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転生とらぶる

作者:青竹
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番外編032話 if 真・恋姫無双編 02話

 劉備、曹操、孫権。言わずと知れた三國志に出てくる、主人公と言ってもいい存在達である。
 三國志についての知識が殆どないアクセルにしても、名前を知っている有名人。
 そんな人物の名を名乗る相手が目の前にいる。それにアクセルは驚きから我に返ると、内心で考え込む。
 もしも目の前にいるのが男であったのなら、疑問に思いつつも納得はしただろう。
 だが今アクセルの目の前にいるのは、どう考えても男ではなく女。いや、少女でしかない。
 それでも目の前の相手の名乗りを一笑に伏せなかったのは、その少女の纏っている雰囲気があったからこそだろう。

「曹操、か。それで俺に何を聞きたい?」

 取りあえず今はその疑問については棚上げし、話を進める事にしたアクセルの問い掛けに、曹操を名乗る少女は面白そうな笑みを浮かべてアクセルを見やる。
 その行為が……より正確には、曹操の視線がアクセルに向けられているのが気にくわないのだろう。先程からジワリと殺気を滲ませつつあった女が、鋭い視線をアクセルに向けながら口を開く。

「華琳様に生意気な口を利くな! お前はただ黙って華琳様の御言葉に従っていればいいのだ!」
「姉者、この者が例の書物を盗んだ者ではないというのは状況から見て明らかだ。そんなに喧嘩腰になる事もなかろう」

 そう声を掛けたのは、青い髪をしている女。背中に弓を背負っていることから、なかなかの腕だろうとアクセルは予想する。

「まぁ、春蘭に関してはともかくとして……貴方色々と訳ありみたいね。それに、その服もこの辺の物ではないようだし。ちょっとその服を見せて貰えるかしら?」

 アクセルの着ているシャドウミラーの軍服は、確かにこの時代……目の前にいるのが曹操であるとして、間違いなく珍しい代物だろう。ホワイトスターに居を構えてから行われた技術班が開発した特殊繊維によって作られているのだから、当然だが。

「悪いがこの服は一張羅でな。遠慮して欲しい」

(なるほど。こういうのが揃っているから、あの3人はさっさと逃げ出したのか。情報を得るにしても、こっちじゃなくてあの3人についていった方が良かったかもしれないな)

 官軍が来ると知り、さっさと去って行った3人組の女を思い出し、微妙に後悔しながら馬上で話している女達を眺めていたアクセルだったが、不意に先程から殺気を滲ませていた女が馬上から飛び降りるや、アクセルの方へと向かって走ってくる。……いや、距離を縮めてくる。
 その手に持たれているのは、身の丈程もある巨大な剣。アクセルの主観ではクレイモアと呼ばれる物に近かった。
 少なくても、追い剥ぎの男から奪い取った粗悪品の長剣で受け止められるかといえば、答えは否だろう。

「貴様ぁっ、華琳様の言葉に従えないというつもりかぁっ!」

 振るわれる大剣と共に吐き出される言葉。
 だが、アクセルとしては目の前にいる女が何を言っているのか全く理解出来なかった。
 別にアクセルは曹操を名乗る人物の言葉を無視した訳ではない。寧ろ、3人で話していたのが落ち着くまで待っていただけだ。
 だが大剣を振り上げている女の中では全く違う解釈になったのだろう。どのような思考経路を辿ったのかはアクセルには分からなかったが、それでも自分に対して殺意を向けているのは確かだった。
 勿論、気も魔力も通っていない一撃で混沌精霊のアクセルがどうにかなる訳はない。しかし、今の状況で自分の特異性を見せるのは色々と危険だと判断し、振り下ろされた大剣の一撃を横に移動して回避する。
 同時に、地面にぶつかりかけた大剣の動きを力ずくで止めた女は、そのまま撥ね上げるようにしてアクセルの胴体を狙う。
 間違いなく当たれば命を奪うだろう攻撃。

「春蘭!」
「姉者!」

 そんな声が聞こえてくるが、命を狙われて黙っていられる程にアクセルも温厚ではない。
 膝を撥ね上げ、肘を下ろす。大剣の刀身をその間に挟むようにして受け止める。

『なっ!?』

 驚きの声を上げたのは春蘭と呼ばれた女だけではなく、他の2人もまた同様だった。
 そのまま春蘭と呼ばれた女が驚きにより一瞬動きが止まった隙を見逃さず、そのまま肘と膝で大剣を受け止めた状態のまま捻るように身体を動かす。

「あぐぅっ!」

 空中に舞い上げる大剣。

「はぁっ!」

 そうして、舞い上がった大剣が落ちてきたところで柄の部分を思い切り蹴ると、次の瞬間には大剣が物凄い勢いで東の方へと飛んでいく。

『……』

 今何が起きたのか分からない。そんな状態の3人へと、アクセルは冷たい視線を向けながら口を開く。

「なるほど、曹操というのは自分の欲しい物であれば相手を殺してでも奪い取る盗賊の類だったのか。よく分かった。語るに値しない相手だというのがな」
「待ちなさい! 私は……」
「これ以上見苦しい言い訳をするな、盗賊の小娘。違うというのなら、そこにいる女を処罰して見せろ。勿論命を狙った処罰なのだから、俺が納得出来るような処罰をな」
「ぐっ、そ、それは……」

 言葉に詰まる曹操と、その横でそっと弓に手を伸ばしている女を一瞥するアクセル。
 女にしてみれば、自らが敬愛する主の汚点となりかねない男は今ここで命を絶った方がいい。そう思ったのだろうが……アクセルに視線を向けられては動く事が出来なかった。
 これ以上主である曹操に汚名を被せる訳にはいかないのだから。

「……どうやら無理なようだな。曹操、か。名前負けにも程がある。盗賊の親玉として、その名前は覚えておこう」

 それだけを告げ、そのまま3人に背を向け歩き出すアクセル。

「貴様ぁっ! 華琳様に向かって盗賊だと!?」

 大剣がどこへともなく蹴り飛ばされて呆然とした春蘭だったが、自らの命よりも大事にしている曹操を盗賊呼ばわりされては我慢出来る筈もない。
 武器がないのなら素手で殴ろうと拳を振り上げ……

「春蘭、止めなさい! これ以上私に恥を掻かせないで!」

 鋭い叱責の声が曹操の口から飛び、春蘭は動きを止める。
 その様子を一瞥すらせず、アクセルはその場を去って行く。
 それを黙って見送るのは曹操。
 自らの右腕とも言える春蘭が引き起こしたこの騒動は、自分の名声をこの上なく傷つける。だが、口を封じるにしても春蘭の腕を圧倒的に凌駕するだろう武の腕を持つ相手にどうこう出来る筈も無く、ただ曹操が出来るのはこれ以上相手に悪印象を抱かせないように黙って見送るだけだった。
 今回の件で、これまで必死になって高めてきた自らの名声が地に落ちるかもしれないという恐れをその胸に抱きつつ。





 そんな曹操達から大きく離れた場所。そこに生えていた木の影からアクセルが姿を現す。

「……取りあえず魔法の類は問題なく使えるか。魔力の消費も許容範囲内だしな」

 周囲を見回しながら安堵の息を吐く。
 もしもここが魔法の類を使えない……より正確にはSPの消費が激しい世界であれば、アクセルの混沌精霊としての力も無意味に等しく……とまでは言い過ぎだが、大きく制限されていたのだろうから。

「魔力はともかくとして……」

 一端言葉を止め、先程の出来事を思い出す。

「曹操が女とか……どういう世界だよ。もしかして俺に斬りかかってきたあの女とか、弓を持っていた女も有名人だとか言わないよな? いや、そもそも三國志自体殆ど詳しくないんだが」

 呟いた通り、アクセルは三國志に関しては殆ど詳しくない。
 精々劉備、曹操、孫権といった有名所を始めとして、名前の通った人数を多少知っている程度だ。

「真名とかいう慣習があるのを考えれば、恐らく何らかのゲームやアニメ、小説、漫画といった世界なんだろうが……」

 そう予想は立てられても、その原作を知っていなければどうしようもない。
 アクセル自身は気が付かなかったが、ネギま、マクロスF、マブラヴといった世界と同じパターンだった。
 マクロスFのみは過去作を知っていたから、そこまで困らなかったが。

「ともあれ、このままここにいてもしょうがない。何をするにしても、街に行くのは必要だろう」

 呟き、周囲を見回すもどこにも人の姿はない。
 それでもどちらに向かえばいいのかと考え、適当に道端に落ちていた木の枝を放り投げ、その先端が向いた方に歩いて行った……のだが。

「どうしてこうなった」

 うんざりとした表情で呟くアクセル。
 その眼前には薙刀と槍が合わさったかのような……俗に青龍偃月刀と呼ばれる武器が突きつけられていた。

「盗賊が桃香様に何のつもりで近づいた! 言え!」

 黒髪をポニーテールにしている女の言葉に、微かに眉を顰めるアクセル。
 別にこれといって何をした訳でもない。ただ、道を歩いている途中草原で眠っている人物を見かけ、人のいる場所を聞こうとした。
 それだけの筈だったのが、声を掛けようとしたところで少し離れた場所にいた目の前の女が鼻息も荒く、持っていた青龍偃月刀を突きつけてきたのだ。

「ご主人様と鈴々が別行動をしている今、桃香様はこの関羽がお守りする!」

 その名乗りに、再びアクセルはどうしてこうなった、と内心で呟く。
 関羽。即ち、蜀の王となる劉備に仕えた武将であり、後に神格化までされた存在。

(何度も思うが、どうしてこうなった……)

 関羽と言えば、美髭公とも呼ばれる存在だ。少し前に遭遇した曹操と同じく、女であるが故に髭ではなく髪が美化されているのだろうが、それでもこうして刃を突きつけられる覚えはなかった。

(こいつの言うご主人様ってのが、恐らく劉備なんだろうが……そうなると、この桃香ってのがまさか張飛だったりするのか? いや、鈴々ってのがいた筈だけどそいつは……孔明だったりするのか?)

 眼前の出来事に内心で大いに戸惑いつつも、まずは誤解を解くべく口を開く。

「別にその女にどうこうするつもりはない。ただ、俺は聞きたい事があっただけだ」

 だが、その言葉が悪かったのだろう。アクセルの言葉を聞いた関羽が、視線に殺気を込めて睨み返す。

「その女、だと? 桃香様になんという口の利き方を……」
「いや、そもそも名前を知らない相手にどうしろと」
「ううーん……何ぃ?」

 寝ていたとしても、自分のすぐ近くでこんなやり取りをしていれば気が付かない筈もなく、関羽に桃香と呼ばれた女が目を擦りながら周囲を見回す。
 そうして視界に入ってきたのは、自らの妹分とその妹分に刃を突きつけられている男。
何が起きているのか全く分からないまま、ともかく妹分を止めなければならないと判断して口を開く。

「ちょっと愛紗ちゃん! 一体何してるの!?」
「桃香様、この者は寝ている桃香様に近づいてきた不審人物です。ご主人様から桃香様の安全を任されている以上、見過ごす事は出来ません」
「待って待って待って。この人が本当に不審人物かどうかなんて分からないでしょ? えっと、えっと……その、うちの愛紗ちゃんがすいません。その、何か用事でもあったんでしょうか?」

 慌てて取りなすように伝えてくる桃香の言葉に、アクセルは再度言葉を口にする。

「ちょっと街までの道を教えて欲しいと思って近づいただけなんだがな。そうしたらそこの女にいきなり武器を突きつけられた訳だ。……正直、こんなのがあの関羽だとはな。期待外れもいいところだ。所詮噂は噂って事か」
「き、貴様ぁっ!」

 アクセルの言葉が許せなかったのだろう。青龍偃月刀を再び構えようとするが……

「愛紗ちゃん!」

 桃香のそんな一声で、その動きは止まる。

「……いや、もういい。お前達に構った俺が馬鹿だっただけだ」

 そう告げ、アクセルは未だに殺気を振りまいている関羽をその場に残して背を向ける。

「ちょ、ちょっと待って下さい! その、愛紗ちゃんは決して悪い人じゃないんです! その……ただ、責任感が強くて! それに、その……そう、貴方が見た事もない服を着ているから、きっと驚いただけなんです!」
「桃香様! あのような怪しげな者にお声を掛ける必要は……」

 背後でそんな声が聞こえてくるが、アクセルは既に構う必要も無しと判断してその場を後にする。
 その背を見送っていた少女も、これ以上何かを言っても無意味だと判断して残念そうに俯く。
 皆が笑顔になる為に立ち上がった。それに天の御使いであるご主人様を見つける事も出来た。だというのに、決定的な何かを間違えてしまったような……そんな感覚。
 胸の中にある思いに、ただ去って行くアクセルの後ろ姿を見送るのだった。





「2度ある事は3度ある……ってならないといいんだけどな」

 関羽と出会った場所から大きく離れた場所で、アクセルは呟く。
 影のゲートという魔法がある為、アクセルの移動速度はこの世界の住人の想像を超えている。
 勿論魔力の限界があるのだから、無制限とはいかない。だが、それでも普通の人間に比べれば、その移動速度は比べものにならない程だった。

「今度は街に到着出来ればいいんだけど……ん?」

 道を歩きながら、ふと気が付く。視線の先にある木。その枝の上に1人の人物が潜んでいる事を。
 殺気の類は感じられないし、敵対する相手ではないだろうと判断したアクセルは、丁度いいとばかりにその木の下まで移動して声を掛ける。

「悪いが、近くにある街までどれくらい掛かるか教えてくれないか?」
「あら? 私に気が付いたの? ……へぇ」

 アクセルの言葉に、声の主が木の枝から飛び降りる。
 その際に豊かな胸が弾み、一瞬そこにアクセルの視線が向けられたのは男としてしょうがない出来事なのだろう。

「ふーん……見た事のない服を着てるわね。……ね? 貴方、名前は?」
「人に名前を聞く時は、自分から名乗るもんだと思うが……いやまぁ、今回は俺が道を聞いたんだから名乗らせて貰おうか。アクセル・アルマーだ」
「アクセル・アルマー……? また、妙な名前ね。着ている服も変だし」
「いや、服装に関してお前に言われたくないんだがな」

 アクセルの前にいる女は、肩と胸元を大胆に露出させた格好をしており、胴体の部分も大きく開かれている。足下も深いスリットが入っており、肉感的な太股の大部分が見えていた。
 アクセルにしてみれば、どう考えても男を誘っているような服装にしか思えなかったのだが、本人は全く気にした様子も無く口を開く。

「そう? まぁ、一応褒めてくれていると思っておくわ。それで、自己紹介だったわね。私は孫策よ」
「孫策?」

 思わず首を傾げるアクセル。
 曹操、関羽ときたのだから、次は呉関係の人物が来ると思っていたのだ。
 もっとも、アクセル自身が三國志の知識が殆どない為に、知っている人物と言えば孫権、甘寧、周瑜くらいだったのだが。
 だが、そんな戸惑いを無視したかのように孫策と名乗った女はじっとアクセルを見て……

「ねぇ、アクセル。もし良ければ私の仲間にならない?」

 そう告げたのだった。 
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