極短編集
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
短編18「ドライフラワー・マリッジプラン」
「みんな、知ってたよ……」
「そっかあ……ありがと」
そうして彼女は、目を閉じ……
二度と開ける事はなかったのだった。
◇◇◇
あと一か月で、私達の結婚式だ!とにかく、やる事があって忙しかった。結局、式場には11回も行って、衣装だの花だの打ち合わせした。式に呼ぶ人への葉書も、大変だった。 そんな矢先……
私は、交通事故にあってしまった。
「本当に、ビックリしたぜ!」
目を覚ますと、彼がいた。 彼は、泣き笑いしていた。
「大丈夫だよ!だって、あと少しで結婚式なんだから」
私の怪我は、軽いもので済んだ。でも、それは……
彼への初めての嘘だった。
式は、滞りなく進んでいく。私は、限界点を今日のこの式に合わせた。彼にはナイショで、私の友人という事で医師も呼んでいた。
「病める時も、また健やかなる時も、これを愛し……」
神父の声が遠くに聞こえる。誓いの言葉……
ゴメンね私、嘘つくよ。
「誓います」
私は、答えた。
「……さん。どうしますか?延命されますか?」
「はっはい、お願いします」
「ただし、もって1ヶ月ですよ」
「構いません!」
そうして私は、乾燥式延命処置を、してもらった。
事故にあい、病院に運ばれた時、意識だけはあった。ただ、身体が無かった。時間も、無い。彼には、ナイショの話し。決断しか、私には無かった。
「それでは、誓いの口づけを」
神父に言われ、彼が私のベールをめくる。彼の目にも、涙があった。私の頬に流れる涙。キスをしていると、どちらの涙か分からなくなった。
「……さん。成功ですよ!」
事故から、まだ5時間。私は、延命してもらった。
「ところで……」
私は、元通りになっている身体を触りながら、医師に聞いた。
「私の身体の成分は、何なのですか?」
医師は、答えてくれた。
「水……みたいなものですよ」
永い永いキス。私の身体が、限界時間になった。身体中から、光が漏れる。彼は、驚いて私を見ていた。
「ゴメンね、私……」
私はブーケをキツく握り締めていた。
今、言わなければ!
私が、彼をシッカリと見つめると……
「みんな……みんな、知ってるよ。だから安心して、大丈夫。」
彼は、私を抱き寄せ、そう言った。周りのみんなが深く、深く、うなずいていた。誰かが、手を叩いた。1人、2人と。それは段々と増えて、教会に響く。拍手の波……
私は、暖かな拍手の波に包まれた。私は、彼の胸に深く顔を埋ずめた。
「そっかあ……そっかあ、ありがと……」
私の身体中から、光が溢れ出した。もう限界だ。私は、さよならのキスをした。
式が終わり、親族だけになった。新郎は、新婦の父と二人だけで、喫煙スペースにいた。
「身体のほとんどが無かったんです。燃えてしまっていた……」
そう言って、新郎は内ポケットから煙草を出して火をつけた。
「彼女の身体は、ほとんどが人工タンパクでした。人工タンパク・フリーズドライ法だったかな?」
「なんか、ドライフラワーみたいだなあ!ハハハハ……」
新郎達の煙は、細く長く立ち上ぼった。そこへ医師がやって来た。
「この度は……なんと言って良いのか……」
医師は頭を下げていた。
「こちらこそ、ありがとうございます。先生からのご連絡がなければ、式なんて出来ませんでしたよ」
新郎は言った。現在の人工タンパク技術は、まだまだ不安定で、ごく小規模にしか使えなかった。彼女の身体は、ほとんどを人工タンパクにしたのだ。式まで持ってくれただけで、ありがたかった。
◇◇◇
式の壇上で、新婦は目を閉じた。
人口タンパクの崩壊。
身体から漏れる光と共に、新婦は光の泡と消えた。壇上で、ウエディングドレスだけを抱き締める新郎。それを包みこむように、パイプオルガンの音色が……
教会に響いたのだった。
おしまい
ページ上へ戻る