遊戯王GX 輪廻に囚われし赤
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キメラテック・フォートレス・ドラゴン
前書き
通り魔的に更新
昨日のクリスマスパーティーの後、オレとツァンはペガサス会長が気を利かせてくれたので、そのままホテルに宿泊した。もちろん部屋は別々だ。そして朝から二人でとある場所に向けてマリニーを走らせている。
「そろそろ何処に向かっているのか位教えてくれても良いんじゃないの?」
「今は十分に加速出来る場所に向かっている」
「十分に加速出来る場所?」
「十分に加速出来ないと行けない場所なんだよ。まあ、他にも行く方法はあるけど不安定なんだよな」
「ちょっと!!本当に何処に連れて行く気なのよ!!」
「分かった、分かった、説明するから首は絞めないでくれ。危ないから」
ふらふらと蛇行運転になりながらも事故らない様に気をつけて走行する。
「これから行くのは『魔法使い族の里』だ。そこを拠点にして色々な所に連れて行くつもりだ」
「『魔法使い族の里』?何を言っているのよ?」
「決闘者なら一度は聞いた事があるだろう。カードには精霊が宿っているって」
「ええ、一応は。決闘王みたいな決闘が強い人は皆精霊が宿っているカードを持っていて、デステニードローが使えるって言う奴よね」
「その噂は事実だ。カードの精霊は存在するし、精霊達が暮らす世界もまた存在する。現に精霊ならすぐ傍にいるぞ。サイ・ガール」
「どうもぉ~」
マリニーに付き添う様にサイ・ガールが実体化する。
「なっ!?ソリッドビジョン?」
「違うわよ、ほら」
そう言ってサイ・ガールはツァンに後ろから抱きついて三人乗りになる。
「ほ、本物!?」
「本物だって理解してくれたみたいね。遊矢のパートナーのサイ・ガールよ」
「ということだ。これで信じてくれたか?」
「信じるしか無いでしょう」
「理解してくれたならそれでいいさ。ちょうど加速出来る場所にも到着した。これか……」
「どうしたの?急に黙り込んで」
「ちっ、招かれざるお客さんのご到着だ。サイ・ガール、ディスクを取ってくれ。ツァンはしっかり掴まってろ。少々派手になるぞ」
「なんで、デュエルディスクを?というか何が起こるのよ」
サイ・ガールからデュエルディスクを受け取り、マリニーにセットする。そしてこの日の為に用意しておいたデッキをセットする。
「さて、誰が来るかな」
準備ができたのでミラーを覗くと、ちょうどタイミングよく相手が次元を跳躍して現れる。
「貴様か、この時間軸においてシンクロ召還とモーメントを産み出したのは」
「ああ、その通りだ。待っていたぞ、プラシド」
「何故オレの名を!?」
「オレは色々なことを知っているからな。ホセやルチアーノ、アンチノミーやパラドックス、そしてゾーンは元気にしているか?」
「貴様は生かしておけない。この場で排除させてもらうぞ!!」
「それはごめんだな。オレにはやらなければならない使命があるからな」
マリニーのコンピュータを操作してライディングデュエル強制作動装置を起動する。
『『ライディングデュエル、マニュアルモード起動』』
「なに!?ライディングデュエルまで」
「さあ、デュエルの始まりだ。ルールはWRGPと同じ、先にあそこのコーナーを曲がった方が先攻だ」
「ちっ、面倒だが相手をしてやる」
「そう来なくちゃな」
プラシドがオレ達と並走をはじめ、デュエルディスクを構える。そして同時にライディングデュエルの開始を宣言する。
「「フィールド魔法、スピードワールド2発動!!ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」
お互いのDホイールが加速を始め、先にプラシドがコーナーを曲がる。
「オレのターンからだ。ドロー!!オレはワイズ・コアを召還、カードを1枚伏せてターンエンドだ」
プラシド LP4000 プラシド手札4
場 スピードワールド2
ワイズ・コア ATK0
伏せ1枚
「攻撃力0を攻撃表示、伏せカードで守るのかしら?」
「いや、あの伏せカードは防御用ではないな。見てれば分かる。オレのターン、ドロー。スタンバイフェイズ、スピードワールド2にSpカウンターが互いに1つ乗る。メインフェイズ、オレは手札からプロト・サイバー・ドラゴンを召還する」
「トラップ発動!!ツイン・ボルテックス、オレの場のワイズ・コアを破壊することでお前のプロト・サイバー・ドラゴンを破壊する!!そして破壊されたワイズ・コアの効果を発動、オレの場のモンスターを全て破壊し手札・デッキ・墓地よりワイゼル∞、A、T、C、Gを特殊召還する。合体せよワイゼル∞」
バラバラのパーツがデッキから現れ、そして合体していき姿を現す。
ワイゼル∞ ATK2500
ワイゼルA ATK1200
ワイゼルT ATK800
ワイゼルC ATK500
ワイゼルG DEF1200
「もはやこの決闘はオレの勝ちだ。諦めろ!!」
「馬鹿かお前は。簡単に引っかかりやがって。せめてバトルフェイズに発動させれば良かった物を」
「何を言っている?」
「オレは手札からサイバー・ドラゴンを特殊召還する。こいつは相手の場にのみモンスターがいるとき、手札より特殊召還出来る。そしてオレは融合を行う」
「馬鹿はお前の方だ。スピードワールドがある状況では普通の魔法カードを使えば2000のダメージを受けるのだぞ」
「残念だったな。この融合召還には『融合』は必要無い。オレはサイバー・ドラゴンと場にいる全ての機械族を融合!!」
「なに!?オレのワイゼル達が」
オレの融合宣言と共にフィールドのモンスター達がバラバラになり、そして合体して1体の機械の龍になっていく。
「現れろ、キメラテック・フォートレス・ドラゴン!!」
キメラテック・フォートレス・ドラゴン ATK?
「キメラテック・フォートレス・ドラゴンの攻撃力は融合に用いたモンスターの数×1000になる。よって攻撃力は6000」
キメラテック・フォートレス・ドラゴン ATK?→6000
「なんだと!?」
「さらばだプラシド。お前は此所で完全に破壊させてもらう!!キメラテック・フォートレス・ドラゴンでダイレクトアタック」
「こんな所でやられる訳には、時間跳躍装置が作動しない!?」
「言ったはずだ。お前は此所で完全に破壊すると」
「くそがあああああ!!貴様も道連れだああああああ!!」
「断る。魔界の足枷をプラシドに装備」
サイコ能力を使い、懐から取り出した魔界の足枷を実体化させる。
「サイコデュエリストだと!?」
「気付くのが遅いんだよ!!ツァン、しっかり掴まってろ!!」
既に決着は付いている。プラシドのライフが0になると同時にスピードワールド2が解除され、速度制限が解除される。オレはアクセルを全開にして精霊界への道を開く。何も見えない闇の中をただひたすらに加速していく。後ろの方で爆発音が聞こえてきたが、それもやがては聞こえなくなり前方に光が見えてくる。闇から飛び出した先は森の一角に開かれた小さな広場で近くに小さな村が見える。オレはマリニーの速度を落としていき、村の中央で停止する。
「な、なんだったの、今のは?それに遊矢、貴方は一体何者なの」
到着すると同時にツァンがオレから距離を取る。まあ、仕方ないよな。
「話せば長くなる。信じられない様な話ばかりだ。遊戯さんにも海馬社長、ペガサス会長にすらも話していないことを話しても良い。短い付き合いだが、ツァンになら話せると思ったからこの精霊界に連れてきた。この先に起こる闇との戦いに備える為に」
「闇との戦い?」
「ツァンが知りたいと思っていること、全てを話そう。こっちだ、サイ・ガールは皆にオレが来たことだけ伝えておいてくれ」
「オッケー」
村の村長の努めるマジシャン・オブ・ブラックカオスの家に向かうサイ・ガールを見送りながらマリニーを押して村の離れに作ってもらったオレの拠点に案内する。拠点と言っても精霊界で長期間活動する時に休む為だけの場所なのでベッドとテーブルとイス、それと棚が置いてあるだけの小屋だ。管理はドリアードに任せてあるのでいつでも使えるし、今日此所に来ることは伝えてあるので掃除もされている。ツァンにイスを勧めてテーブルを挟んで相対する。
「さて、何から話せばいいか分からないからな。最初はツァンの質問に答える形で進めるが問題は有るか?」
「無いわ」
「分かった。それじゃあ、何から聞きたい?」
しばらくツァンが考え込み、口を開く。それはこれからの話をする上で最も重要な事柄だった。
「貴方は、一体何者なの?私達に隠している正体は何なの?」
「良い質問だ。それに体するオレの答えは、サイコデュエリストで……未来人だ」
何度も転生を繰り返しているという言葉を飲み込み、未来人であるということだけを伝える。
「未来、人?」
「そうだ。オレのマリニーには時間跳躍装置と時空跳躍装置の二つが搭載されている。これを扱うには莫大なエネルギーが必要となり、それを賄える物がマリニーの主機であるモーメントだ。まあこれは後でいいだろう。とにかくオレは時間跳躍装置を使ってこの時代にやってきた未来人だ」
「未来から、ということは過去を変えて未来を変えようとしているの?」
「まあ、それに近いことだ。オレの目的はこいつを救う為だ」
デッキケースからsophiaを取り出してツァンに見せる。
「創星神sophia?見たこと無いカードね」
「この世に一枚しか無いカードだろうな。オレもこの一枚以外見たことが無い。そして、こいつには精霊が宿っているが死滅しかけている。オレはこいつを救う為にこの時代にやってきた。そしてこいつが死滅しかかっている原因を突き止めた。その原因を取り除く為にオレはシンクロを普及させ、アカデミアに入学した」
「アカデミアに入学することが精霊を助けることに繋がるの?」
「本来、この時代には決闘王になる男がいた。その男はアカデミア時代において数多くの事件を解決に導いた。だが、その男はこの世界においては事故によって亡くなっている。彼の代わりを果たすことがこいつを助ける道となる」
「つまりは遊矢の何かを変える為に来たんじゃないのね」
「ああ。そうだ」
「分かったわ。少なくともこれで遊矢を軽蔑しなくてすむわね。次に聞きたいのは闇との戦いについてよ」
「先程も言ったが決闘王になる男はアカデミアで数々の事件を解決していった。その事件に共通するのが闇だ。此所で言う闇とは強大な力というだけで善でも悪でも無いとだけ言っておく。それを操る者によって善にも悪にも染まる。闇と戦うにはそれなりの力が必要になる。だからこそ精霊界で精霊との縁を結んでもらいたい」
「あのサイ・ガールみたいに私もパートナーを作れってことか」
「作らなくても精霊界に数日も居ればそれなりに力は手に入る。まあ耐性程度だから出来ればパートナーを作った方が良いな」
「そのパートナーってどうやって作るの」
「これと言った方法は無いな。見分け方もただ単純に惹かれあう感覚がある位だ。一番手早い方法が闇の決闘で勝つとか、何かしらの契約をする。あとは愛着のあるカードに精霊が宿ることがある。つまりツァンの場合は六武衆の誰か、もしくは全員がパートナーである可能性がある。まあ六武院に行ってみれば分かるだろう」
「やっぱりあるんだ、六武院」
「フィールド魔法は全部あるぞ。フィールド魔法以外の場所もあるけど。ヴァルハラとか逃げ惑う市民が住んでいる街とか」
「前半はともかく後半のチョイスは正気を疑うわよ」
「まあ気にするな。他には『レベル2以下通常モンスターの森』『リクルーターの酒場』『攻撃力0の洞窟』『ゴブリン砦』『女の子王国』『ターミナル世界』オレが知っている限りではこの位か」
「他のは大体分かるけど『ターミナル世界』っていうのは?」
「『ターミナル世界』っていうのは最近生まれた世界で『ワーム』が進行している世界のことだ。今は一通りの戦乱が終わった位で、新たな火種が生まれている世界だ。そしてsophiaが産み出した世界でもある」
「何故分かるの?」
「sophiaの召還はかなり特殊でな。融合、儀式、シンクロ、エクシーズモンスターをそれぞれ1体リリースすることで召還出来るのだが、これらが一堂に会する場所はあの星だけだからな。ああ、説明が遅れたが精霊界と言っても一つ一つの世界はかなり離れている上に特定の場所からでなくては行き来することも出来ない」
「そうなんだ。それで次の質問だけど、あのプラシドという男は一体何なの?」
「ああ、プラシドか。あいつはオレと同じく未来から来ている。最もオレの生きていた時間よりも更に未来の世界から、世界が滅び、最後の人間として全ての絶望を味わった男の青年期を模して作られたアンドロイドだ」
「世界が滅びる?最後の人間?」
「とある未来の先、人類は自らの科学の結果滅びを招いた。奴は偶然一人だけ生き延び、絶望に疲れ果て、そんな未来を変える為に幾つもの過去を滅ぼしてきた。奴らは身体を機械で補い、未来を救う為に足掻いてきた。そして、とあるパラレルワールドではオレの時代に生きていた人物によって未来は救われた。だが、先程やってきたプラシドの世界においては未来はまだ救われていないのだろう。というよりプラシドの時点で救われていないな」
「何でそんなことが分かるのよ」
「時間軸的にあいつ達が本来の姿で決闘することによって未来を救った男が成長するからだ。その男の成長の先こそがシンクロ召還の可能性の一つ、アクセルシンクロ。更にはその上を行くリミットオーバー・アクセルシンクロ、それによって産み出されたシューティング・クェーサー・ドラゴンだからだ」
「あの龍を産み出したって」
「そのままの意味だ。何も無い所から産み出したんだよ。そんな奇跡を起こさない限り、未来は大きく変化しないさ。オレが持っている分はコピーカードだ。本来の力はほとんど無い上に行使する為にはオレのサイコ能力を全開にする必要がある」
「サイコ能力っていうのはあのカードを実体化させた能力のことよね」
「そうだ。能力の強さによって実体化させれるランクは異なる。オレは最高峰とも言えるランクのおかげで殆どのカードを実体化させれる。さすがに神のカードを実体化させるのは疲れるがな」
その点、装備カードや魔法、罠は楽だ。意志を持たない者ばかりだから楽に力を振るえる。まあ精霊界でしか使う機会が無いけどな。
「他に聞きたいことはあるか。無いならここの案内をしようと思うんだが」
「まあ今すぐ聞いておきたいことは、いえ、もう一つだけ。どうしても聞いておきたいことがあるわ」
「なんだ」
「何で、何で今まで黙っていたことを私に話したのよ。変な目で、軽蔑すらされるかも知れない様な秘密を話したのよ!!」
「ツァンには話しておきたかった。それが理由だ」
「それだけじゃあ意味が分からないわよ!!」
「そうだ、な。うん、最初はやっぱり女子寮での決闘が印象的だったな。あの場にいた誰よりもツァンは目立った。風格や覇気と言ったものではなく、誰よりも素直だった。めんどくさそうにあの場にいて、オレとよろしくする気も無かった。それが『図書館エクゾ』を見てから他の三人と違った反応を見せた。反感や嫌悪を見せるのではなく、ただ自分の力を試してみたいと言った感じにな。こっちに来てからそういう反応を見せる人をあまり見なくてな、気になった。それが縁でそこそこ話す様になって居心地が良かったんだ。だから制裁決闘のパートナーになってくれたのは本当に嬉しかった。まともな友人がいないアカデミアで、自分の身を顧みずに助けてくれたのが本当に嬉しかった。この時代には仲間と言える存在がサイ・ガールしかいないオレにとって、それはどんなことよりも嬉しいことだった」
「なんでよ?いざとなれば元の時代に戻れば良いだけじゃない」
「……無理なんだ。まったく同じ世界に戻るということが」
「え?」
「他の時間に飛ぶということは、若干の差異を産み出すことになる。その若干の差異は時が経てば経つ程大きくなる。そこに有ったはずの絆は失われていたり、逆に深まっていたり、予想も出来ないことが起こる。その若干の差異に干渉されなかったのがサイ・ガール達、次元サイキック族だけだった。未来に戻ればオレはまた周りを理解し始めることから始めなければならない」
「貴方馬鹿じゃないの!!たかが精霊の宿ったカード一枚に自分のことを投げ打って」
興奮して立ち上がるツァンに一枚のカードを突きつける。絵柄はほとんど消えて薄らと形が分かるか分からない程度の線だけで、枠も灰色、テキストやステータスは黒く塗りつぶされて、忘れない様に手書きで名前を書いた一枚のカードを。
「昔、オレが助けれなかったオレの最初のメインデッキのエースカードだ。あの頃のオレは精霊を見ることは出来ても、精霊界に渡る術を持っていなかった。その結果、こいつは死んでしまった。精霊が死滅すれば過去、現在、未来、どの時間軸においても死滅し、記憶からも消滅する。仲間との絆は取り戻せる。だけど、精霊の死はどうやっても覆すことができない。オレは、もう後悔したくないし、誰かが悲しむことも無く忘れ去られる存在を救いたい」
サイ・ガールと出会うまでのオレの相棒だったこいつは赤き竜の力を扱えなかった遊星達の代わりにオレと共に地縛神に挑み、敗れ去った。そして地縛神に封じられ、命を削られて死んでいった。何度も輪廻を繰り返すオレは記憶を失わずにすんだが、カードリストからも人々の記憶からも消え去ってしまった。あの時程自分の無力さを恨んだことは無い。
「精霊のカードを手にするとは、その精霊の全てを受け入れるということでもある。かなり大きな力を持たない限り、死滅してしまえば忘れてしまうだろうけど、この事実だけは覚えておいてくれ」
相棒のカードをホルダーに戻すと、立ち上がっていたツァンもイスに座り直す。
「……ごめん。知らなかったとは言え、無神経なことを言って」
「気にしてないさ。知らなかったんだからな。今度からは気にするだろうから、覚えておいてくれ」
その後、空気を変える為に里に住む者達を紹介して周り、オレはダルクの家に泊めてもらうことになった。
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