戦国異伝
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第二百三話 蛟龍と獅子その九
「そうじゃな」
「そうだといえば」
「わしも名乗ろう」
「先程問うた通りじゃな」
「如何にも」
これが男の返事だった。
「わしが織田信長じゃ」
「そうじゃな」
「ここを通るにはわしを倒すのじゃな」
信長はその氏康に対して言うのだった。
「倒せればな」
「御主の首を取れば戦は終わる」
氏康は己と向かい合う信長に対して言った。
「そうなるが」
「それはその通りじゃがな」
「その御主を討てるかどうか」
「御主ならわかるな」
こう氏康に言うのだった。
「そうじゃな」
「ここでわしが攻めよと言う」
氏康はその信長に応える形で言った。
「さすれば兵達は御主に襲い掛かり」
「そしてじゃな」
「御主を倒さんとするが」
それでもだとだ、氏康は信長にその読みを語った。
「御主はすぐにその陣地に入るな」
「無論じゃ」
「匂いがするわ」
既にだ、氏康の鼻はそれを確認していた。それで言うのだ。
「鉄砲のな」
「その通りじゃ、わしが下がればな」
「その直後にじゃな」
「鉄砲が火を吹く」
その氏康達にだ。
「それも続け様にな」
「弓矢もじゃな」
「槍もある」
織田家が得意とするだ、この三段の攻めがあるというのだ。
「しかも数もある」
「それを破ることは容易ではないな」
「そう見るな」
「そしてその読みは正しい」
氏康にはこのこともわかっていた。
「だからな」
「御主がここで攻めてもな」
そうしてもというのだ。
「わしを倒せぬ」
「そしてその城を焼けぬな」
「そういうことになる」
「そうじゃな、ならばここはな」
「降るか」
「その時ではない」
氏康は不敵に、胸を張ってさえして信長に言った。
「御主にはな」
「ではどうする」
「ここは下がる」
即座にだ、氏康はこの断を下した。
「そうするわ」
「ほう、下がるか」
「ここはな」
「ではどうして下がる」
このことをだ、信長は氏康にあえて問うた。
「ここまで来た道は既に織田の兵が抑えておるぞ」
「そこを通り抜けて来たからな」
「下がれぬ、どうするのじゃ」
「案ずるな、ここは小田原じゃ」
「だからか」
「御主の知らぬ道がある」
そしてだ、その道を通ってというのだ。
「そのうえで下がる」
「そうするのか」
「ここはな」
「ではその道を使い小田原に戻り」
「また篭らせてもらう」
少なくともだ、ここで討たれるつもりはないというのだ。氏康は信長に対してこ言い切ってみせたのである。
「そうする」
「追うぞ」
「追えるか、御主に」
信長の言葉にだ、氏康は不敵に笑って返した。
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