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自分の力で

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第五章

「レディーに支払わせるなんて」
「私の分は私で払うわ」
「お金のことは気にしなくていい」
 資産家だからだ、彼自身。
「君は歌に専念するんだ」
「そういう問題じゃないわ、私もお金はあるしそれ以前に」
「自分のことはと言うのかい」
「自分のお勘定位自分でするわ」
「そこまで言うのかい?」
「ええ、貴方は貴方の分だけ払って」
 そして、というのだ。
「私の分は払うから」
「ソフィアは甘えないんだね」
「甘えることはしないわ」
 実際にそうだと言うソフィアだった。
「そういうことは好きじゃないから」
「全く、遠慮が過ぎる」
「遠慮じゃないわ、図々しいこととかは好きじゃないから」
「そこがソフィアのいいところだけれど」
「とにかくね、私のことはね」
 こうした勘定のこと以外にもというのだ。
「自分でするから」
「だからなんだ」
「ええ、貴方は貴方の食べた分だけ支払ってね」
 こう言ってジョアンに支払わさせなかった、そして舞台に出てだった。
 ソフィアは歌うのだが楽屋はジョアンの家のメイドやガードマン達で固められていた。それは劇場の関係者達も苦笑いだった。
「またミスター=ジョアンか」
「あの人は本当に困った人だな」
「ミス=ソフィアも大変だよ」
「これじゃあ要人の警護じゃないか」
「確かに身辺警護は大事だけれど」
 それでもというのだ。
「あそこまでの警護はな」
「ちょっとやり過ぎだよ」
「本当にあの人ときたら」
「悪い人じゃないけれど」
 この後に来る言葉は決まっていた。
「困った人だよ」
「全く、やること為すこと過ぎるから」
「特にミス=ソフィアのことときたら」
「もう過ぎるなんてものじゃないから」
「やれやれだね」
 こう言うのだった、そしてジョアン自身は貴賓席にいてだ。
 そこでソフィアの歌と演技を観てだ、アリアを歌い終わる度にだ。
 真っ先にだ、拍手をして言うのだった。
「ブラボーーーー!」
 明らかにソフィアへの賛辞だ、それを続けてだった。
 舞台が終わってカーテンコールになるとすぐにだ、自分の執事に言うのだった。
「用意は出来ているね」
「はい」
 執事もわかっている返事だった。
「あれをですね」
「ソフィアに贈るんだ」
「それでは」
 執事も応えてだ、すぐにだった。 
 カーテンコールに出て来たソフィアに薔薇、それも最高級の紅んそれの花束が贈られる。そしてジョアンは言うのだった。
「今日も最高の舞台だったよ」
 こうだ、自ら舞台のソフィの足元に投げて言うのだった。舞台と観客席の間にはオーケストラのボックスがあるのでそこまで行けないから投げたのだ。
「本当に」
「有り難う、ジョアン」
 ソフィアはその花束と言葉には感謝の意を述べた、だが。
 すぐにだ、ジョアンはこう言うのだった。
「この最高の舞台に難癖つける奴は僕が許さない!白い手袋を投げてやる!」
「うわ、またこの人か」
「やっぱりここにも出たな」
 観客達はそのジョアンを見て呆れるのだ。
「ミス=ソフィアいるところこの人あり」
「ケンジントン家の三男さんか」
「毎回毎回よく騒ぐよ」
「厄介な人だな」
 最早有名人になっているジョアンだった、だが。
 それを気にする彼ではなくだ、周りに言うのだった。 
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