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未来から来た魔王

作者:天野遥
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魔王の会談

 
前書き
遅くなりました。すみません。 

 
「あの、家は……?」

そう聞いて来るのはこの前新たにカンピオーネとなった満月北斗様。
誰もが恐るる王の中の王、カンピオーネになった彼はまだ若く可愛らしかった。
それはともかく実際私も困っているのである。どうして日本にいるもう一人の王が久しぶりに要求したことが『戦い』だなんて。


「すみません、王よ。私は正史編纂委員会に勤める身。故に上からの命令は断れません」


「それって僕より偉い人がいるってことですか?」


「いえ、立場的には同格なのでしょうが彼は正史編纂委員会の盟主です。そのため私は彼には逆らえません」


「そうなんですか。で、その偉い人っていうのが目の前の……」


そう言って私のそばに立っている外国人の若い女性を連れている男性に目を向ける。


「久し、初めまして草薙護堂です。こっちはエリカ・ブランデッリ」


「初めまして、満月王よ。護堂に仕える騎士、エリカ・ブランデッリです。以後お見知り置きを」


「あ、どうも」


満月様は困ったような顔をしていた。何しろこの数日で知らない人ばかり現れたのだ。困惑するのも無理はない。


「こちらが正史編纂委員会の盟主、草薙護堂様です。満月様と同じカンピオーネなんですよ」


「それでどういう要件なんでしょうか?」


満月様は護堂に要件を聞こうとしたがそれに答えたのは護堂ではなくエリカだった。


「満月王には我が王と戦ってもらうわ」


「それは……、殺し合いということですか?」


「いや違う。ただ君の実力を見たいだけなんだ」


「もしやらないと言ったら?」


「俺は正史編纂委員会のトップだからな。うちはお前を庇護しないということだ。逆にこの誘いに乗ってくれるんだったら家ももちろん用意するし日用品の手配も何不自由なくやってやる」


満月様はうめき声を上げながら考えていたが、カンピオーネならばどこの組織でも引く手数多なはず。
つまりこの戦いは別に必要無いのだ。
草薙王たちも小声で、


「あなたも年月が経つにつれ自分の欲望に忠実になってきたわね。まるでドニ卿のようだわ」


「俺をあんなバカと一緒にするな」

と、じゃれ?あっている。

「それはそうと北斗王がこんなにかわいいのは意外だったわ。彼って結構ワイルドっぽいイケメンだったじゃない。決闘が終わったら少しだけ私にお話しさせてよ」

「ダメだ」

「あら、嫉妬してるの?でも、大丈夫よ。私の心はいつだってあなたのものなんだから」

「そ、そ、そんなこと人前で……」

「いいじゃない、私はあなたと一緒にいられるだけで幸せよ」

「……もう好きにしてくれ」

頬を染めながら満更でもなさそうな笑みを浮かべる草薙王。


そんな光景を端に満月王はこの件に対して考えているようだった。


然し逡巡もあまり長くは続かなかった。



「分かりました。そのかわり僕が勝ったらその座譲ってもらいますからね」


「ちょっと待って。それって俺の方が不利なんじゃ……」


「まあいいじゃないの、勝てばいいのだし。それにそっちの方が面白、盛り上がりそうだし」


「おまえ、絶対楽しんでるだろ⁉︎」


そんな王達(エリカもだが)を見て一人場がなじんだことに緊張を少しだけ解いた私であった。













魔王たちの会談が終わった後。私と満月様はホテルに来ていた。
長野を見渡せる高さのビル、その最上階に満月様の部屋はあった。
私の今日の任務はここまで。それから先は任務を引き継ぐ係に引き継ぐはずであった。


「今日はありがとうございました。明日も宜しくお願いします」


そう言って自分の部屋に入ろうとする満月様。
 
「こちらこそお時間を割いて頂いて」


「そんな敬語じゃなくていいのに。僕の方が年下なんだよ」


「では今日はこれに居て失礼させて頂きます」


そう言って明日の予定を考えながら歩いていると後ろから呼び止められた。


「あのこれってどうやって使えばいいの?」

満月様は右手の客室カードを掲げて見せていた。
……私の仕事はまだ終わりそうになかった。






「葵さんて普段何をなさっているんですか?」


ここはホテルの大浴場。私と満月様はそこで一緒に風呂に入っていた。
なんでもずっと小父さん(神)と二人で風呂に入っていたから自分にも一緒に入ってほしいとお願いされたからだった。
これが自分の年に近いかもしくはそれ以上の年齢だったのならば嫌々、しぶしぶといった感じで入ったかもしれない。だが、満月王は自分よりも一回りも小さい子供、さしたる抵抗もせず風呂に入ることになった。
このころになると満月王に慣れてきたのかもしれない。普段以上に饒舌になっていた。


「そうですね。普段は情報収集を主にやっていますね」


「何故正史編纂委員会に入ったんですか?」


私は自分が委員会にはいった理由を思い出していた。


「私はもともと≪民≫の呪術師でした。私の両親も強くはなかったですが神に対抗するための術を完成させるための心やさしい人たちでした。しかし……」


「正史編纂委員会は全ての呪術師や霊能者は委員会に所属しなければならない、などという横暴に出たのです」


葵は続けた。

「……私の両親は委員会に殺されました。《民》の中でも力を持っていたからです。私は委員会に所属し多くの呪術師達は委員会に入りました。私が委員会に入ったのはそんな理由です」


満月様は真剣な眼差しで私の話をきいてくれていた。


「すいません、満月様。私の話など……」


「そんなことない、そんなこと」


満月様は私の話を聞いて2、3頷くのみであった。


「それはともかく、誰が満月様の側女になるのでしょうかね」


「えぇ、ぼ、僕はまだ……」


「それでもカンピオーネの側に異性を近づけるのは定石だと思います。寵愛をもらえたら組織としても嬉しいですし子種ももらえる可能性が増えます。今委員会は草薙様という魔王の駒を所持しているのですから欲を書く可能性は多いにあると思いますよ」


「そ、そんなーー。僕は家が欲しかっただけなのに」


「まぁ、最悪私を隠れ蓑にして女性を寄って来なくすればいいんですよ。そうすれば委員会も納得するでしょう」


「そうですね、とりあえず明日の決闘は勝つつもりで頑張っていきます」


「草薙王は強いですががんばってくださいね」
 
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