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少年と女神の物語

作者:biwanosin
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第百十話

 
前書き
一応、この話であの新カンピが権能を簒奪した神の内二柱は特定できるようになってるはずです。 

 
「なるほど・・・確かにそれなら、あの魔剣にも納得がいきます。むしろ、あの程度の狂気ということは抑えていたのでしょう」

 家に帰ってから、俺の自室でアテに今日のことを話している。とりあえず権能が一つ、内容も簒奪した神も特定できたから、その話を。

「ま、そうだよな、やっぱり」
「そうですよ。それに・・・もしかすると、武双にとっては本来の力よりもその副次効果のほうが危険かもしれません」

 アテの言うとおりだ。何をしてくるかわからない願いのほうよりも、鍛冶の権能を操られるほうがよっぽど怖い。何せ、常に即席工場(インスタント・ファクトリー)を使えない状態にしていないといけない。実質、権能を二つ封じられているようなものだ。

「とりあえず、破壊者(デストロイヤー)の効果が切れたら私の権能を使いますか?」
「それのほうがいいかなぁ・・・あれって解除できるんだっけ?」
「はい。一月もたてば勝手にきれますし、そうじゃなくても私の意思で解除できます」
「何それ便利すぎないか?」

 俺が簒奪した権能なんて、たいてい何かしらの制限がつくというのに。

「まあ、仕方ないですよ。本来の持ち主が一番使いやすいようになるものです」
「まあ、俺達のは俺達用にカスタマイズされてるらしいしなぁ・・・」
「むしろ、武双はまだいいほうなんじゃないですか?無条件で発動できる権能も多いんですから」

 ごもっとも。他のやつが権能の使用に何かしらの制限があったりする中、俺は制限があるもの自体そこまで多くはない。さすがに切り札級はかかってるものが多いけど、一番便利な全なる終王(ゼウス・エクス・マキナ)が基本制限ないし。強いて言うなら加護が『共通の敵が目の前にいる』っていう制限があるんだけど、特に問題ではない。

「じゃあとりあえず、あの権能の対策はその方向で行くとして・・・水のほうは何だと思う?」
「そうですね・・・おそらくは、別の権能でしょう。なんとなくですけど、お互いに水を操ろうとして無効化、というのが一番しっくりきます」
「ってことは、あいつも何か水を操る権能を?」
「おそらくは。とはいえ、これは水神の類であれば何でもいいので、正体の特定は難しいですね」

 何もそれがメインではなくてもいいのだから、本当にいくらでもいる。竜神の多くは水神の属性を持っているし、海とか川とか、そういう形で水神の属性を持つ奴もいる。
 要するに、何もわからん。俺の万水千海だって、何の情報もない中特定するのとか無理だろうし。玉龍との戦いを見ていたとしたら・・・あいつ馬になったし、何とかなるかも。

「じゃあ、他には?他に何か思ったことはなかったんですか?」
「他に?」
「ええ、他に。何か不思議と体が重かったとか、空気が重かったとか、そんな感じでもいいので」
「フム・・・」

 何か思ったこと、か・・・あ、そういや。

「あのさ。俺今日、思いっきり住宅街で戦ったんだけど」
「場所を考えてください、というのはもう言っても無駄ですかね?」
「無駄だろうな。というか、それはまつろわぬ神のアテだってわかるだろ?」

 渋々、という様子でアテは頷く。やっぱりそうなんだな。

「まあ話を戻すけど、やけに静かだった」
「静か、ですか?」
「ああ。あれだけやりあったのに誰も出てこなかったし、そもそも気配が弱かった」
「気配が・・・武双、戦ったのはどのあたりですか?」

 質問の理由が分からなかったが、俺はその場所を答える。
 それを聞いたアテは自分のスマフォを取り出して少しいじり・・・

「はいどうぞ、武双」
「うん?」

 そしてそのまま差し出されたそれを、俺は何も考えずに受け取る。そこに開かれていたのは、ネット上のニュース記事。
 取り出して検索して開くまでがかなりスムーズだったなぁ、まつろわぬ神なのにすごいなぁ、とかそんなことを考えながら画面上の記事を読むと・・・

「・・・あの辺で意識不明が多発してんのか?」
「そう。因みに、原因は大人と子供で違ったり」

 そう言うとアテは別のタブで開いていた記事に移動させる。ってかまて、どこまで現代に適応してるんだよ、神様。

「大人は・・・外的要因なんだな」
「打撲だったり首を絞められたり、まあ色々とね。これらのことから最初は強盗が疑われたみたいだけど、何も盗まれたものがないから捜査は難航中」

 まあ、何も盗まれてないならそうなんだろうな。

「いや、正確にはその可能性がなくはないんだけど・・・」
「何も盗まれてないのに、か?」
「一応、盗まれたものはない、ってことになってるだけですから。子供の意識不明のほうを見てください」

 アテにそういわれたので、俺は子供のほうを見る。そこにあったのは・・・

「・・・貧血?」
「ええ、貧血です。それはもうわかりやすく貧血。血が足りない、というわけです」
「・・・子供だけ、血が足りないのか」
「ええ。これは明らかに何かしらの意思をもって行われたことでしょう」

 ふむ、子供だけ血が足りないのか・・・そのあたりの理由についてはあんまりよくわからんけど、

「でも、これがあいつの仕業だとしたら結論は一つだな」
「ええ。おそらく、吸血が彼の権能の一つなのでしょう。単純に考えれば、吸血によるパワーアップ」

 準備とか言ってたし、その可能性は高い。そんでもって、そこまで分かれば・・・

「なあ、吸血鬼的な属性を持つ神様って何がいるんだ?」
「そこそこに居るので何とも言えません」
「・・・そんなにいたっけ?」

 少なくとも、俺は一柱すら思い浮かばない。しっかりと考えれば出てくるのかもしれないけど、ぱっと思い浮かばない以上はそんなにいないと思う。

「ええ・・・えっとですね、まつろわぬ神とか言われてますけど、なにもその形で出てくるのは神に限らないんですよ」
「あー・・・そういや、そうだっけ」
「ええ。なので精霊であっても有名なら出てくる可能性はありますし、精霊群という形で出てくる可能性もあります。他にも、実在した人物でもいいんですから」

 実在した人物で吸血鬼系の能力を得られそうなのは、ヴラド伯爵とかだろうか。ヴァンパイアの原型らしいし。
 他にも、『人の血をすすった』とか『人の血を飲んだ』とかの伝承がある人は多いだろうし。そういわれると確かに、候補が多いなぁ。

「とはいえ、もう少し絞れるかもしれませんが。どうにも吸血の対象は子供のみのようですし」
「ってことは、ペドフィリア系?」
「歴史上にはいくらでもいますけどね」

 まったく、面倒だな偉人系。というか神話と違って本気でいくらでもなるから、どうにもならない。それが実際に行われたってんだから、現代では信じられないなぁ・・・そういや、まだ実在系と戦ったことはなかったっけ。狸どもは確かに実在した人物からできたやつだけど、完璧に伝説的な背景を持ってるし。

「はぁ・・・やばい、面倒になってきた。当面の問題は、どれくらいあいつが血を吸うか、かな?」
「そうですね。不思議なことにまだ死人は出ていませんが、殺すくらい血を吸ったのなら一度に強化される可能性もありますし」

 何人死のうがどうでもいいけど、無駄に強化されると本当に面倒だ。呪力量が増えるだけでも何が起こるかわかったもんじゃないし、同族同士での戦いは何が影響するのやらだし。

「・・・まあとりあえず、頭に余裕があるときに検索してみるかな。子供限定の吸血系の伝説」
「候補が多そうですし、大変でしょうけど頑張ってください。そもそも、あまり時間はありませんけど」
「明後日だしな、満月。・・・梅先輩と出掛けるのにかぶってるけど、何とかするしかない」
「・・・美人の先輩とデートですか。いい御身分ですね」
「・・・アテさん?」

 なぜだろう。アテが急に不機嫌になった。頬をぷくっと膨らませて顔をそむけてる姿はいくらでも見ていられるけど―――というか、最近本当にアテが神様らしくなくなってきた―――そういうわけにもいかないだろう。

「えっと、なぜ不機嫌なのでしょうか?」
「それが分からないならもういいです」
「えー・・・」
「どうせ武双はお姉ちゃんの気持ちなんてわかりませんしねー」

 あ、ヤバい。これ本気ですねてる。アテが俺に対して自分のことを『お姉ちゃん』というときは、間違いなく本気ですねてるし、選択をミスると後々精神的につらいことになる。前にも一度だけやらかした。
 さて、どうするのが正解か・・・

「・・・・・・えっと、ごめんなさい?」
「・・・この鈍感」
「なんだか本当にごめんなさい・・・」

 ちょっと泣きたくなってきたけど、どうにも原因は俺のようだ。ヒントをくれたことだし、時間をかけてでもちゃんと理解しよう。
 俺はそう決意しながら、表情を変えずに顔をそらし、近くに寄ってきたアテの頭を許してもらうまで撫でる。
 初めて会ったときは同い年くらいに見えたのに、今にしてみると二つ三つ年下に見える容姿に、二年かけて伸ばした肩にかかるくらいの手触りの良い銀髪。そしてそのあどけなさに似合わない、蠱惑的な雰囲気。二年の時をかけて人間の中に混ざっても何も違和感を感じさせないまでになったが、時折見せる、『女神である』ということを再確認させるその神威が・・・アテという存在の全てが。
 俺には何よりも(いと)おしく思えた。
 
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