戦国異伝
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第二百話 青と黒その十一
謙信は全ての陣を率い、全ての兵達を投入して織田家を攻めにかかった。それを見て信長はこう言った。
「ここは正念場じゃ」
「はい、そうですな」
「いよいよですな」
「朝までの戦と思ったが」
しかしというのだ。
「どうやらな」
「ここで、ですな」
「決着がつきますな」
「いよいよですな」
「ここで」
「うむ、耐える」
全軍でというのだ。
「これまで通り陣を入れ替えていく」
「このままですか」
「守りは変えませんか」
「そうじゃ、このままじゃ」
守り、というのだ。
「戦う、よいな」
「はい、それでは」
「それではですな」
竹中と黒田が応える、そしてだった。
信長の言葉に頷いた、そうして。
織田の軍勢はそのまま守った、だが上杉の軍勢を前にしてだった。
戦いだ、驚きの声をあげて言った。
「上杉謙信じゃ!」
「まさかまた出て来たのか?」
「さっき出て来たばかりというのに」
「またか」
「また出て来たのか」
「これはじゃな」
前田も言うのだった。
「上杉謙信はじゃ」
「はい、あの者は」
「何故常に陣頭にいるのでしょうか」
「馬を駆けさせてじゃ」
そして、というのだ。
「入れ替わる陣に常にじゃ」
「いて、ですか」
「そのうえで」
「そうじゃ、だからおるのじゃ」
前田はこう兵達に話した。
「上杉謙信がな」
「あの御仁がいると攻め方が違いますが」
「まさに鬼です」
「兵達が全て鬼になります」
「恐ろしい采配です」
上杉の兵達が余計にだ、謙信の采配で強くなるというのだ。
「それが常とは」
「実に厄介ですな」
「何とか凌ぎたいですが」
「それでも」
「案ずることはない」
前田は怯えを見せた兵達にこの言葉を言った。
「例え上杉謙信が軍神でも毘沙門天の化身でもじゃ」
「勝てると」
「そう仰いますか」
「そうじゃ、あの御仁が鉄砲に当たらずとも他の兵達は鉄砲に当たる」
そして死ぬというのだ。
「あの御仁一人になれば勝てるであろう」
「確かに、幾ら強くとも」
「上杉謙信ただ一人ならば」
「我等は二十万いますし」
「腕の立つ御仁もまた」
「そういうことじゃ、このまま鉄砲や弓矢で攻めよ」
これが前田が兵達に言うことだった。
「よいな、このまま続けていれば勝てる」
「鉄砲、弓矢を放ち槍で守り」
「交代し続けていれば」
「それで勝てる、幾ら上杉謙信が常に采配を執っていてもな」
彼一人ならというのだ、前田はこう兵達に言いこれまで通り戦わせた、織田の軍勢はこれまで通り戦い続けた。
上杉の軍勢は確かに謙信が全ての陣を率い後詰を全て注ぎ込み戦った、その強さは凄まじいものであり織田もかなりの兵が倒れ傷ついた、しかし。
謙信は己の兵達を見てだ、こう言った。
「そろそろですね」
「限界ですか」
「はい、兵達も流石にです」
「疲れが見えてきていますな」
兼続も言うのだった、謙信の横から。
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