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戦国異伝

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第二百四話 箱根八里その八

「だからじゃ」
「はい、このまま」
「箱根に」
「進むぞ」
「それでは」
「このまま」
 兵達も応えてだ、そしてだった。
 一路箱根に進んだ。箱根の関も砦にも一兵も損なうことなく入ることが出来た。北条の兵達は僅かで徳川の軍勢を見るとすぐに降った。
 それを受けてだ、家康は兵達にあらためて言った。
「よし、ではな」
「はい、梅をですな」
「これより」
「好きなだけ食い喉を潤してじゃ」
 そして、というのだ。
「そのうえでな」
「はい、味噌も食いですな」
「今は」
 味噌は戦の弁当としては馳走だ、だから兵達もそれがふんだんに食えることを喜んでいるのだ。
「ではこれより」
「たらふく」
「食うのじゃ」 
 家康は兵達に約束通り梅と味噌をふんだんに食わせた、無論飯もだ。そしてその飯を自分も食う中でここでは本多正信と石川に言った。
「これでよしじゃな」
「はい、我等の仕事は」
「ここでは」
「無事終わった、では小田原に戻りな」
 そうしてというのだ。
「吉法師殿をお助けに参ろうぞ」
「信長殿との約束通り」
「そうされるのですな」
「約束は守らねばな」
 それは当然というのだ。
「だからじゃ」
「しかし殿は」
 家康の約束を守ることを当然という言葉を聞いてだ、石川はその顔を綻ばさせてその家康に対してこう言った。
「まことに律儀ですな」
「ははは、そう言うか」
「はい、いつも思うことですが」
「この戦国の世で、というのじゃな」
「裏切りが常です」
 戦国では、というのだ。石川も。
「しかし殿はあくまで律儀に徹されるので」
「裏切ることは好きでないのじゃ」
 家康はその顔を少し曇らせて答えた。
「実際にな」
「それでなのですか」
「そしてじゃ」
 家康は石川にこうも返した。
「裏切った者を御主はどう思う」
「人を裏切る者を」
「そうじゃ。どう思うか」
「信じられませぬ」
 石川は家康の問いにこう答えた。
「とても」
「そうじゃな」
「はい、他の者が裏切られてもです」
「自分もと思うな」
「そう思いますと」 
 とても、というのだ。
「信じられませぬ」
「そうじゃな、だからじゃ」
「殿は裏切りませぬか」
「うむ、裏切る者は最初から信じぬしな」
「こちらからはですな」
「決して裏切らぬ」
 家康は石川にこうも答えた。
「わしはな」
「左様でありますか」
「しかも戦国の世は終わる」
 家康はこのことは確信を以て答えた。 
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