IS インフィニット・ストラトス~普通と平和を目指した果てに…………~
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number-28
前書き
人間的倫理に反した描写があります。ご注意ください。
「今より約二時間前、ハワイ沖にてアメリカ・イスラエル両国共同制作機『シルバリオ・ゴスペル』が暴走した」
「軍用機として開発されているためエネルギー切れはほぼなく、機体の一部を欠損させなければならない。だが、その場で警戒に当たっていた数機のISを無傷で全損させられている上にアメリカ、イスラエル共に使えるISはなく援軍はないものと考えてもらいたい」
旅館の宴会場をブリーフィングのための場所として展開されたモニターを見るのは専用機持ちの面々。それに加えて作戦責任者の織斑千冬。通信士を務める山田真耶。臨海学校に参加していた篠ノ之束となっている。
今回の作戦内容は、暴走したISを学園が所有する戦力をもってして鎮めてほしいということだった。ISの状態は問わず、操縦者も乗ったままでいるためできれば無傷での確保が最上ではあるが、完全破壊もやむなしといったところだろう。ちなみに操縦者はナターシャ・ファイルス。アメリカに所属し、国家代表のイーリス・コーリングと並んで国の顔である。ここ最近は、自分のISとなるシルバリオ・ゴスペルの調整を行っていた。
「暴走ISの具体的なスペックデータを要求しますわ」
「分かった。ただし、国家機密なので情報が漏洩した場合は……分かるな?」
「はい」
セシリアの要求に注意を付け加えながら真耶に促す千冬。モニターに表示されたのは、軍用機とだけあって競技用と比べ物にならないほどの高スペック。基本的に武装は持たないが、機体に搭載されている砲門から放たれる全方位型のエネルギー弾がとても強力であった。
話は諸外国の専用機持ちたちによって纏められていく。蓮はただボーっとしているだけ。束は相変わらず何を考えているのか分からず、箒はどこか高揚としているようだった。一夏に至っては、何が起こっているのか現状の把握もままならないようであった。……そもそも、なぜ一般人までいるのだろうか。専用機持ちの中でも国籍が日本である数人は、代表候補生でもないのだ。であるからして、本来であれば部屋で待機の方が正しい判断であるのだが、そうまでして戦力がほしいか。
「今回の作戦は一撃必殺をベースに行う。そのためには音速を超える機体に追随できる機体と、一撃でエネルギー全損ないし行動不能に追い込める機体の二機で実行するものとする。他に意見のあるものはいるか? ……いないな。では実行者を決める」
無難な作戦だと思う。無難であるがゆえに、成功の可能性が限りなく低い。高火力に関しては問題ないと言える。一夏が出ればいいのだし、彼が拒否するとなれば遠距離からの封殺に切り替えればいいだけだ。問題なのは、その足である。どうやって音速を超える機体に追いつくのか。
話を聞くとセシリアの追加パッケージである『ストライク・ガンナー』を用いれば音速機動も問題ないのだとか。他の専用機持ちたちは音速機動はどうやっても不可能なうえに火力も足りないため、今回の作戦からは外れる。
ところで音速機動といえば、ここにいる蓮も不可能ではないのだ。先日起こった亡国機業襲撃事件の中で蓮は相手のエース、スコール・ミューゼルを相手に音速戦闘の中で圧倒して見せた。周りから見ればという言葉が付くが、それでもすごいことはすごい。さらにいえば、蓮の機体のコンセプトは一対多数戦を目的とした高機動高火力、単機殲滅型なのだ。この機体さえあればすべてに対応できるとして理論上は史上最強のIS。即ち、蓮さえ出ると言えばそれでこの件は済んでしまいかねないのだ。だが、彼はそうしようとはしない。
仕掛けた側であるからといってしまえばそれまでだが、どうせ学園側が失敗すると睨んで備えているのだ。そして同様に束も口を挟まない。誰かから尋ねられでもしない限りは何も言わないのだろう。
作戦メンバーが決まった。実行に移すのは一夏とセシリア。サポートに回るのは、機体スペックを見て箒に決まった。勿論千冬自身もこれが最善だとは思っていない。むしろ最悪に近い選択だ。だが、これが正しいのだと直感的に感じていた。理由は分からない。だが、これ以外に選ぼうとすると嫌な予感がよぎるのだ。あの三人で成功するとは思わない。だが、もしほかの選択をして完遂して帰ってきたとしても後々になって大きく返ってくるような気がしなくもないのだ。……何事もなく無事に終わってくれるとありがたい。
◯
「束、ラウラのことだが」
「そうだね、もう壊しちゃおうか」
ブリーフィングから一時間。三人が教師が封鎖した作戦海域に向かって飛び立っていった頃、蓮と束は自室にて話をしていた。かなり物騒な話をしているが、周りに人がいないことをあらかじめ把握しているため誰にも聞かれる心配がないためこうして普通に話しているというわけだ。
「あいつはもう俺に依存して、例の作戦にばかり固執して周りが見えていない。それに最近、シャルロット・デュノアと仲がいいらしい。そういう類の友情は一瞬にしてすべてを水の泡にしてしまうかもしれない。だが、普通に始末するってだけじゃあ能がないだろう」
「れんくん、忘れたの? あの子は強化遺伝子試験体なんだよ。その実験の成功体。そして首元にマイクロチップを埋め込んである。それを抜いて戦闘経験だけを抜き取って私たちに関する記憶全てを消去して再インストールする。そうすれば、どうしてこの学園にいるのか分からないただの少女が出来上がる。ふとした拍子で思い出すこともないから安全だね」
「ラウラが抜けたシュヴァルツア・ハーゼ隊に誰を入れる?」
「クロエ・クロニクル。同じ強化遺伝子試験体の失敗作。成功体より体は小さく、幼児体型だけど身体能力などは成功体となんら変わらない。その子……くーちゃんに成功体から抜き取った戦闘経験を入れたマイクロチップをインストールすれば即戦力だよ」
「クロエ・クロニクル……ああ、あの子か。確かにそれならいいな、容姿もほとんど変わらない。もともといろいろ無駄に発達させすぎたから精神の成長も早かった。だからこんなことになってしまったが、その心配をする必要がないようだな。よし、近々それを実行に移すとするか」
「それはいいけど……別れたあいつらはどうするの? クーデター起こされて離反されたけど、あいつらの戦力は色々と大きかったはずだよ?」
「その件に関しても大丈夫だ。もともと、トップである俺が行動を起こさなかったことに対する不満が振り切れたことによるクーデターだ。だったら、俺が行動を起こすと分かれば手のひらを反してまたすり寄ってくる。そうでなくてももうこちらから交渉を仕掛けているんだ」
「いつの間にそんなことをしちゃってたんだ」
「ああ。スコールはそんなに乗り気じゃなかったんだ。相方のオータムが無茶言ってな、止む無しにっていうことらしいんだ。スコールは俺と戦えたらそれで満足だったみたいだし、すぐに食いついてくれたよ」
「それで、帰ってくるための条件はどうしたの?」
「オータムの始末。あいつはもういらない」
二人は外に足を放りだして窓のサッシに腰を下ろす。まだ日差しが強く太陽も高い位置にある。こんなにも天気がいいのに事情も知らされずに部屋に待機を命じられておそらく暇を持て余しているのだろう。時々どこかの部屋から声が聞こえてくる。そんな声を聞き流しながら目の前に広がる海を眺める。波の音が部屋に響き、微かに吹く風がかけてある風鈴を鳴らす。
一夏、箒、セシリアの三人は命のやり取りを行っているのに、二人はものすごく和んでいた。それはやはり、これからこうして心を休める時間が無くなることを分かっているからだろう。火薬と血と鉄のにおいが混じり合った何とも言えないあのにおいが充満した戦場がこれから各地に広がるから。目的を果たせれば僥倖。果たせなくとも二人一緒に死ぬのならば本望。
どれぐらいそうしていたであろうか。時間にしてみれば一時間にも満たない時間だったが、二人にとってはとても長い時間が過ぎて行ったように感じていた。旅館の中が慌しくなった。生徒の方はいつもと変わらないようであるから、おそらく作戦は失敗して誰かが重傷を負ったのだろう。――――違っていたらしい。
織斑一夏が意識不明の重体だそうだ。だが、それを聞いたところでどうすることもない。どうせ他人なのだし、ここで死んでしまうのなら面倒が減るだけだ。
「じゃあ、いっこっか?」
「……そうだな」
二人は静かに部屋を後にした。
廊下に出ると先ほどまでの騒がしさはなく、物音一つない静寂な空間が広がっているだけだった。その中を臆することなく歩く二人。
やがてブリーフィングルームの前に差し掛かる。襖は全壊に開かれ、モニターを前にして腕を組みながら考え事をしているようだった。
「――――誰だっ」
「……気配を読み取りますか、さすがです織斑先生」
「……御袰衣に束……? 何をしに来た。今は部屋で待機だぞ」
「いえ、そちらの弟さんが失敗した作戦を俺たち二人でやろうってだけですよ」
「別にいいよね、ちーちゃん」
千冬は内心舌打ちをした。この暴走事件を起こした犯人に目星をつけていたのだ。そもそもISは、コアがブラックボックスとなっている。その他パーツで暴走するのであればこんなことにはならない。独立して動くにはコアに何かしらの異常があったと考えるのが普通だ。そしてそれが偶然重なったとは可能性がないとはいえないが、まずないだろう。よって目の前にいる篠ノ之束が起こしたと千冬は睨んでいた。
「……はあっ。頼んでいいのか?」
「もちのろんだよ? ちーちゃん。それに妹の不始末の後始末はおねーちゃんの役目ってね」
「…………よろしく頼む」
「この束さんにまっかせておいてっ」
少し時間を食われたが、どうやらシルバリオ・ゴスペル――――銀の福音は三人に仕掛けられたところから動いていないようだった。ならば、辿り着くのはたやすい。
砂浜についた二人は頷き合う。
「いくぞ、新星黒天」
「おいで、新星白天」
光に包まれた二人は、刹那の間に黒と白を纏った。やがて空に二本の軌跡を描いて水平線に消えていった。
後書き
後でタグにも追加しますが、この話でも出てきたのでこちらでも説明いたします。
どうしても物語の展開上ゲス、外道、道徳、人間的倫理になどに反した描写が出てきます。そういったたぐいのものが苦手な方はご遠慮していただきたく思います。
具体的にクローンや人をものとして見ること、原作キャラの死亡などです。記したもの以外にも苦手な描写があるかもしれません。
ご理解とご協力をお願いします。
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