少年と女神の物語
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第百九話
「よお、神代武双」
「何してやがる、後輩」
梅先輩と一緒に下校していたら、その途中で今殺したいやつナンバーワンと会った。つい反射的に呪力を練り上げ権能をいつでも使えるように、両腕にいる相棒をいつでも呼び出せるように準備してしまう。落ち着け、俺。責めて最初だけは冷静に戦わないと殺せるものも殺せないぞ。
自分にそう言い聞かせて少し冷静になった俺は、言霊を唱えずに堅牢なる大親分を発動して何体かの狸を先輩の護衛につかせた。
「いや?歩いてたら見つけたから声をかけただけだぜ?」
「そうかそうか。そういうことなら偶然会ったのも何かの縁だ。俺の権能で異界に連れてってやるから、そこで死んでこいよ」
「そいつは勘弁だな。そんなところに行ったらどうなるかわかったもんじゃねえ」
俺と後輩との会話に梅先輩が軽く絶句してるけど、とりあえず気にしないでおこう。被害がいかなようにだけ気をつけて、説明とかは後でいい。
「で?なんでこんなところを歩いてたんだ?俺に会うことくらいわかってただろ」
「それはそうなんだどなぁ。今度あんたと殺しあうことを考えると、この辺りから離れるわけにもいかねぇ。ついでに調べときたいこともある。もう一個おまけに俺の状態も限界まで最大にしておきたい。そう言う考えで歩きまわってんだ」
「そんなこと話してもいいのか?まだ完全ではないって宣言してるようなもんだぞ?」
「まさにその通りだが、この状況でカンピオーネ二人がぶつかり合ったらどうなるのか、それくらいわかんだろ?」
挑発するような口調で言ってくるのにイラッとするが、まあ言いたいことは分かる。下校中だけあって、今いるのは住宅地。こんなところで暴れたら目撃者も被害もかなりの量で出る。そのことで梅先輩に迷惑かけたくはないしなぁ。
「・・・よし、軽く殺し合うか。この辺の家から人の気配大して感じられないし」
「やっぱり気づいてたか。・・・いいぜ、本番の前の前哨戦だ」
結論として、んなもん知るかということになった。どうせ動くのは正史編纂委員会だし、どうでもいいや。こんな状況で本気を出してきそうにはないから、相手の権能を探るのをメインに持ってくる感じでいこう。となると、使うのは・・・
「・・・我は造る」
即席工場で槍を二振り造りだし、一気に走る。その勢いのまま槍をつき出すと、あいつは両手剣の腹で受ける。武器を使えないようになっている隙にもう一振りをつき刺そうとした時には、もうその場所にいない。
「ったく・・・便利なもんだな、神速の権能ってのは」
「だろ?慣れるまではどれくらい進めるか分かりづらかったが、今ではこの通り。まあ、攻撃に使おうとしても通用しないことばっかりだけどな?」
「そりゃそうだ。今みたいに距離をとる避け方をしない限りは、俺でも攻撃を当てられる」
横に避けようとしただけなら、心眼で追いながら当てていける。高速で動いて当ててくるなら、心眼で頑張ればよけられる。だがしかし、後ろに向けて避けられたらそれを追うだけの速度がない。個人的に神速の嫌なところはそこだ。俺が使えないからなおさら。
「はぁ・・・ったく、面倒な権能だな。・・・我は造る」
今まで持っていた槍をその辺りに捨て、別のものを造り出す。槍の刃の部分は少し長く、逆側には鎖と分銅をつるす。俺の技量で扱えるレベルの中で槍から離れた、あいつに当てることのできそうな武器。
さて、そろそろ他の権能も使うべきか・・・
「それにしても、大した技量だなぁ、オマエ。たった一つの権能で・・・それも、ただ武器を造るだけで他のところは技量と来た。どんだけだよ」
「何言ってんだ?最初の神殺しは、それこそ基本権能なしだ。神具なりなんなりがあったにせよ、技量の一つなくて神が殺せるかよ」
「そりゃ、普通はそうだ。俺とは違って、な」
「・・・何?」
こいつの言ったことは理解できなかったが、それを考えることは一瞬でやめた。考えるのは、後でいい。何より、相手の多彩な権能に対応しなきゃならないんだ。
「・・・今ここに我は力を現す。人ならざる力を持ちて相撲を取り」
「まあ、そう来るだろうなぁ。・・・剣よ、汝の持ちし逸話よ。我が汝を奪いし主の持つ逸話よ」
俺が言霊を唱えながら構えていると、向こうも魔剣を両手で構えながら言霊を唱える。言霊の中に『逸話』という言葉が入っていたからには、この権能の正体を知ることができるかもしれない。
だが、俺の方も何もしないでやられるがままになるつもりはないので、このまま続ける。
「未来あるものを守り抜こう!」
無三殿大神から簒奪した権能、濡れ皿の怪力。名前の通り怪力を得るこの権能なら、割と多くの状況に対応できる。
そんな考えからこの権能を発動し、槍を構え、そのまま突撃するために足に力を入れるが、
「さあ、鍛冶の神格よ。鍛冶の権能よ!汝、話が勅命を聞け!」
「は?何を・・・ッ!」
俺はそれを中断せざるをえなくなった。すぐそばに何かが現れ、それが自分に向かってくる。これをそのまま受けようものなら、どれだけのダメージを食らうか分かったもんじゃない。
まず右側から飛んできたものを槍ではじき、左側から来るものを分銅でたたき落とす。そのまま回転して周囲から来るものを分銅で防いでから、残りを即席工場で盾を造り出して防ごうとする。が、
「盾が、出来ない・・・!?」
権能が壊された、無効化されたという感じはしないのに、使えなくなっている。というより、俺の言うことを聞かなくなっている。
そしてそのことに驚いている間に防げなかった一つによって腕を軽く切られ、反射的に万水千海で地下水をくみ上げて防御に使う。が、最初のうちは操ることのできた水も途中から言うことを聞かず地面へと吸い込まれてしまった。
「・・・おいおい、どうしてこうなるのかね」
「さあ?どうしてだろうなぁ?権能が言うことを聞かないなんてよぉ」
クククッ、とか笑いながら言ってるし、原因はこいつとみて間違いないだろう。というか、さっき鍛冶の権能がどうとかいってたし。
とかまあそんなことを考えている間にも俺の周りに次々と剣が現れ、俺に切っ先を向けてとどまる。まだ俺の方に向かってはこないが、いつでも撃てる状態にはなっているのだろう。さらに言うのなら、この剣が現れるたびに俺の呪力が使われている。つまり・・・
「お前、俺の権能を勝手に使ってやがるな?」
「おっ、正解だ。よくもまあそんな仮定が信じられたな?」
「状況からそう判断するしかないろ」
俺が使おうとするということをきかず、しかし剣が現れるたびに俺の呪力が使われていく。この状況で俺の権能が勝手に使われている以外の可能性があるのなら聞いてみたいもんだ。
とはいえ、まあ。
「厄介なのは変わらない、か」
「だろうなぁ。オレは一切の負担もなく、攻撃を続けられる。副産物でしかないこの力だが、相手によってはこの上ないほどに強力だろ?」
その言葉と同時に剣が飛んできたので、全なる終王で全部はじく。この感じだと、この権能はなにも影響を受けていないらしい。
んでもって、まあこれがあいつがコピーしたわけじゃなくて俺のを勝手に使ってるだけなら・・・
「我は我に仇なす力を許さない。我はその力が存在することを許さない」
「うん?なにしてんだ?」
なんか言ってるが、無視して槍を振り続ける。途中一瞬間が空いたところで槍を捨て、両腕からブリューとボルグを召喚して使うものを変え、一気にすべてぶち壊してから、一本だけ心臓にくらい、
「故に我はその力を破壊する。存在を許さぬが故に忌むべき力を破壊する!」
最後に、俺は手のひらを自分の胸に向け、
「即席工場を、破壊する!」
ほんの少し勢いを載せてぶつけ、自分の権能を自分で破壊した。
あいつのせいでこの権能による攻撃は受けたし、知識だっていくらでもある。足りない分は知に富む偉大なる者で補完できる。
こんなことで破壊者を使うのはもったいない気がしないでもないけど、このまま馬鹿みたいにくらっているよりは、と思って破壊した。自分に使うのは初めてだから分からなかったけど、これ少しダメージも食らうんだな。
「・・・ヒュウ。驚いた、まさか自分で自分の権能を破壊するとは」
「そうでもしないとこのままくらい続けてたんだ。だったら、こうするしかねえだろ」
沈まぬ太陽を発動して死なないようにしながら、考える。あいつは、一体何から権能を簒奪した?
あいつの持っている魔剣は、持ち主の持つ逸話から鍛冶の権能のコントロールを乗っ取った。そして『願い』というキーワードに、すべてを狂わせ、壊してしまおうという破壊の意思。別の権能かもしれないが、水を操るとかそんな感じの権能も持っている。つまり・・・
「・・・また、物凄いもんを簒奪したな、後輩よ。持ち主についてはあんまり知らねえけど、その剣については知ってるくらいだ」
「やっぱりばれたか。できるなら、本領を発揮するまでは隠しときたかったんだけどなぁ・・・ま、しゃあねえか」
そう言いながら再び魔剣を構える後輩。あれが何をできる権能なのかはもう分かったから、それだけ警戒すればいい。最悪、使わせまくればどうにかなる可能性も高いし。
「じゃあな、神代武双。次は決着をつける」
「は?」
思いっきり戦うつもりで構えてたのに、向こうは何のためらいもなく終わりだと言ってくる。なんだこいつ。
「・・・逃がすと思ってるのか?」
「逃げるんだよ、無理矢理にでも」
そう返ってきたところで俺は植物の種を手の中に召喚するが、その時にはもういなくなっていた。忘れてたけど、神速の権能持ってたよな、こいつ。
「・・・えっと、お疲れ様です、でいいでしょうか?」
「いえ、かなり欲求不満な感じなので」
「まあ、でしょうね。かなり中途半端な状態で逃げられてしまいましたし」
一瞬でも気を抜くと当たり散らしてしまいそうなので、自分に言い聞かせながらブリューとボルグを腕にしまい、濡れ皿の怪力も解除する。とりあえずこれで権能は全部解除できたけど・・・
「・・・まあ、収穫一つ、ということでよしとします。あいつの権能、一個だけですけど誰から簒奪したのかも何を簒奪したのかもわかりましたし」
「確かに、それは大きな収穫ですね。その神の名前を教えてください、調べられることを調べますので」
そう言ってくれた梅先輩に甘えることにして、その神の名前を教える。
「なるほど・・・では、あの権能は“ ”ですね?」
「おそらく。鍛冶の神格に対して影響を及ぼせるとなると、あれで間違いないと思います」
「逸話を全て考えるのなら、後でしっぺ返しがありそうですけど」
「それについては分かりません。神そのものが相手なら出来るかもですけど、神から簒奪した権能となると逸話の一部分だけを、というのも可能ですから」
そこからは、その権能についての考察をしながら梅先輩を家まで送って行って終わった。さて、また面倒極まりない権能が相手だと確定したわけだけど、どうしたもんかな・・・
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