戦国異伝
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第二百四話 箱根八里その九
「必ずな」
「戦国の世はですか」
「そうじゃ、必ず終わるからな」
それ故にというのだ。
「その時は律儀が生きる」
「律儀こそがですか」
「世に讃えられるものとなり徳川家を支えるからな」
「だからこそですか」
「わしは律儀に徹する」
「そして徳川家も」
「織田家と最後の最後まで一緒じゃ」
盟友である織田家と、いうのだ。
「その結果ではないか」
「この家はですか」
「そうじゃ、三河の小さな家が今はどうじゃ」
「はい、その三河だけでなくです」
石川は確かな声で答えた。
「遠江、そして駿河も」
「その三国を完全に領有してな」
「百六十万石です」
「凄いことじゃな」
「百六十万石とはです」
それこそ、というのだ。
「夢の様です」
「そうじゃな、わしも信じられぬ」
家康にしてもだ、そこまで大きくなるとは夢にも思わなかったのだ。だからこうも言ったのだ。
「充分過ぎる程じゃ」
「百六十万石ともなれば」
「もうこれ以上は望まぬ」
それこそというのだ。
「もうな」
「左様ですか」
「むしろじゃ」
こうも言うのだった。
「ここでよりな」
「より、ですか」
「これ以上のものを望めばな」
「よくはないと」
「そうじゃ、破滅するわ」
そうなるというのだ。
「今でも充分過ぎるからな」
「三国、百六十万石で」
「そうじゃ、これ以上は望まぬ」
「それは例え目の前にあってもですか」
本多がここで家康に問うた。
「百六十万石以上のものが」
「うむ、それでもじゃ」
家康は本多にも答えた。
「わしは望まぬ」
「百六十万石以上は」
「左様ですか」
「欲は張らぬ」
家康はこう言い切った。
「充分過ぎるわ」
「それでこれ以上欲を張れば」
「それが、ですか」
「破滅になるからのう」
それを危惧しているのだ、慎重な家康は。
「もうこれでよい。御主達もそう思わぬか」
「そういえば殿は天下は」
石川は家康にあえて問うた。
「それは」
「ははは、天下か」
「望まれたことはありませぬな」
「わしはその立場にない」
それでというのだ。
「だからな」
「天下を望まれることもですね」
「ない」
実にはっきりとした言葉だった。
「一度もな」
「そうでありますか」
「天下は吉法師殿のものじゃ」
このことを確信しているからだ、家康は言うのだ。
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