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遊戯王GX 輪廻に囚われし赤

作者:ユキアン
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エクゾディア




「シエンでダイレクトアタック!!」

「ぐわああああああ!!」

ザンジ LP700→0

「カオス・ネクロマンサーでニサシに攻撃!!」

「馬鹿なああああ!!」

ヤリザ LP2400→0

「クソ、めんどくせえ。ツァン、そっちは大丈夫か」

「なんとかね。後残ってるのって誰?」

「大将軍 紫炎と侍従、ご隠居の三人だ」

「侍従とご隠居は任せていいかしら」

「ああ、任せておけ。分かってると思うけど油断はするな」

「分かってる。そっちこそ負けないでね」

ツァンが奥へと進むのを見届けてから後ろを振り返る。奥の方から侍従とご隠居がゆっくりと近づいてくる。まあ、歳のせいで走りたくないのだろう。

「サイ・ガール、手伝え。タッグで潰すぞ」

「了解。久しぶりに頑張っちゃうよ~」

デッキをメインデッキに入れ替えてデュエルディスクを構える。

「行くぞ」

「「「「決闘!!」」」」














「あ~、もう疲れたわ」

「姫、お疲れ様です」

昨日の気まずいままの雰囲気の中、朝から六武院に連れて行かれて遊矢が門を蹴り飛ばして開けたおかげで六武衆全員と戦う羽目になってしまった。なんとか全員を倒し終わった後に私のパートナーになってくれるように頼むと快く引き受けてくれた。それも六武衆全員がだ。

私は彼らを引き連れて魔法使い族の里に帰ってきて借りている家のベッドに倒れ込む。精霊界での決闘は普通の決闘とは違って、精神的に疲れる。ちょうど闇の決闘と普通の決闘の中間に当たるからだ。おかげで今日は一歩も動けそうに無い。遊矢は私をここに連れ戻してからサイ・ガールと一緒にどこかの精霊界に向かってしまった。

何でも、未来では力を貸してくれていた精霊に再び力になってもらえる様に交渉しに行っているらしい。強力な精霊から順に会いに行っているので帰りは遅くなるそうだ。

何でも神と呼ばれるカードは何枚も存在しているらしいし、神に近い力を持つカードもあり、それらの力を十全に扱う為には精霊を使役する必要があるそうだ。

そして、精霊と決闘者には波長がある。その波長が合う物同士はいずれ必ず出会う運命にあって、互いの力を合わせて戦うのだそうだ。これが一般の精霊使いの出会い方。遊矢に波長が合う精霊は次元サイキック族と呼ばれるカテゴリーで、メインデッキとなっている。

だけど、それだけでは力が足りない時があるので他の精霊を使役しているそうだ。その方法が私の時の様な、決闘で勝利することだ。負ければ重傷を負ったりするそうだけど一度戦った事がある相手だから対策はできているそうだ。




翌日からも遊矢とはあの夜の一件をうやむやにしたまま精霊界を案内してもらった。人間界では味わえない様な貴重な体験の連続に私は簡単にあの一件を忘れる事が出来た。そして大晦日の晩に私は家に帰ってきた。

「次に会うのは新学期だな」

「そうね。遊矢はまた精霊界に?」

「ああ、ちょっと遠くの方の精霊界にまで行ってくる。新学期までには三幻神に近い力を持つ精霊の大半の力を借りてくる予定だ」

「大丈夫なの?」

「1キルデッキを中心に使うから問題無い。こういう機会にしか使えない様なデッキばかりだからな。とてもじゃないが、アカデミアや大会では使えない様な、批判を受ける様な強力すぎるデッキ達だ」

「制限は守ってるんでしょ?」

「もちろんだ。まあ一つでも見れば分かるさ。通称ソリティアデッキだ」

「一人遊びね。大体想像出来るわね。つまらないわね」

「そういうことだ。アカデミアじゃあ、テーマデッキやネタデッキの方が楽しめるからな。それじゃあ、またアカデミアで」

マリニーで去って行く遊矢を見送る。部屋に戻ってベッドに寝転がる。

「三幻神に近い力、か」

そこまでの力を必要になる未来が来るなんて。未来を知っているからこそ、闇を知っているからこそ、遊矢は無茶をする。その助けになれるだろうか?何が助けになるだろうか?

身体を起こして精霊界で遊矢から渡されたケースを開ける。中にはびっしりと各種3枚ずつカードが引き詰められている。そしてその中には発売前のカードも入っている。無論、モンスターエクシーズもだ。

「必要になる時が来るはずよね。皆、手伝って頂戴。まずはシリーズ毎の特徴の洗い出しから」

新たなデッキの構築。六武衆使いであると知られている以上、対策をとられる事を考えれば予備に一つでもデッキがあれば話は変わってくるはずだ。それにいつもとは違うカードを使う事で新たなコンボを思いつく可能性もある。適当に手を伸ばしたカードは黒い縁のカード、つまりはモンスターエクシーズ。もう一枚引き抜くとやはり黒い縁のカード。

「神聖騎士王アルトリウスと聖刻龍王―エネアード、か」





冬休みが明けてアカデミアに戻ってから一週間が過ぎるも遊矢が姿を現さない。レッド寮に行ってみたけど部屋には荷物が置いてあるだけで若干埃が積もっていた。森の中のガレージにはマリニーも置かれていたから島には戻ってきているはず。それなのに姿を見せないなんて。

「ヤリザ、ニサシ、カモン、何か島に異変はあった?」

「何やら闇の気配の残り香がある場所がいくつか」

「それと精霊界に通じやすい場所も」

「一番気になるのは地下に封印が」

「遊矢が言っていた三幻魔ね。強力らしいけど対策はあるらしいから放置で良いわ。いずれ量産されて出回るみたいだし。まあ多少のエラッタがかかるみたいだけど。それにしても何処に行ったのかしら?」

しばらく適当に島を歩いていると取り壊されている廃寮に辿り着く。今も業者の人達が機材を使って廃材をどかしている。その中に紛れて指示を出している遊矢を見つける。遊矢も私に気付いたようだ。

「何をやってるの?」

「見ての通り現場監督兼護衛だ。面倒な事に最近までここで闇を使った錬金術を使ってた形跡があったからな。念のために海馬社長に連絡して監督を任された、って言ってる傍からまたか!!」

遊矢がデュエルディスクを構えて向かう先には闇の塊が溢れ出してきて、人型になっている。業者の人達も慣れた物で一目散に現場から逃げ出している。

「『決闘!!』」

「先攻はオレだ、ドロー!!モンスターをセット、カードをセットしてターンエンド」

遊矢 LP8000 手札4枚

セットモンスター1枚
セット1枚

『ドロー、手札、シールドクラッシュ』

「ちっ」

遊矢がセットしていたモンスターは見習い魔術師。ということは魔法使いデッキか。

『モンスター、セット、エンド』

闇 LP8000 手札4枚

セットモンスター1枚

「オレのターン、ドロー。水晶の占い師を召還、装備魔法ワンダーワンドを装備し、効果発動。ワンダーワンドとそれを装備するモンスターを墓地に送り2枚ドロー。ふむ、更に強欲な壷を発動して2枚ドロー、天使の施しを発動3枚ドローして手札を2枚捨てる。闇の誘惑を発動、2枚ドローして闇・道化師ペーテンを除外。天からの贈り物を発動、お互いのプレイヤーは3枚ドローして手札を2枚捨てる。死者蘇生を発動して水晶の占い師を特殊召還。2枚目のワンダーワンドを装備して効果発動。ワンダーワンドとそれを装備するモンスターを墓地に送り2枚ドロー。まだ来ないか。暗黒界の取引を発動、お互いに1枚ドローして手札を1枚捨てる。もう1枚暗黒界の取引を発動。埋葬呪文の宝札を発動。墓地の魔法カードを3枚除外して2枚ドロー。やっと来たか。闇の量産工場を2枚発動、墓地から封印されし者の四肢を手札に加える。手札にエクゾディアが揃った事でオレの勝利だ」

通常ドローを含めて19枚ものカードを連続でドローしてエクゾディアを強引に揃えた。1ターン目は1枚もドローカードが無かったと言うのに3ターン目からは怒濤のラッシュだった。

「こんな感じで既にこの1週間で30体程倒してる。面倒な事にこんなんでも闇の決闘だからダメージは受けたくない。それなのに海馬社長から人員への被害は絶対に許さんと言われてるからほぼ24時間態勢で護衛をしている。ちなみにサイ・ガールは仮眠中だ」

良く見ると目の下に隈ができてる。サイ・ガールと二人だけだとすれば一人12時間、だけどサイ・ガールを一般人に見せる訳にもいかないので深夜だけだろう。最低でも18時間はこの場に張り付いていなければならない。それでも6時間の休息が取れると考えられるだろうが、闇の決闘は体力も精神もかなり消耗する物だ。あんな風にソリティアでも実力が伯仲する相手との本気の決闘と同じ位かそれ以上に消耗する。

1週間で30体程なら日に4回程、1回はサイ・ガールがするとしても3回か。しかも現場監督の仕事もこなしながらとは。これでは何時倒れても不思議ではない。

「遊矢、少し休んだ方が良いわよ。少し位なら私が代わりに闇と戦うからさ」

「……念のためにこれを渡しておく。少しは闇への耐性を付けてくれるから」

遊矢がウジャト眼が描かれたグローブを外して渡してくる。

「良いか、油断は絶対にするな。見た目からしてヤバいと思ったら六武衆に頼んで逃げろよ。闇の決闘のおそろしさは精霊との決闘とは桁が違う」

「分かってる。無理はしないわ。それに危なかったら助けてくれるんでしょう」

「当たり前だ。まあ、そんなことにはならないと思ってるけどな。それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわ。さすがにきつい」

それでもやはり心配なのか、すぐ近くの木を背もたれにして座り込んで眠ってしまう。デュエルディスクも外さずに、すぐに立ち上がれる体勢でだ。隙がなさ過ぎるが、これが精霊界でのデフォルトだった所為か今は気にならない。これだけ隙がないのに部屋の鍵は開けっ放しで害意を持って近づかない限り起きないんだからちょっと心配になる。あと、何故か冷蔵庫の中にアカデミアでは手に入らない甘いデザートが入ってるのが気になる。まあサイ・ガールが買いに行ってるんだと思うんだけどね。

結局、その日は闇は現れずに終わり、翌日からは私も放課後に遊矢を休ませる為に顔を出す様になった。結局その後一週間の内に私が闇と決闘をしたのは一度だけ。それも残りかすの様な物で、デッキもただ適当に集めたかの様なデッキだった。

おかげで後攻1キルで終了したのだが、恐ろしい位に疲れた。これが闇の決闘。この先に何度も行う必要があるのか。きつい戦いになるだろうけど、それでも遊矢の負担が減るのならそれでもかまわない。

精霊界から戻ってきて決めたのだ。私は遊矢を支える。未来の話を聞く限り、遊矢が倒れれば世界が滅ぶかもしれないし、何より人間の中でひとりぼっちになってしまっている遊矢を放っておけないと思ったから。それに昔のエースカードの話をする時の落ち込み方を見て、私達と変わらないただの人なんだって分かったから。

闇の決闘に慣れていたり、未来から過去にやってきていたり、精霊と共に歩んでいても、遊矢は私達と変わらないただの人で決闘者なんだって。今は無理でも、いつかは隣を歩ける様になるって分かったから。

遊矢に対して恋愛感情を持っているのかは分からないけど、それでも信頼して自分の事を話してくれた。その信頼には応えてあげたい。今はそれだけだ。今は。
 
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