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美しき異形達

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第四十一話 夜の熱気その七

「だからね」
「今もコンビニないんだな」
「住所登録はされているわ」
「いや、普通はされてね?」
 薊は自分の常識の範囲内で裕香に返した。
「今だと」
「そうでもないわ」
 ここで黒蘭がこう薊に言った。
「現代でもね」
「住所不登録って」
「そう、家があっても」
「それってホームレスの人じゃないよな」
「また違うわ」
「じゃあどんな人達なんだよ」
「山窩という人達だけれど」
 黒蘭が出すのはこの人達だった。
「知っているかしら」
「山窩って」
「山の民とも呼ばれる。山で暮らしている人達だけれど」
「裕香ちゃんの実家とはまた別か」
「ええ。一説には山姥は実は山窩の人達だったのではとも言われているわ」
「山姥って。別に人食わないわよな」
「食べないわよ」
 黒蘭は微笑んで薊のその心配は否定した。
「そうしたことはないから」
「そうか、それは何よりだよ」
「山で暮らしていて山のものを採って食べて。そしてお家を作って」
「そうして暮らしていた人達か」
「今もいるから」
「やっぱり山にか」
「ええ、何処の山かまではわからないけれど」
 今もそうした人達が日本にいることは確かなのだ、とはいっても公に出ることはないらしい。諸般の事情によるのだろうか。
「それでもね」
「そうした人達もいるんだな」
「そうなの」
「成程な、まあここにはいないよな」
 薊は住吉大社から周りの街、大阪の下町を見回して言った。
「流石に」
「ここは街よ」
「それも下町だよな」
「大阪のな」
「そう、山じゃないから」
 大阪は山から離れている、このことは京都や奈良と違う。
「ここにはね」
「そうだよな、ただ寅さんはな」
 あの松竹の人気シリーズだ、渥美清の演技は素晴らしいものがあった。
「いないか、あの人も」
「寅さんは葛飾でしょ」
 こう言って来たのは鈴蘭だった。
「大阪じゃないわよ」
「そうだよな、やっぱり」
「そう、ここは大阪だから」
「じゃりん子チエか」
「そちらになるわ」
「じゃあ。きつねうどんとな」 
 それに加えてとだ、薊はこの漫画の名前を聞いてこの料理の名前を出した。
「ホルモン食うか」
「ホルモンなのね」
「それ食いに行こうか」
「ホルモンならね」
 菖蒲はホルモンと聞いて言った、その言ったことはというと。
「鶴橋がいいかしら」
「鶴橋っていうと」
「そう、ここから離れてるけれど」
「あれだよな、上本町って場所の近くの」
「そう、あそこよ」
「あそこのホルモンが美味いんだな」
「大阪の中でもね」 
 このことは鶴橋独特の事情による、この地域は焼肉で有名だ。
「そうなの、それにあそこの駅の下の商店街は賑やかで」
「そのことでもいいんだな」
「そう、ホルモンならね」
「じゃああそこに行くのか?」
「ええ、後ね」 
 菖蒲は薊にこうも言った。 
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