戦国異伝
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第二百三話 蛟龍と獅子その十
「果たして」
「ほう、わしにそう言うか」
「ここは小田原じゃ」
それで、というのだ。
「御主の知らぬ道がある」
「その道を使ってか」
「ここは退く」
その小田原まで、というのだ。
「そうするわ」
「そうか、ではな」
「また会おう」
氏康は信長にこうも言うとだった、己の兵達に言った。
「ではじゃ」
「はい、今より」
「下がるのですな」
「小太郎、道案内を務めよ」
風魔への言葉だ。
「よいな」
「さすれば」
風魔も応える、そして。
北条の軍勢はその道を通って織田からの追っ手をかわしてその道を通って城まで退いた。そのうえでだった。
彼等は城まで戻った。氏康は出迎えた家臣達に顔を顰めさせて言った。
「残念じゃがな」
「敵の城は、ですか」
「それは阻まれた」
そうして、というのだ。
「焼けなかったわ」
「そうですか」
「それでは」
「もう城は出来る」
織田家が築いているその城が。
「そしてな」
「そこを足掛かりとして」
「囲み続けますか」
「小田原を」
「そしてじゃ」
そのうえで、というのだ。
「他の城もな」
「落とされていき」
「そうしてですな」
「やがては」
「北条の城は」
「この城だけとなる」
小田原城、この城だけになるというのだ。
「残っても僅かじゃ」
「韮山か、ですか」
「忍だけですな」
「助五郎はやってくれるが」
しかし、というのだ。
「他の城はな」
「織田の軍勢の前に」
「陥落しますか」
「忍は残るがな」
韮山、とだ。やはりこの城はというのだ。
「あの城だけはな」
「成田殿がおられるから」
「それで」
「それにもう一人おられると」
「殿は仰いますが」
「うむ、その者もおるからな」
だからだ、忍城もというのだ。
「あの城も陥ちぬ」
「では」
「その二つの城以外は」
「まず駄目じゃ、北条は小田原だけではない」
もっと言えば相模そして伊豆だけではない、北条は関東の覇者だ。武蔵や下野を領有する二百四十万石の大大名であるからだ。
「それ故にな」
「小田原以外の白が攻め落ちれば」
「如何に小田原が残ろうとも」
「それでもですな」
「最期には」
「終わりじゃ」
例えだ、小田原が攻め落とされなかったとしてもというのだ。
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