リリカルアドベンチャーGT~奇跡と優しさの軌跡~
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第百八話 アポカリモン
前書き
アポカリモンとの邂逅。
ピエモンを倒した瞬間、不意にスパイラルマウンテンが震え出した。
内に孕んでいた何かを吐き出そうとしているかのような。
地響きに似た轟音が迸る。
なのは「何!!?」
賢『皆、気をつけるんだ!!』
大輔『来るぞ!!』
世界を、無限の闇が覆い尽くす。
まず初めに起こったのは、スパイラルマウンテンの消失だった。
ダークマスターズ最後の1人、ピエモンが倒されたことにより、彼が支配していたエリアは音もなく消滅していった。
最後まで残っていたスパイラルマウンテンの螺旋階段のような部品もあっという間に塵と化し、空気に溶けるようにして消えてゆく。
次に起こったのは、世界の暗黒化だった。
ピエモンが消えた直後、デジタルワールドには光が戻ってきたはずであった。
しかし、地響きがしたと思ったら再び闇が侵食を始め、またもやデジタルワールドは暗黒の力に覆い尽くされてしまったのである。
そして、スパイラルマウンテンがひしゃげ、そこに生まれた空間の歪みに、子供達は次々と吸い込まれていった。
歪みの向こうに見えるのは、宇宙空間にも似た暗黒世界である。
大輔『どうやら皆、無事のようだな』
フェイト『うん。咄嗟に進化しちゃったけどね』
確かに周りを見渡すと確かに全員が完全体、究極体に進化していた。
はやて『というかここ何処や?』
スバル『何か変な感じ…』
辺りを見回してスバルが呟く。
赤と紫と青の絵の具を水に溶かして筆で伸ばしたような、なんとも曖昧で遠近感の無い場所だった。
天体のようなぼんやりと光り輝くものがゆっくりと自分達の傍を通り過ぎていくのが見える。
それもなんだかいやに存在感が無くて、ただの背景の書き割りのようであった。
体は常にふわふわと宙に浮いているような感じで落ち着かない。
試しにでんぐり返ったら、上と下の判別が付かなくなりそうだ。
まるで、本当の宇宙のようだった。
マグナモン[恐らくこの闇に終わりはない。まだ倒していない敵がいるからだ…]
一輝『成る程な。ここが最終ステージってわけか』
一輝が言い切るのと同時に何か不吉な何かを感じた。
ベルゼブモン[…そこにいるのは分かっているぞ。出てこい]
どこからともなく、機械の作動音とも人の話し声ともつかない奇妙な音が聞こえてきた。
[そうだ……我が無念を晴らさずにおくものか……。]
その声は、そう言っているように聞こえた。
エリオ『誰だ…?』
アリサ『出て来なさいよ!!』
出現は、何の前触れもなかった。
空間から滲み出るかの如く、現れた存在。
見た目は下半身がキューブに似ており、見上げるほどに巨大であることが一目で分かる。
キメラモンカオスよりも巨大だ。
大輔『お前がアポカリモン…か…?』
アポカリモン[フフ……フフフフ……ハハハハハハ……!!]
大輔の問いには答えず、アポカリモンと呼ばれたデジモンは笑った。
ルーテシア『何がおかしいの!!?』
アポカリモン[ふふふ…選ばれし子供達よ。私が醜いと思うか?]
キャロ『え?』
ルーテシアの問いに答えず、アポカリモンの唇から洩れ出したのは、やはり老人の如きしわがれた声だった。
問われた子供達は何と言えばいいのか分からず沈黙した。
子供達の沈黙を肯定と取ったようで、アポカリモンは分かりきっていたと言わんばかりにふんと鼻を鳴らし、言葉を紡ぐ。
アポカリモン[そうだろう、お前達はそう思うだろう。所詮我々は進化の過程でその行く手を阻まれた者]
賢『進化の過程で行く手を阻まれた…環境の変化に適応出来ずに消えた命…』
アポカリモン[それだけではない。進化に適応出来なかったが故に殺された者達の無念も我が内にある…。]
スバル『殺された…?』
アポカリモン[かつてこのデジタルワールドに進化という概念は存在しなかった。しかし、時の経過と共に進化の概念が生まれ始めた。デジタルワールドは強き者が生き残り、弱き者が死ぬ世界。そこで進化に適応出来なかった者は…]
大輔『殺されたんだな…お前は進化に適応出来なかったために死んでいったデジモン達の負の感情の成れの果て…』
大輔の言葉にアポカリモンは口角を歪め、濁った金色の瞳を煌めかせて微かに目元を引きつらせた。
アポカリモン[選ばれし子供達、そしてそのデジモン達よ。我々はお前達と出会えるのを楽しみにしていたのだ]
Bウォーグレイモン[何だと?]
パンジャモン[それはどういうことだ!!?]
アポカリモン[いいか?我々が冷たく悲しく闇から闇へと葬られていく時、その片方で光の中で楽しく笑いながら時を過ごしていくお前達がいる…何故だ!!?]
アポカリモンの激情がそのまま衝撃波となって迸る。
マグナモン達も大輔達もアポカリモンの激情に耐えながら彼を見つめる。
アポカリモン[我々が何をしたというのだ!!?]
身悶えするように自分の身体を抱き締め、アポカリモンは叫ぶ。
あまりにもきつく抱きしめたからか鋭い爪が身体に食い込み、血が流れる。
アリシア『泣いてる…アポカリモン…泣いてるよ…』
悲しげなアリシアの呟きが大輔達全員の耳に入る。
アポカリモン[我々にだって涙もあれば感情もある。何の権利があって我々の命はこの世界から葬り去らなければならない!!?生きたかった!!生き残って友情を、正義を、愛を語り!!この世界のために役立てたかったのだ!!だが、我々はこの世界にとって必要がないというのか!!無意味だというのか!!?]
血を吐くような、泣き叫ぶような悲哀に満ちた声だった。
大輔『違う!!』
アポカリモン[何だと?]
大輔『どんな存在でも生まれて来たことに意味があるんだ!!』
フェイト『そうだよ!!命を否定する権利なんて誰にもないんだよ!!あなたの命だってそう!!』
アポカリモン[ならば我々はどうすればいいのだ!!?我々の居場所など何処にあると言うのだ!!?]
大輔『お前達の居場所?そんなの何処だっていいさ。お前達は生きたかった。生き残って友情を、正義を、愛を語ってこの世界のために役立てたかったんだろ?何も悪くないなら堂々と胸を張って生きればいい』
ユーノ『誰だって心に弱さを持っている。でもだからこそ人は、デジモンは互いに支え合い生きてきた。』
なのは『アポカリモン。あなたの気持ちは痛い程分かるよ。私だって存在を蔑ろにされたら腹が立つもん。』
賢『しかし、それは、動機にはなってもこんなことをしていいことにはならない。正当化はされないんだ…』
はやて『このままじゃあ、例えあんたがデジタルワールドを支配しても何も変わらへん。あんたのように可哀相な存在は生まれ続ける』
アポカリモン[何…!!?]
すずか『心で繋がり、理解し、受け入れなきゃ、あなたは永遠に苦しみ続けるよ。これからもずっとずっと…』
アリサ『こんな辛気臭い場所にいるからネガティブ思考になるのよ!!たまには外の世界を見つめてみなさいよ!!』
傷つけられても、それでも前に進み続けるのはとてもとても苦しい事だ。
全てから逃げたくなることだってある。
目を塞いで耳を塞いで殻に閉じこもりたくなることもある。
誰だってそんな弱さは当たり前のようにある。
でもそんな時の為に、仲間や友達、愛する人がいる。
アポカリモン[黙れ…黙れえ!!貴様らに…貴様らに何が分かるというのだ!!?存在を否定された我々の気持ちが…]
一輝『グダグダ言ってんじゃねえ!!じゃあてめえらの恨みつらみを何の関係もねえ現在(いま)のデジモンにぶつけてもいいってのか!!?』
ルカ『あなた方を否定し、消した存在は…もう、とうの昔に死んでしまっています。』
アポカリモン[…っ]
ルカの言葉にアポカリモンは唇を噛み締めた。
復讐すべき対象は既にこの世にはいない。
大輔『俺さ、お前の気持ちは凄く分かるよ。俺…ある奴に人生を目茶苦茶にされて。そしてそいつらが笑っているのを見てたら腹が立った。俺はまだマシな方だよな。怒りをぶつけられる対象がいたんだから…』
でもアポカリモンには怒りをぶつけられる対象がいない。
それがどれだけ辛いか、大輔には痛い程に分かる。
ティアナ『アポカリモン、君がしたことで罪のないデジモン達が君と同じ思いをしたんだよ。』
ギンガ『そのデジモン達の痛みを君は感じているの?』
ティアナとギンガの強い意志が込められた瞳がアポカリモンの瞳と合う。
遼『人は変わるようにデジモンも変わる。例え今日が変わらなくても時間が経つうちに必ず変化が訪れる…悪い方にも、良い方にもな』
ミレニアモンという宿敵と出会い、戦い続けていくうちにミレニアモンとはドルモンとして共に戦うパートナーとなり、時の変化を誰よりも見てきた遼だからこそ言える言葉なのかもしれない。
大輔『お前は本当は優しい奴なんだろ?自分の中にある沢山のデジモン達の気持ちを何とかしてやりたいからこんなことしちまったんだろ?』
アポカリモン[優しい…だと…?馬鹿な…何を…何を根拠に…]
フェイト『あなたは優しいよ。たった一人で沢山の物を背負って、やり方は間違っていても沢山のデジモン達の気持ちを何とかしてあげようとしてあげられる優しい子…一人で辛かったね…』
スバル『もう一人ぼっちで泣くことなんかないよ?』
アリシア『もう君は一人ぼっちじゃないから』
大輔『ああ、終わりにしよう…マグナモン!!皆!!』
マグナモン[ああ!!]
全員【OK!!】
マグナモン。
アルフォースブイドラモン
ベルゼブモン
メガログラウモン
ワーガルルモンX
ミスティモン
フレアモン
クレシェモン
エンジェウーモン
ヴリトラモン
カイザーレオモン
ブラックインペリアルドラモン・ドラゴンモード
メタルグレイモンX
ブラックウォーグレイモン
ガルムモン
グレイドモン
パンジャモン
全員が全ての力を解放し、アポカリモンを見据えた。
マグナモン[来いアポカリモン!!お前の気持ちを全て俺達にぶつけてこい!!真正面から受け止めてやる!!]
アポカリモンとの戦いが始まろうとしていた。
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