自分の力で
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第六章
「僕がいて悪いのか」
「いや、悪くはないです」
「ただ、またかと思うだけで」
「それだけです」
「少し騒がしいなと」
「そうか、では静かにしよう」
この場は、というのだ。
「しかしだ」
「はい、しかしですよね」
「ミス=ソフィアの歌はですね」
「最高だったというのですね」
「貴方達も聞いた筈だ」
しかとした声でだ、ジョアンは言うのだった。
「今日の椿姫、最高の舞台だった」
「はい、ミス=ソフィアもよかったです」
「いいヴィオレッタでした」
「舞台は成功でした」
「確かに」
その通りだとだ、他の観客達も認める。
「歌だけでなく演技も」
「素晴らしいヴィオレッタでしたよ」
「また成長しましたね」
「その通りだ、本当にいい舞台だった」
ジョアンは彼等の言葉にうんうんと満足している顔で頷く、そのうえでこうも言うのだった。
「ソフィアと共に素晴らしい舞台を提供してくれた共演者、指揮者とオーケストラの諸君、演出家と舞台設定の方々全てに感謝を」
「決して悪人じゃないんだよな、この人は」
「騒がしくて一途なだけで」
「それが過ぎるだけで」
「別に」
周りはその彼を見てこうした言葉は小声で囁いた。
「曲がったことはしないし」
「いい人なんだよ」
「ただ、なあ」
「もう少しなあ」
ここから先はあえて言わなかったが誰もが思っていることだった、とにかく何かと難しいのがジョアンだった。
しかしジョアンは止まらない、コヴェントガーデンの上演は成功だったがネットでこうした書き込みがあってだ、彼は激怒したのだった。
「何ィ!?僕が家の力を使ったというのか!」
「はい、ネットでそうした書き込みがありましたが」
執事が彼に言うのだった。
「そのうえでソフィア様を」
「コヴェントガーデンでヴィオレッタを歌わせたというのか」
「その様に書いています」
「そんなことがあるか!」
彼は自宅で激怒して叫んだ。
「僕はそんなことはしない!」
「はい、旦那様は」
「卑怯なjことはしない!我が家の、そして僕の名にかけて!」
それは絶対と言うのだ。
「その様なことはしないしだ」
「ソフィア様もですね」
「ソフィアの実力だ」
全てはそれによってというのだ。
「コヴェントガーデンでヴィオレッタを歌ったことも成功させたことも」
「全て、ですね」
「そうだ、ソフィアの実力だ」
それによるものというのだ。
「それ以外の何でもない」
「その通りです」
「ソフィアの実力は本物だ」
断言するジョアンだった。
「ただ僕はそのソフィアを評価しているだけだ」
「歌手として、ですね」
「そして人間としてのソフィアを愛している」
こうも言うのだった、ここで。
「それだけのことだ」
「しかしそうした書き込みが」
「それを見せてもらう」
是非にと言うのだった、執事に。
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