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転生とらぶる

作者:青竹
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番外編033話 if 真・恋姫無双編 03話

 正直、アクセルとしてはいつの間にか迷い込んだこの世界にどうしたらいいのかと、半ば混乱していた。
 最初に遭遇したのが盗賊であり、その次には3人の女。そして次に曹操が現れ、その部下が斬りかかってきて、そこから移動すれば関羽に刃を向けられる。
 極めつけが、目の前に現れた女だ。
 一言で言えば肉感的な美女だと表現出来るだろう。
 今までの相手と違ってかなり友好的な接触ではあったのだが、口にした言葉が『自分の仲間にならないか』だったのだ。
 孫策と名乗った女の言葉に、アクセルはどこか呆れたように口を開く。

「仲間って……初めて会ったばかりの俺をか? なんでまたそんな酔狂な事になる?」

 ある意味では当然のアクセルの疑問だったが、孫策は全く気にした様子もなく髪を掻き上げつつ口を開く。

「んー……勘、かな」
「……勘、ねぇ」

 そんなアクセルから返ってきた言葉に、今度は何故か孫策が驚きの表情を浮かべる。

「え? ちょっと。何でそんなにあっさりと? 普通ならここはそういう態度じゃないでしょ!?」
「いや、勘なんだろ? 勘に明確な説明を求めてもな」

 勘で自分を仲間に欲しいと思った。それだけを聞けば、普通なら呆れるところだろう。だが、アクセルは納得していた。……寧ろ自分という存在を引き込む事を求めた目の前の女の勘に、納得の表情すら浮かべていた。
 それは、やはりアクセル自身が勘によってこれまで幾度となく命の危機を脱してきたからこそだろう。
 もっともアクセルの勘は孫策と名乗った女の勘とは明確に違う。念動力という、確固とした下地があってこその勘なのだが。

「貴方、変わってるわね。私が勘でどうこうしたって聞いたら、普通なら胡散臭そうにするのに」
「ま、俺も勘は鋭いからな。……じゃなくて」

 孫策のペースに乗せられていると判断したのだろう。一端言葉を止め、改めて目の前の孫策に視線を向ける。
 この時に見るのは、外見の美しさではなく孫策と名乗っている女がどれだけの力量を備えているのか。
 その点でいえば、目の前にいる孫策は確かに一級品だとアクセルに感じさせた。
 ネギま世界の魔法使い達程に強力な力を持っている訳ではないが、ギアス世界、SEED世界、マクロス世界の軍人達では生身で戦っても絶対に勝てないだろうと判断する程には。

(曹操、関羽と来たんだし、名前に孫って付いているからには恐らく孫権の関係者なんだろう。曹操の魏や劉備の蜀に比べると、孫権の呉の方がまだ身を寄せるにはいい……のか? 他の2国と違ってこっちの話を聞かずに襲ってくるようなのもいないし。それに、いずれは三國志の呉になるんだから、細々とした面倒臭い事とかもなさそうだ)

 内心でそう考えるアクセルだったが、三國志を殆ど知らないという事の弊害がこれでもかと出ていた。
 現状の呉というのは国ですらなく、袁術の部下でしかないというのを知らなかったのだから。
 もしそれを知っていれば、アクセルとしても即座に仲間の誘いを断っただろう。
 だが、それを知らないアクセルは……

「そうだな、取りあえずお試し期間的な感じでなら付き合ってやってもいいぞ」
「お試し期間? ……ようは客将って事かしら」
「まぁ、そんな感じだ。色々とこの辺の事情とか知らないし、その辺に慣れる為にもな」

 一先ずの場所として、孫策の誘いを了承したのだった。





「冥琳、冥琳、めいりーん。ほら、見てみて。客将だけどいい人を掴まえちゃった」

 孫策が現在拠点としている南陽へと戻り、屋敷の中へと入ると大声を上げて呼びかける。
 その声が聞こえたのだろう。屋敷の奥から2人の人物が姿を現す。
 2人とも褐色の肌であるというのは孫策と変わらず、魅力的なボディラインと露出の派手な服装だというのもまた同じだ。違うのは、片方の女は眼鏡を掛けており知的な印象を受け、もう片方は弓を持ち武人らしい気配を発している事だろう。
 そんな2人は、孫策が姿を現したのを見て安堵し、次いで書類仕事をさぼって抜け出した事に怒り、最後にアクセルへと視線を向けた。
 最初にその視線に込められたのは、疑念。その後で説明を求める視線が孫策へと向けられる。

「だから客将よ客将。いいでしょ?」
「いや雪蓮。お前な……この大事な時に見ず知らずの男を連れてきて客将にしましたと言っても、はいそうですかと受けいれられると思うか? そもそも、その男はどこの誰なんだ? 見たところかなり腕が立ちそうだが……それに、見た事もない服装をしているな」

 眼鏡を掛けた女の言葉に、雪蓮と呼ばれた孫策は自慢げに自己主張の強い胸を張る。

(雪蓮? ……ああ、なるほど。真名って奴か)

 そんなやり取りを聞きつつ、アクセルは盗賊から聞いたこの国の風習を思い出す。
 真名、即ちその者の本人が心を許した相手にのみ呼ぶ事を許す名前であり、本人の許可なくその名を呼んだ者は問答無用に斬られても当然という、ある意味ではとんでもない風習。

(そもそも、そんなに大事な名前なら安易に人前で呼ぶのってどうなんだ? それに、敵を誘き寄せる時とか、その真名を連呼すれば簡単に成功するんじゃないか?)

 内心でそう考えるアクセルだったが、もしそんな真似をすればこの世界ではまともに生きていく事すら難しくなるだろう。真名というのは、それ程のものなのだから。

「策殿……この者を本当に客将として迎え入れると?」

 弓を持った女がアクセルに視線を向けながら尋ねる。
 ただアクセルという存在を見ているだけだというのに、その女の額には汗がびっしりと浮かび、背中には冷たいものを感じていた。
 自らの武には自信がある。だからこそ並大抵の相手に負けるつもりはなかったが、それでも女はアクセルを見た瞬間、自分では勝てないと本能的に理解してしまった。

(儂も老いたのぅ。堅殿と共に戦場を駆け巡った時は、どのような相手にも負けるなどとは考えなかったものなのじゃが……)

「ええ。祭は反対かしら?」
「……強い、というのは分かり申す。じゃが、寧ろそれ程の強さがある者が儂等に協力してくれるというのは……都合が良すぎませぬかのぅ?」

 チラリ、とアクセルに視線を向ける祭。
 だが、そんな祭にアクセルは小さく肩を竦めて口を開く。

「ちょっと訳ありなのは事実だな。俺にはいるべき場所がある。そこに戻る時が来たら、お前達の勢力からは抜けさせて貰う。そういう意味では客将という立場でいいのかもしれないが、それまでは精々働かせて貰うつもりではいる」
「でしょ? ほら、とにかくこんな場所で話していてもしょうがないじゃない。一端部屋の方に戻って自己紹介でもしましょ」

 孫策の言葉に従い、結局一同は奥の方にある部屋へと向かうのだった。





「アクセル・アルマーだ。こことは全く違う場所から来たから、妙な名前だと思うだろうが、俺がここを離れる時まではよろしく頼む」

 椅子に座り、卓を前に向かい合ってまず最初にアクセルが自己紹介する。
 それを聞いたうちの眼鏡を掛けている方の女、冥琳と呼ばれていた女が口を開く。

「私は周瑜。この軍の軍師を務めている」

 怜悧という表現がこれ程似合う女も珍しいだろう。
 だが、その女が周公瑾と名乗ったのを聞き、アクセルも何かを思い出すように納得する。

(なるほど。確か呉でも有名な軍師……だった、よな?)

 そんなアクセルを前に、次は弓を持った祭と呼ばれていた女が口を開く。

「儂は黄蓋。まぁ、この呉のご意見番といったところじゃろうな。お主のような腕利きが加わってくれて、嬉しく思うよ。腕も相当のもののようしゃし」
「ご意見番……?」

 黄蓋の言葉に首を傾げるアクセル。
 普通であれば、ご意見番というのは50代、60代といった年齢の者が務めるべきだという認識があったからだ。だが、目の前にいる黄蓋はどう見ても20代にしか見えない。
 もっとも、それを言うのならシャドウミラーにもご意見番的な役割をする年代の人物はいないのだが。

(最も年上なのがムラタだしな。……ああ、いや。純粋に年齢で考えるとエヴァがいるか。というか、エヴァの存在だけでシャドウミラーの平均年齢を引き上げているんだよな)

 本人に聞かれれば怒り狂って氷の魔法を使われそうな事を考えるアクセル。
 そんなアクセルに、孫策が口を開く。

「で、改めて私も自己紹介するわね。孫策よ」

 そこまでであれば、話の流れを考えれば自然であったのだろう。
 だが……それに続けた言葉を聞き、周囲の者は驚愕の声を漏らす。

「真名は雪蓮ね」
『なっ!?』

 唐突に告げられた真名に、仲間の2人だけではなくアクセルまでもが驚愕の声を上げる。
 真名を預けるというのは、心を許した証。それは捉えようによっては愛の告白に近いものがあるのも事実だったからだ。
 そこまで深く考えていた訳ではないのかもしれないが、2人にとっては主君が何を考えているのか全く意味が分からなかった。

「あら、冥琳も祭も何を驚いてるの?」
「雪蓮、お前こそ何を考えている! そう簡単に真名を預けるなど! その意味を理解していないお前ではないだろう!」

 断金の交わりとも言える自らの親友の行動に、周瑜は思わず叫ぶ。
 だが、本人は全く関係ないとばかりに肩を竦めて口を開く。

「だって、ここで真名を預けた方がいいって感じたんだもん。しょうがないじゃない」
「……せめてもっと明確な理由をだな……どうせいつものアレなんだろう?」
「そうよ、さすが冥琳。私の事をよく分かってるじゃない。か・ん・よ」

 はぁ、とそれは見事なほどに苦い溜息を吐いて親友を一瞥し、改めてアクセルの方へと視線を向ける。

「雪蓮がこう言っている以上、お前には何かがあるんだろう。主君が真名を預けたというのに、私がそのままってのもちょっと変だしな。取りあえず真名は預けよう。……お前にそれだけのナニカがある事を期待している。私の真名は冥琳だ」
「むぅ、それでは儂だけが真名を預けぬ訳にもいかぬか。……まぁ、確かにお主程の実力があれば一角の人物にはなるであろうな。儂の真名は祭じゃ。これから、よろしく頼むぞ」

 冥琳と同様に完全に信頼した訳ではなく、半信半疑。それも主君である雪蓮が信じているから……という祭の態度だったが、現状で考えればそれもしょうがないだろうとアクセルは判断する。

「残念ながら俺の住んでいた場所には真名という習慣がなかったから、真名を預けるという事は出来ないが、よろしく頼む」
「真名がない……とは、また随分と遠くからやってきたようだな」

 鋭い視線を向けて尋ねる冥琳に、アクセルは確かにと頷く。

「確かに遠い……遠すぎる場所からやって来たな。今のところ、自力では帰る事すら難しい場所から」

 そもそも世界が違うのだから、システムXNがなければ帰る事すら出来ない。
 そんな思いが表情に出た訳ではないのだろうが、祭が口を開く。

「それより、お主が強いというのは大体理解出来る。じゃが、具体的にそれがどれ程の力を持っているのかを知りたい。……策殿、明日の賊退治でこの者の力を見極めてはどうかの? 冥琳にしても、アクセルがどの程度の実力があるのかを見れば多少は疑惑の目を向けなくても済むじゃろうし」

 そう告げる祭自身、アクセルに関しては疑惑の目を向けてはいる。
 だが、それでも……その実力に関してだけでは本物だろうという認識が心の中にあった。

「賊? ……へぇ、何人くらいいるんだ?」

 そんな祭の言葉に興味を持ったのだろう。一瞬浮かべた沈鬱そうな表情を消し去って尋ねるアクセル。

「500人以上はいるらしいわね」
「……なるほど。なら、確かに俺の実力を見るって意味では手頃かもしれないな」

 呟くアクセルだったが、雪蓮達3人とアクセルの間では決定的なまでの認識の違いがある。
 雪蓮達にしてみれば、アクセルが部隊を率いてどの程度の実力を発揮出来るかという思いで口にした内容であり、アクセルは自分1人で500人の賊を倒せるかと問われている認識だった。
 普通であれば、アクセルの認識は有り得ないものだろう。どんな人間であっても……それこそどれ程の力があっても、体力の限界というものがあるのだから。
 だが……この場合はアクセルがこの世界と比較しても桁外れの戦闘力を持っており、更に本人がそれを自覚していた事がお互いの勘違いを加速させた。

「相手は500人以上だが、何人必要だ? あれ程の大口を叩いたのだ。よもや相手よりも多くの兵士を揃えて欲しいとは言うまいな?」

 だからこそ、アクセルは冥琳の言葉を聞き、首を傾げる。

「何言っているんだ? 500人程度の人数を片付けるのに、兵士が必要な訳ないだろ」
「……な、に?」

 何を言っているんだ。
 そんな風に視線を向けてくる冥琳。いや、それは冥琳だけではない。雪蓮と祭の2人も同様だった。
 だが、アクセルは特に気負った風もなく口を開く。

「俺の実力を見たいんだろ? 正直相手が500人程度じゃ肩慣らしにもならないだろうが、初めての戦いだしな。まずはその程度の人数からでいいだろ」

 何を言っているのか分からない。
 予想外の出来事に思わず固まってしまった冥琳だったが、すぐに我に返る。

「待て待て待て! お前、自分で何を言っているのか分かっているのか!? 相手は500人だぞ!」
「ああ、だからその程度の人数なら何とでもなると言ってるんだよ」
「だから!」
「冥琳」

 更に何かを言おうとした冥琳の言葉に、雪蓮の言葉が割って入る。
 雪蓮に向かって何かを言おうとした冥琳だったが、その表情に浮かんでいるものを見て大人しく矛を収めた。
 そこに浮かんでいるのが、酷薄とすら表現出来るような表情だったからだ。

「アクセル、自分で言った以上は出来ませんでしたじゃ済まないわよ? 自分の言葉にはきちんと責任を持って貰うわ。今ならまだ間に合うけど……どうする?」

 どこか試すかのように告げてくるその言葉に、あっさりとアクセルは頷く。

「問題ないさ。この世……いや、この地の住人の戦闘力は大体理解した。それを全て込みで考えた上で、大丈夫だと判断したんだからな」
「……いいわ、ならお手並み拝見と行きましょうか。冥琳、穏はそろそろ戻ってくる筈だったわね?」
「……ああ。兵の訓練で少し遠くに出ていたが、今夜中には戻ってくる筈だ」
「なら決まりね。明日、アクセルの自信に満ちた言動が本物かどうかを見させて貰いましょうか」

 こうして、その日の夜は過ぎ……





「……嘘……」
「何ともはやまぁ……」
「へぇ、口だけじゃなかったのね」
「うわぁー……自分の目で見ても信じられませんねぇ」

 翌日。一応念の為とばかりに兵士を揃えて賊の陣地を見ていた雪蓮達は、その陣地ごと業火に飲み込まれていくのを、ただ呆然と見ているしか出来なかった。
 こうして、アクセルは自らの戦闘力により部隊を率いる事のない部隊、いわゆるワンマンアーミーとして呉の中で頭角を現していく事になる。 
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