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戦国異伝

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第二百三話 蛟龍と獅子その八

「このまま進んではな」
「その木にやられる」
「そうなると」
「だからじゃ」
 それで、というのだ。
「ここは止まれ」
「城まであと僅かですが」
「それでもですな」
「そのあと僅かが危うい」
 そう思い先に進んだその時こそ、というのだ。
「罠の仕掛けどころじゃ」
「では、ですか」
「ここは止まり」
「先の道を」
「右じゃ、しかし」
 その右の道にというのだ。
「おるな」
「確かに。右の道は行きやすいですが」
「それでもですな」
 周りの者達も氏康に言う、彼等もこの地がわかっているが故に。
「そこに行けば」
「敵がいる」
「敵を置くに適した場所です」
「これまでの道を同じく」
「伏兵がおる」
 間違いなく、というのだ。
「これまでと同じくな」
「では殿、どうされますか」
「ここは」
「城は焼く」
 必ず、というのだった。これまで通り。
「何としてもな」
「では、ですな」
「このまま進み」
「伏兵がおろうとも」
「振り切りますか」
「伏兵も早く駆け抜ければよい」
 それで攻められることが最低限で終わるというのだ。
「だからな」
「畏まりました、では」
「このまま進みましょう」
「そしてそのうえで」
「城に着き」
「焼いて帰りましょう」
「誰も知らぬ道がある」
 他の国の者には、というのだ。
「如何に織田信長といえどな」
「その道ですが」
 風魔がだ、氏康の横に出て来て言ってきた。
「我等が保っております」
「織田の者達はおらぬな」
「はい、あそこに進めば」
 それで、というのだ。
「無事に城まで帰られます」
「ではな」
 風魔の言葉も聞いてだ、氏康はさらに言った。
「このまま城に向かうぞ」
「そして城を焼き」
「すぐにですな」
「そのままその道を通ってじゃ」
 織田の者が知らない、小田原にいる者だけが知っていてしかも風魔の者達が守っているその道をというのだ。
「城に戻るぞ」
「畏まりました」
 そこまで手配している氏康だった、そしてだった。
 彼等は城にさらに進んだ、そしていよいよその前に来た時にだった。
 前にだった、あの旗があった。
 青い旗だが夜の闇の中にもその夜に目が慣れた北条の者達には見えた。青地の織田の寛永通貨の旗だった。 
 その下に多くの織田の兵達がいた、その前に。
 青い南蛮具足で全身を覆いマントの形の裏地が赤の青い陣羽織の男が馬上にいた。その男こそがだった。
「織田信長か」
「北条氏康じゃな」
 男の方も氏康に言って来た。 
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