戦国異伝
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第二百三話 蛟龍と獅子その六
そしてだ、東国もなのだ。
「いよいよ関東もな」
「殿が尾張を統一されてからまだ十数年でしたな」
幸村がこのことを指摘した。
「そういえばかなり」
「早いな」
「それがしもそう思いまする」
「生き急いでいる訳ではないがな」
信長にそのつもりはない、それも一切。
「しかし確かに瞬く間にじゃな」
「そうかと」
「そして北条とも戦う」
氏康、彼ともだ。
「やはり早いな」
「天下が凄まじい勢いで一つになっております」
他ならぬ信長の下でだ。
「ですからこのまま」
「天下を手中に収めるか、しかし」
「しかしですか」
「少し国を拡げ過ぎた」
一連の戦でだ、そうなったからというのだ。
「だからな」
「北条との戦が終わればですか」
「政に専念する」
三好との戦を終え長宗我部も降してからだ、数年そうした様にというのだ。
「そうする」
「左様ですか」
「西国も東国もな」
その両方をというのだ。
「治める」
「そして力を養い」
「そうしてじゃ」
そのうえで、というのだ。
「数年そうしてな」
「それからですな」
「後を制する」
「東北、そして九州を」
「そして一つにするのじゃ」
残る二つの場所をだ、手中に収めてというのだ。
「あらためてな」
「左様でありますか」
「ではじゃ」
ここまで話してだ、そしてだった。
信長はだ、こう言ったのだった。
「では備えるぞ」
「北条との戦に」
「そのうえで退ける」
信長は飯を食いつつ言った、そうして英気も養ってだった。
彼等は北条の夜襲を待った、そして実際に。
氏康は自ら勇将と精兵達を選んで城を出た、そうしてだった。
彼等にだ、こう言ったのだった。
「では今からじゃ」
「はい、夜襲を仕掛け」
「そうしてですな」
「城を焼き」
「織田の足掛かりを挫くのですな」
「そして我等の心意気も見せる」
それもというのだ。
「そう簡単にやられはせぬとな」
「織田にですな」
「それを見せるのですな」
「そして我等の力を見せ」
「生きるのですな」
「そうじゃ」
それ故にというのだ。
「ではよいな」
「はい、それでは」
「我等はこのままですな」
「一気に攻め」
「城を焼きましょう」
「わしに続け」
氏康は自ら陣頭に立っていた、そしてだった。
夜の闇に隠れそのうえで城を目指した、だがその彼等を左右からだった。
弓矢が来た、矢は蜂の羽撃きの様な音を立てて闇夜の中に来た。それが来てだった。
北条の兵達が射たれる、それを見て氏康は即座に察した。
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