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戦国異伝

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第二百一話 酒と茶その五

「箱根を何とかしたいものですな」
「箱根じゃな」
 信長は佐久間のその言葉にも顔を向けた。
「あの地じゃな」
「はい、あの場所を抑えれば」
「確かにかなり大きい」
「それでは」
「そうじゃ、そこは竹千代に任せる」
「我等は甲斐より進み」
 織田家の軍勢はというのだ。
「そして徳川殿はですか」
「北条の主力は我等が引き受ける」
 織田家の軍勢がというのだ。
「そしてじゃ」
「徳川殿はですな」
「箱根をじゃ」
「抑えてもらい」
「そこから小田原に進んでもらいじゃ」
「駿河から小田原への道を掴んでもらいますか」
「箱根は険しい」
 まさに天下の険だ、その険しさは恐ろしいまでのものだ。
「北条も頼む難所じゃがな」
「そこもですな」
「兵がおらねば、若しくは後ろから攻めれば」
 徳川の軍勢が攻めあぐねてもというのだ。
「箱根も手に入る」
「そうしてですな」
「尾張、美濃等から兵糧を運び込んでいきますか」
「中山道、そして東海道じゃ」
 この二つの道を使ってというのだ、信長は佐久間と川尻に述べた。
「小田原攻め、北条との戦の為の兵糧を運ぶぞ」
「さすれば」
「その様に」
 佐久間、川尻も応えた。
「北条にも勝ちましょう」
「必ず」
「そして関東を手に入れれば」
 ここで言ったのは荒木だった。
「次は」
「ははは、次か」
「どうされますか」
「天下は一つにする」
 このことは言うまでもなかった、信長にとっては。
「しかしじゃ」
「それには段階がある」
「では今は」
「とりあえず関東までは手に入れるが」
 しかし、と言うのだった。
「そこから先はな」
「わかりませぬか」
「とはいっても奥州で一つ賑やかな者がおるのう」
 信長は楽しげに笑ってこうも言ったのだった。
「そうじゃあな」
「伊達政宗ですな」 
 彼の名を挙げたのは村井だった。
「奥州の独眼龍と言われる」
「何でも大層な野心家とのことじゃな」
「天下を手に入れると常に言っておるとか」
「ははは、ではわしと争うか」
 村井の言葉を聞いてだ、信長はさらに笑って言った。
「今は佐竹家と随分争っておる様じゃが」
「どうやら」
「そして関東に迫っておるな」
「あの者はどうされますか」
「面白い者じゃ。会ってみたい」
 やはり楽しげに言う信長だった。
「伊達政宗とな」
「お会いになられたいですか」
「そう考えておるがどうじゃ」
「正直に申し上げますと」
 この前置きからだ、村井は信長に答えた。
「また殿の悪い癖が出たと思っております」
「興味がある者には誰でも会いたくなる癖か」
「はい、そして家臣にしたくなりますな」
「その通りじゃ」
「領地があれば治めたくなり」
 田畑を開墾し実りあるものにし堤や橋を整え町を築き栄えさせてだ。そうして豊かにせずにはおられないのだ。
「そうした癖が」
「出たのう、また」
「ですから」
「困っておるのか」
「いや、それで困っているなら織田家にはおれません」
 即ち信長の家臣にはなれないというのだ。 
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