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戦国異伝

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第二百四話 箱根八里その十

「それで何故わしが望む」
「まさにそれこそがですか」
「過ぎた欲じゃ」 
 それであるというのだ。
「徳川家はそれでよい」
「天下を望まず」
「天下泰平を望むのじゃ」
 天下を手に入れることを望むのではなくだ、その泰平をというのだ。これが家康の天下への考えであるのだ。
「我等はな」
「では徳川家は織田家の天下で」
「うむ、その柱の一つとしてな」
「生きるべきですな」
「天下を乱してはならん」
 その天下泰平をというのだ。
「決してな」
「その通りですな」
 本多がlここで家康に言った。
「我等が天下を乱してはなりませぬ」
「決してな」
「天下泰平こそ守るべきです」
「その通りじゃ」
「ただ、殿は」
 本多は家康の顔を見た、そして彼に言うのだった。
「その資質は優れたものですな」
「天下の柱の一つになれるか」
「若しかするとその軸やも知れませぬ」
 柱達の中の、というのだ。
「そこまでの方やも」
「信玄殿や謙信殿の中でか」
「はい、それ程までの方やも」
「それは幾ら何でも買い被りであろう」
「いえ、それがしの見たところ」
「わしはか」
「天下の宰相にもなれます」
 それ程までの器だというのだ、家康は。
「執権、管領とも」
「なれるか」
「そう思いまする」
「ううむ、わしはそうは思わぬがな」
「少なくとも百六十万石はです」
 この度手に入れたそれはというのだ。
「無事に治められます」
「相当な大きさでもか」
「はい、出来ます」
 少なくともそれだけの器であるというのだ。
「殿は」
「だとよいがな」
「この戦が終われば、ですな」
「その百六十万石を治めよう」
 このことは絶対だった、家康にとっても。
「そして民達を豊かにしようぞ」
「民を生かすのですな」
「殺すことはあってはならぬな」
「それはこれ以上なきまでに愚かなことです」
 本多も民を害することはこう言って切り捨てた。
「決してあってはなりませぬ」
「暴君であってはならぬな」
「例えば足利義教公の様な」
 室町幕府第六代将軍である、苛烈にして暴虐であったと言われ様々な恐ろしい逸話がある将軍である。
「あの様なことは」
「あってはならぬな」
「決して」
「異朝の皇帝でもな」
 家康は自ら彼等を挙げた。
「秦の始皇帝や隋の煬帝じゃな」
「夏の傑王、商の紂王も」
「ああなってはならぬな」
「暴君は民を苦しめます」
 それ故にというのだ。
「決してです」
「なってはならぬな」
「若しそうなってしまえば」
 その時はとも言うのだった。 
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