美しき異形達
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第四十話 大阪の華その十六
その通天閣を見つつだ、向日葵は薊にまた言った。
「東京タワーとかスカイツリーは」
「行ったことあるよ」
「そうなのね」
「ただ、高いけれどさ」
薊もだ、上を見上げつつ言った。
「やっぱり通天閣と違うな」
「どう違うの?」
「こんな愛嬌ある形じゃないんだよ」
そこが違うというのだ。
「どっちもな」
「そうなの」
「登っても高いだけでさ」
「それだけ?」
「本当にそれだけだよ」
それが東京タワー、スカイツリーだというのだ。
「東京タワーの下も何か何もない感じで」
「新世界みたいじゃないのね」
「ああ、全然違うよ」
それこそといった口調での言葉だった。
「もうそれこそな」
「そうなのね」
「ああ、それにな」
「それに?」
「串カツなんてな」
言うのはこれだった、薊がここで言ったのは。
「ないよ」
「やっぱりないのね」
「ないない、もんじゃはあるぜ」
「もんじゃって美味しいの?」
「どうだろうな」
微妙な顔での返事だった。
「あれは」
「お好み焼きとどっちが美味しいの?」
「あたし的にはお好み焼きかね」
「勿論大阪のよね」
「そっちだよ。ただ広島焼きもな」
それもというのだ。
「あれだってな」
「薊ちゃん的にはなのね」
「いいと思うけれどな」
「あっ、私達もね」
関西人にしてもというのだ、ここでは。
「広島焼きは美味しいと思うわ」
「認めてはいるのかよ」
「ええ、美味しいことは間違いないわ」
「けれどなんだな」
「お好み焼きはね」
こう呼んでいい料理はというのだ。
「一つだけよ」
「あれだけか」
「そう、大阪のものだけよ」
それこそというのだ。
「あれしかないから」
「こだわりなんだな」
「そこは譲れないものがあります」
桜もこう薊に言う、お好み焼きについては。
「絶対に」
「絶対になのね」
「はい、何があっても」
それこそというのだ。
「お好み焼きはあれだけです」
「成程な、ただ」
「ただ?」
「あたしは結局どっちもお込焼きかな」
こうした考えだというのだ。
「関東にいたせいかね」
「関東ではですか」
「大阪のお好み焼き、広島のお好み焼きって呼んでるんだよ」
「どちらもお好み焼きですか」
「そうなんだよな」
こうしたことを言ったのだった、そして。
そのうえでだった、一行は今は通天閣の前から去ろうとしたがここでだった、足を止めて。
薊がだ、その目を鋭くさせて言った。
「まただな」
「そうね、またね」
菊が薊に最初に応えた。
「出て来たわね」
「ちょっと酔ってるけれどな」
「いけるわよね」
「ああ、大丈夫だよ」
薊は顔は赤くなっている、だがその動きは変わっていない。普段と全く変わらない動きのまま菊に笑顔を向けて言った。
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