入れ替わった男の、ダンジョン挑戦記
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誕生、前代未聞の冒険者
第三話
「おお!これが人工島!そしてあれがダンジョンか!」
意気揚々と電車に乗って数時間、西日か赤くなり始めた頃、人工島に到着した。立ち並ぶ建物、行き交う人々、奥に見える、『天を貫く塔』と『一際巨大な建物』。ワクワクが更に増してくる。浮き足立つ自分を押さえ、宿の確保を急ぐ。物価は高いらしいから、やるべく安く質の良い宿を見つけられれば良いが。
『よう兄ちゃん!飯なら寄ってきな!』
『武器の手入れはお任せだよー!』
『今日も沢山狩ったぜ、旨い酒が飲めそうだ!』
道を歩いているだけで、賑やかで、楽しそうだが、一歩踏み外せば、待つのは死。良いことだけでは無いのだ。
あちこち歩いて、良さげな宿を見つけた。一泊四万円。三食完備風呂つきでかなり良心的な値段。他は五万円を越えるのが大半、一日しか泊まれないでは心許ない。
「二日分泊まりたいのだけど、良いですか?」
「おやおや、坊や。お金はあるのかい?」
受付にいた、ふくよかで豪快そうな女性に、諭吉さんを八枚渡す。
「確かに。しかし坊や、ダンジョンに挑戦でもするのかい?止めはしないけれど、無茶じゃないかい?」
「ありがと、女将さん。でも僕、これでいこうって決めたから。」
「娘と同じくらいの子が、危険な目に遭うのは見たくないけどねぇ…。」
眉を寄せる女将さん。思いやりが嬉しかった。こっちに来て、紐無しバンジーから怒られっぱなしだったから。
「坊やの部屋は、三階の左の突き当たり。外出するなら言うんだよ。」
女将さんから鍵を受け取り、突き当たりの部屋に入る。内装も良いし清掃も行き届いている。にしては、客が少ない。僕以外は二、三人位しかいない。そんな日なのだろう、きっと。
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荷物であるボストンバックをベッドの上に置き、いよいよダンジョン挑戦に挑みにいこうと思う。
少し駆け足で、受付の女将さんに外出を告げる。
「もう行くのかい?夕食はどうするんだい?」
「間に合わなかったら、火を落としてください。行ってきます!」
「無事に帰って来るんだよー!」
女将さんの声を背に受け、ダンジョンに走る。待ってろよ、まだ見ぬダンジョンよ!
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ダンジョンの入り口になる建物には、やはり人々が沢山。そんな人波を掻い潜り、受付の看板が掛かったカウンターに声を掛ける。
「冒険者資格を発行してもらいたいのですが。」
「はい、少々お待ちください。本日はこのままお帰りですか?」
馴れた様子で作業を進める受付嬢の問いに、ダンジョンに挑戦すると答えると、周りから小さく笑いが聞こえてきた。
『まだ子供じゃねえか。』
『どうせ入ってすぐに泣きを見るさ。』
『『『違いねえ!!』』』
好き放題な言いようである。無理もない話だが。
「こちらに名前と年齢をお願いします。」
渡されたペンで、書類に名前と年齢を書く。後は恒例の自己責任の確認に丸をして返すと、受付嬢が席を外し、数分でカードを持ってきた。
「お待たせしました。こちら、楠様の冒険者資格のカードとなります。紛失されると再発行に時間と費用がかかりますので、無くさないようお願いします。」
受付嬢からカードを受けとる。これで僕も冒険者になったわけだ。
「本日、楠様はダンジョン挑戦とのことですので、こちらから、【アイテムポーチ】を支給させていただきます。」
受付嬢の説明では、ダンジョン内の資源や魔物の素材等をポーチの中に収納できるらしい。容量もかなりの物らしく、重さも感じないとか。
因みに、これはあくまで『貸し出し』で、いずれは自分用のを買ってくれとのこと。しっかりしたやり方をしている。
「では、どちらに行かれますか?」
「潜る方で。」
「分かりました。ダンジョンには十階毎にボスと称されるモンスターが居ます。こちらでもその階は確認できますので、助けが欲しければ、躊躇なくお求めください。それでは、御武運を。」
受付嬢と周りから見送られ、ダンジョンに入る。いっちょ、やりますか!
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英司がダンジョンに潜っていった後、見ていた冒険者たちは、英司をネタに話しに興じていた。
「あのガキじゃダンジョンは無理だ。すぐに逃げ帰ってくる。」
「一時間が目処だな。逃げ帰ってくるか、死んだか。」
「ま、帰ってきたら、笑ってやろうぜ。」
~1時間後~
「ふーん、逃げ帰ってくる訳ではないのな。」
「死んだんじゃないか?」
~更に1時間後~
「音沙汰なしだと気になるな、探しに行ってみるか?」
「そうする…いや待て、見てみろ!」
冒険者が指差した先には巨大なスクリーン。受付嬢が言った、十階毎のボスモンスター戦を写すそこに、英司が『無傷』で立っていた。
「おいおい、冗談だろ?ソロで無傷とか有り得ねえぞ!?」
「逃げ回った末じゃないのか?」
「にしては息を切らしてない。余裕の表情だ!だが…!」
スクリーン越しに現れたのは、緑の肌の魔物。ただし、王冠を被った巨大な、がつくが。
「ゴブリンキングか!坊主、俺達を呼べ!」
「ちっ、あのガキ運が悪い…!」
冒険者達が伝わらない叫びを出す。それもそのはず、ゴブリンキングは一番最初のボスとは言え、その力は段違い。初見かつ一人の敵う相手ではない、と言うのが冒険者達が持つ共通の見識だった。
だが、次の瞬間、冒険者は目を疑う。英司が一瞬でゴブリンキングに接近し、足から炎を噴射した勢いのまま土手っ腹にジャンピングアッパー。易々とその巨大な体躯を宙に運び、そのまま勢いを殺すことなく空中で足から炎を噴射、ゴブリンキングの心臓を蹴り抜いた。
何も出来ず地に落ちるゴブリンキング。そして一方的に打ち破った英司は、
『熱い!熱い熱い熱い!防火対策必須だよホット・ペッパー!』
炎の熱に悶えていた。
『アーティファクト使いかよ!?』
冒険者達が総出でツッコミを入れた。
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その後も英司の快進撃は止まらず、
『take off!!』
妙に流暢な発音で二十階のボスの『ジェネラルコボルト』に人間ミサイルと化して風穴を作り、
『焼き付くせー!!』
三十階のボスモンスター、『クリスタルスケルトン』を熱線で溶かす。
冒険者達の誰もが絶句している。ここまで約一時間半程度しか経っていない。明らかに速度が上がっている。驚くことに、きっちりとパーティを組んで、理想的に準備を整えた熟練の冒険者が出せるかどうかの速度だ。
「ただいまー!」
冒険者が呆然自失としている間に、英司が帰ってきた。
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いやはや…。凄いなダンジョンってのは!見たこともない鉱石、色鮮やかな草木、行く手を遮るモンスター達!…大半即退場願ったが。
それもこれも、ホット・ペッパーの力が大きい。これがなければ、少しも先に進めなかったと思える。
それにしても、静かになったものだ。あれだけ行く前は騒いでいたのに。まあ良いや。
受付に再び向かい、声を掛ける。
「ここってダンジョンで手に入れた品物とかって買い取ってもらえるの?」
「あ、は、はい。伺います!」
腰に付けていたポーチを外し、受付嬢に渡す。
「少々お待ちください。」
受付嬢が査定の為に席を外すと、冒険者達が堰を切ったように集まってきた。
「おいおいアーティファクト使いならそう言えよ!」
「やるな坊主!笑って悪かった!」
「今度一緒に組もうぜ!!」
冒険者達に背を叩かれ、肩を抱かれ、頭を乱暴に撫でられる。揉みくちゃにされてはいるが、悪い気はしない。
そうして冒険者達と騒いでいると、受付嬢が若干顔を青ざめさせ、やって来た。
「お、お待たせしました…。楠様お売りの合計、
58239640円になります。」
「五千八百万ん!?」
そんな額を告げられた僕は、内心ダンジョン凄え!と、驚愕していた。
が、周りからの視線が痛い。まあ、これだけあるのだ。多少の散財は構わないだろう。
「よし、決めた!受付さん!五百万円分落としてください、その分をここにいる冒険者の皆さんの飲食代に!」
『『『!?』』』
「僕からの、ダンジョン初挑戦と帰還の祝いです!」
『『『オオオォ!!!』』』
冒険者達が歓喜の声を上げる。その間に、僕は話を進めておく。
「残りは貯蓄で。…口座は…、」
「冒険者のカードでご利用できますよ。」
「じゃあそれで。」
手早く手続きを終わらせ、浴びるように酒を飲む冒険者達を見て告げる。
「皆さん!僕は用があるので先に失礼しますが、大いに楽しんでください!」
「おうともよ!飲ませてもらうぜ!」
「次稼いだら、また御相伴に預かるからな!」
次々に好意的な声を貰い、その場を後にする。…御飯、あるかな?
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結局、宿に戻ってきたのは、夕食には遅すぎる時刻になっていた。
「戻りましたー。」
取り敢えず、声を掛ける。すると、女将さんが出てきた。
「お帰り。どうだい、なんとかなったかい?」
女将さんが悪戯っぽく聞いてくる。その問に、満面の笑みと、ピースで答えた。
「その顔ならなりよりだよ。お腹空かしてるだろう?用意してあるよ。」
「…いいの?」
迷惑をかけたのでは、と不安になる。
「良いんだよ。坊やみたいなのは、沢山食べて、大きくならないと!」
そうだろう?と優しく告げられた僕の身体中に、暖かい気持ちが流れてくる。嬉しいという気持ちが。だから伝えるのだ、溢れる笑顔で、ありったけの感謝を。
「……ありがとう!!」
「どういたしまして。さあ、おいで。」
濃密な一日は、こうして幕を閉じる。斯くして、楠英司のダンジョンを進む日々が始まるのであった。
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