撫で斬りにいたします」
闇の中に、一筋の光が走った。
同時に闇は斬り裂かれ、その存在を散らす。
ましろは、その現象の原因を直ぐに見抜き、そして自分の役目は成功したのだと安堵した。
次元の穴から、一つの人影が舞い降りる。
長身の、美しい女性だった。
「--我が主の命で参上仕りました。天冠というものです。以後、お見知り置きを」
流れる様に自らの名を詠み、《総てを斬り捨てる神》はぺこりと頭を下げた。
--さあ。
--反撃の糸口、掴んだり。
ましろは、自然と顔に笑みを浮かべていた。
世界転生まで、あと52時間。
《滅びの依り代》の完成まで、あと50時間。
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