とある星の力を使いし者
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第154話
麻生は目の前に立っている男に背を向ける。
後ろにいる愛穂、桔梗の無事を確かめ、制理がいる事に目を見開いて驚いた表情をする。
「制理。
お前まで居たのか。」
「あ、麻生。」
あまりの展開について行けない制理は目の前にいる麻生の名前を呟く。
桔梗は制理の手を引いて麻生に近づく。
愛穂もハンドガンを下ろして麻生に近づく。
すると、二人は麻生に抱き着いた。
その行動に少し驚くが彼女達の肩が震えている事に麻生は気がついた。
制理も一緒に麻生は三人を抱きしめた。
「無事いてくれてよかった。
本当に良かった。」
心の底から麻生はそういった。
制理も麻生の言葉を聞いて自分も震えている事に気がつき、自然と涙が出ていた。
それは愛穂も桔梗も同じだ。
逃げる事で必死だったが麻生が来てくれたから気がついた。
自分達は恐かったのだと。
あの化け物から逃げていたのと非現実的な現象を目の当たりにして感覚が麻痺していたのだ。
数十秒くらいして、麻生は三人から離れる。
咄嗟に三人は一緒に麻生の腕を掴む。
それを見て麻生は少しだけ笑って言う。
「大丈夫だ。
俺は死なない。
何より。」
そう区切って言う。
「あの野郎をどうにかしないとな。」
その後方には男が不気味な笑みを浮かべてこちらを見ている。
麻生は愛穂が持っているお守りを三つ創り、三人に渡す。
「これを持って離れていてくれ。」
そう言って彼は三人に背中を向ける。
何か言葉を言おうとしても声が出ない。
恐怖で言葉が出ないのだ。
それほどまでに自分達はあの化け物や男に恐怖している。
どうして今まで気がつかなかったのかというくらい身体が震えている。
それでも精一杯声をあげる。
「恭介、死なないで。」
愛穂が言うとそれを後押しにしたのか、桔梗と制理も声を出す。
「絶対に・・・死んだら駄目よ。」
「気をつけて・・・」
三人の言葉を聞いて少しだけ後ろを向いて麻生は言った。
「君達は絶対に俺が守る。
何があっても君達だけは俺が守る。」
「あ・・・・」
その時、制理の眼にはあの時の子供の影と重なって見えた。
今度は明確にはっきりと。
確信する。
麻生恭介はあの時に自分を助けてくれて、そして自分が恋している男なのだと。
さっきの優しい笑みはどこへいったのか。
人を睨み殺せそうな、そんな感じで麻生は男を強く睨みつける。
身体から出る殺気を正面から受けながらも男は剣を片手に拍手する。
「ヒロインがピンチの時にタイミングよく駆けつける。
まさにヒーローだね。」
男の発言に麻生は何も答えない。
ただゆっくりと近づいてくる。
それを気にせずに男は言葉を続ける。
「申し遅れた。
私の名前はブリジット=アンソニーという名前だ。
よろしくお願いするよ、ヒーロー」
その時だった。
まだ言葉を続けようとするブリジットの顔面に麻生の拳が突き刺さる。
一〇メートルという距離を一瞬で詰め、その左拳がブリジットの顔を正確にとらえる。
能力の加護もあるのか、後ろのビルの壁まで一気に吹き飛ぶ。
手加減など一切なしだ。
後ろのビルの壁を貫通するという人間では出す事のできない威力を発揮する。
普通の人間からすれば明らかに即死級の一撃を加えて、そこで麻生は口を開く。
「何普通にべらべら喋ってやがる。」
その声には殺意しか籠っていない。
「彼女達を泣かせるくらいまで追い詰めやがって。
お前、死ぬ覚悟はできているんだろうな?」
愛穂との約束など、どうでも良かった。
彼女達を関係のない危険な世界に巻き込ませたのだ。
それだけあれば充分だった。
麻生がブリジットを殺す理由はそれだけで充分だった。
だが、声は後ろから聞こえた。
「死ぬ覚悟ね。
それはこっちの台詞だけどな。」
素早く後ろを振り返る。
麻生と愛穂達の間にブリジットは立っていた。
先程の拳を受け、ビルの壁を貫通したにも拘らず服がボロボロになっているだけで無傷だった。
赤いローブは既になく、ローブの下には服を着ていたみたいだがさっきの衝撃で何を着ていたのか分からなくなる。
下にはジーンズを穿いていたが、右足の股関節辺りからばっさりと服がなくなっている。
左脚の方もダメージが所々は言っている。
さらに違いがあるとすれば手にはあの西洋剣が無くなっているという事だけだ。
殴られた頬を擦りながらブリジットは言う。
「急に殴りに来るとは予想外だったよ。
君は彼女達が関わるとすぐに怒るね。」
麻生はその言葉を無視して殴った拳を開け閉めして調子を確かめる。
(確かに殴った感触はあった。
だが、骨などが折れた手応えはなかった。
つまり、こいつにはあれほどの攻撃を受けても無傷で済むほどの耐久力がある。)
そう判断して麻生は改めて拳を握り締め構える。
それを見たブリジットは嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「やっと、私を敵と認識してくれたね。
嬉しいよ。
それじゃあ、始めようか。」
魔道書を持っているのと逆の手を上にあげる。
「星の存続をかけた殺し合いを。」
「麻生、上!!」
「なっ!?」
制理の声を聞いて上を見上げる。
そこには、剣や槍や斧など人を殺す武器が麻生の真上で展開されていた。
一つ二つの話ではない。
およそ一〇〇〇を超えるほどの武器が麻生の真上で展開されていた。
ブリジットはパチン、と指を鳴らす。
それが合図なのか、一〇〇〇の武器は麻生に降り注ぐ。
魔術が付加されているのか。
それらはアスファルトを貫き、辺りに衝撃波を撒き散らす。
愛穂達は少し距離が離れていてもその衝撃波に耐えられず、後ろに吹き飛ぶ。
しかし、三人とも後ろから誰かに抱き留められる。
麻生恭介だ。
三人は麻生が無事である事を確認して安堵の息を吐く。
「お前達、もっと離れていてくれないか。」
「どういう事?」
桔梗はそう質問すると、麻生は少しだけ困ったような笑みを浮かべる。
「本気でやらないと俺が殺されるんでな。
巻き込まない自信がない。」
制理は分からないが、少なくとも愛穂と桔梗は麻生が普通の能力者でない事は知っている。
ましてや桔梗は一方通行を倒したというのも知っている。
ブリジットも只者ではない事は分かっているが麻生なら倒せると思っていた。
なのに、麻生からそんな言葉を洩らした。
ブリジットの注意が完全に麻生に向いているおかげなのか、少しずつ震えが治まりつつあった。
三人は立ち上がってさらに後ろに下がる。
一〇〇〇の武器はいつの間にか消えていて、ブリジットの手には巨大な大剣を持っている。
幅は一メートル、長さは二メートルという巨大な剣だ。
それらを見て、愛穂達は息を呑む。
麻生はこれからするブリジットの行動に眉をひそめた。
大剣を力強く横一線に振り抜く。
二メートルはある剣とはいえ、互いの距離は一五メートルは離れている。
どれだけ振り抜こうが当たる訳がない。
なのに、麻生はゾクリと嫌な空気を感じた。
本能が勝手に身体を動かしたのかがむしゃらに前に転がる。
そして、麻生が立っていた所にブォン!!、とまるで間近で剣を振り下ろした風を斬り裂く音が聞こえた。
「な・・にっ!?」
その一瞬で麻生は何が起こったのか理解した。
おそらく魔術。
何かしらの魔術を用いて、ブリジットは距離関係なく攻撃を当てる事ができる。
どこにいてもブリジットが場所を把握すれば例え地球の裏側に居ても攻撃を当てる事ができる。
そう理解した瞬間、再びブリジットの剣が振り降ろされる。
麻生の身体を真っ二つに両断するかのように。
受け身の事など考えずに飛び込んだので、次の行動を起こす前に斬撃が麻生の身体を斬り裂くだろう。
空間の壁などおそらく簡単に両断する。
だからこそ、麻生は能力を使い近くのビルの屋上まで空間移動する。
その後に斬撃が襲い、アスファルトに直線の斬撃の痕ができる。
視界から麻生が消えた。
それなのにブリジットは焦りの表情一つ浮かべない。
むしろ余裕の表情をしている。
「はぁ・・はぁ・・」
あと少し移動が遅れれば真っ二つになっていた。
そう考えると少しだけ息が荒くなった。
すぐに落ち着かせて探知式の結界を張り、ビルの屋上から様子を確かめようとした時だ。
「誰を捜しているんだ?」
「ッッ!?」
戦慄の声は後ろから聞こえた。
行動を選んでいる余裕はなかった。
麻生は思いっきり地面を蹴って、ビルの屋上から飛び降りる。
それと同時にブリジットの剣がビルの屋上を貫く。
すると、その威力を物語るようにひびが一階まで広がり倒壊される。
(どうなってやがる!!)
どういう魔術をしているのか全く分からない。
それが麻生に焦りを生む。
能力で空中で受け身をとる。
ブリジットは空中にいる麻生に追い打ちを懸けに来ている。
絶世の名剣を創り、ブリジットの剣を受け止めようとする。
しかし、剣と剣が触れ合った瞬間。
絶世の名剣は糸も簡単に折れらてしまう。
その斬撃が麻生の身体を両断する。
空中で麻生の身体が二つに分かれる。
その光景を愛穂達は見ていた。
遠目からだが確実に麻生の身体が二つに分かれたというのは確認できた。
愛穂は口元に手を当て、制理はまだ状況を理解できていなくて、桔梗は叫びそうになった時だった。
二つに分かれた麻生の身体は透けていき、やがて大きな水たまりに変化する。
空中で水が弾ける。
ブリジットは少しだけ眉をひそめる。
次の瞬間だった。
土砂降りに振っていた雨水が、路面に溜まっている水がブリジットに急速に集まって行く。
数秒もかけずにブリジットの周りは巨大な水が包み込む。
下を見ると麻生はそこにいた。
二撃目の斬撃の場所に麻生は立っていて、ブリジットに左手を突きつけていた。
最初から麻生は空間移動はしていなかった。
消えたのは屈折率を変えて姿を眩ませ、ビルの屋上には最初から水の魔術で作った偽物を配置させていた。
「潰れろ。」
水の中の水圧を操り、押し潰そうとしたがそれよりも早くブリジットが無造作に剣を振る。
すると、包み込んでいた水は斬り裂かれ路面に落ちていく。
ブリジットはふわり、と濡れた路面に着地する。
「さすがは星の守護者。
一杯喰わされたよ。」
剣を肩に乗せて言う。
「その剣。」
「気になったかい?
どうせだから教えてあげるよ。
これはこのカーナックの書から精神が支配するアストラル界の武器を召喚したんだ。
所有者の意思によって能力や形状が変化する。
つまり、私が鎌になれと思えば鎌になるし。
完全に切断、と思えば何が触れようとも切断できる。」
さっきの水の檻もおそらくブリジットが念じたから容易く切断できたのだろう。
麻生の目の前に握り拳くらいの水の弾が創られる。
それらはブリジットに向かって発射されるが、持っていた剣が消えると巨大な盾となってブリジットを守る。
「もちろん、武器だけじゃない。
このように盾も可能だよ。
この本には異次元の扉を操る事ができてね、あらゆる距離を一瞬で詰めて応用すれば距離関係なく攻撃ができる。
素晴らしい本だと思わないか?」
その問いかけに麻生は答えなかった。
両手には赤い槍が持っていて、距離を詰め容赦なくブリジットに突き出す。
先程と同じ様に盾を創り、槍を防ぐ。
「何をやっても無駄。
この盾は完全防御。
私が想像できる限りの攻撃は全て防ぐ。
そう、例え星の力であってもね。」
槍を握りながら麻生は後ろに跳んで距離を開ける。
ブリジットは言う。
「君の力はそんなものじゃないだろ?
見せてくれよ、星の力というモノを!」
両手を広げてまるで歓迎するかのようなポーズをとる。
麻生はため息を吐く。
そして言った。
「確かにお前は強い。
だが、喋りすぎたな。」
「なに?」
「この槍は破魔の紅薔薇。
刃が触れた対象の魔力的効果を打ち消す。
魔術的防御を無効化させるための能力を持った宝具だ。」
「それがどうかしたのか?」
「この槍がお前の盾に触れた時、魔道書であろうがなんであろうがそこに魔力があれば打ち消す。
なのに、お前の盾は打ち消せなかった。
それは何故か?
答えは簡単だ。」
麻生は槍の先端をブリジットが持っている魔導書に向ける。
「お前が行っている魔術はその魔道書を経由する事で発動している。
つまり、魔道書をどうにかしない限りお前の魔術を打破する事はできない。
そしてもう一つ。
お前は自分が思った能力を設定できると言っていた。」
そこで言葉を区切って言う。
まるで名探偵が犯人のアリバイを壊していくかのように。
「なら、どうしてあの水の檻に捕まって時に俺に攻撃ではなく脱出を選んだ?」
ピクリ、とブリジットの肩が揺れる。
その反応を麻生は見逃さなかった。
「目の前にいる俺をすぐさま攻撃しなかった理由。
それはお前が設定した能力は一つまでしかできないからだ。
あのまま自分が攻撃するより早く俺の圧縮の方が早いと判断したお前は脱出を選んだ。
座標を考えるより、ただ振るうだけでいいんだからな。
そっちの方が早く行動できる。
これだけ分かれば後はどうとでも攻略できる。」
「あんまりいい気になって喋っているが、舐めるなよ。」
剣は消えるとブリジットの周りに剣や槍など様々な武器が出現する。
「この武器には絶対追跡を想定してある。
しかも、私が殺したいと思う奴が死ぬまで音速の速さで追い駆ける。
これがどういう意味か分かって」
その時だった。
ブリジットの足元にカラン、と空き缶を捨てるような音が聞こえたのは。
視線を下に向ける。
それは閃光弾だった。
それは激しい光を生み出し、ブリジットの視界を奪う。
「くっ!?
小癪な!!
防御を全方位に展開!!」
攻撃を中止して隙間なく盾を展開する。
油断したが次はない。
視界が治った瞬間、殺す。
そう思っていたブリジットの耳に麻生の声が聞こえる。
それは目の前から聞こえた。
「そう来ると思っていた。」
盾が壊れる音が聞こえた。
適当な所に異次元移動するよりも早く右胸に何かが貫く感触がした。
右腕の手首から先から凄まじい痛みが襲う。
「・・・・・」
ブリジットは何も声をあげない。
違う。
声をあげられないのだ。
声を出そうにも何かが干渉して声を出す事ができない。
視界が戻る。
眼と鼻の先には麻生が居て、その右手が自分の右胸を貫き、麻生の左手には刀が持たれていて刀身が血で濡れていた。
すぐ足元には自分の右手が落ちていた。
その手には魔道書がしっかりと握られている。
胸を貫かれた痛みと手首を切断された痛みで涙が出る。
泣き叫びたかったが声が出ない。
自分はあの盾に最強の防御を想定していた。
なのに破られた。
どうして?、という疑問がブリジットの頭の中に思い浮かぶ。
「簡単だ。」
ブリジットの頭の中を読んだかのように麻生は答えた。
「お前が想像していたより、星の力は強かったって事だ。
全く不本意な事だがな。
お前は相手を殺すより自分の保身を優先する男だというのは分かっていた。
だから、眼を潰せば必ず攻撃を中断して防御する。
あのまま武器を放てば勝てたのにな。
お前の敗因はたった一つだ。」
麻生はブリジットの眼を見て告げる。
「喋りすぎなのと、星を甘く見た事だ。」
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
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