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戦国異伝

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第二百三話 蛟龍と獅子その七

「読まれておったか」
「どうやらその様ですな」
 綱成も氏康に応える。
「織田信長に」
「流石よの」
「殿、ここはどうされますか」
「城はすぐそこじゃ」
 だからだと言う氏康だった。
「それならばな」
「例え読まれておるにしても」
「攻める」
 ここは、というのだ。
「そしてじゃ」
「城を焼くのですな」
「そのうえですぐに去る」
 城の中にというのだ。
「そうするぞ」
「では」
「皆の者臆することはない」
 氏康は兵達にも告げた。
「ここはこのままじゃ」
「城に向かい」
「そのうえで」
「そしてですな」
「城を焼くのですな」
「そうじゃ、そうする」
 例えだ、夜襲を見破られてもというのだ。
「よいな」
「それでは」
「このまま」
「進むぞ」
 氏康は率いる者達に告げてだ、そのままだった。
 自ら兵を率いて城に向かう、そうして駆けて。
 弓矢もかわす、だが。
 織田の兵達は次から次にと左右から出て来る、そのそれぞの数は決して多くないにしてもだった。
 氏康達を襲う、綱成はその弓矢を刀で落としつつ氏康に言った。
「殿、どうやら」
「我等が進む道も読んでじゃな」
「そのうえで伏兵を置いています」
「埋伏させてじゃな」
「十面埋伏の計かと」
「織田信長が尾張での戦で使った」
「はい、あの策かと」
 綱成はこう氏康に話す。
「それを使ってきたかと」
「そうじゃな、城を囲む兵は置いてな」
「そのうえで」
「ここにはじゃな」
「伏兵を幾つも置いているかと」
 まさに十面埋伏として、というのだ。
「そうして」
「考えておるな、流石じゃ」
「織田信長、噂通りですな」
「噂通り切れる者じゃ」
 まさにというのだ、信長は。
「ここまでしてくるとはな」
「はい、しかし」
「ここは立ち止まってはならぬ」
 決してというのだ。
「ましてやここは我等の場所」
 小田原のすぐ傍だ、まさにお膝元だ。それだけにこの場所のことはというのだ。例え夜の中での戦だとしても。
「それこそ全ての山道まで知っておる」
「進む分には」
「何の問題もない」
「だからですな」
「このまま進む」
 何としても、という口調で言うのだった。
「よいな」
「はい、では」
 綱成も氏康の言葉に応える、そしてだった。
 北条の軍勢はそのまま伏兵をかわしつつ進む、だが。
 不意にだ、氏康は何かを察してだ、全軍に告げた。
「止まれ」
「!?殿一体」
「どうされましたか」
「妙じゃ」
 前を見ての言葉だった。
「この前に見えるな」
「確かに」
「何か木々が」
「ここには木がなかったですが」
「それでも今はですな」
「ありますな」
「あの木は足止めじゃ」
 それに他ならないというのだ。 
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