魔法少女リリカルなのは 絆を奪いし神とその神に選ばれた少年
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第九話 記憶が戻る条件
アリサ達の記憶が戻った日の夜……アリサ達は既に自分達の家に戻っている。
迎えに来たアリサの執事である鮫島とノエルは二人の記憶が戻ったと聞くと、急いで家に連絡。
そこから数分して、アリサの父親と忍が全の家にやってくる始末。
アリサの父親に関しては「あんた家はどうした!?」と全はツッコんでしまったが
「そんな事より、全君の事だ!!」
と、家の事など二の次で全の家に来たというのだから、全は頭を抱える結果となった。
そしてそんな騒がしい一日が終わりを告げ……全は今、自身に宿っている神の元にいた。
「やあ。まさか、お前の方から進んで来てくれるとは思わなかったぞ」
「質問に答えろ。記憶が戻るのを……黙ってたのか?」
神の言葉に全は聞きもせずに、全は質問する。
「つれないなぁ……まあ…そうだ、と言っておこう」
「何で黙ってたんだ……!」
全は怒りを抑えて神に問いかける。
「ふぅ……」
と神は一息つくと
「まず、記憶を取り戻すにはいくつかのプロセスが必要なのだ。そもそも私は記憶を奪ってそれを糧にしている訳ではない」
「…どういう事だ?」
全は目の前の神が言っている事に疑問を抱いた。目の前の神は今まで奪ってきた記憶を糧にしているのではない、と言っているのだ。
「私はその記憶から力を貰っているだけだ。私が司るのは運命……しかし、人から運命を奪うというのは人殺しと変わらん。その代わり、私は運命と密接な関係を持っている記憶を奪うのだ」
「なぜ記憶と運命が密接な関係なんだ」
「簡単な事さ。その記憶があるからこそ、今の自分がある。今の自分を形作っているという事は、その通りの運命に従っているという事だ」
なるほど、と全は納得する。
確かに。運命が変わっていればそのような記憶は持つ事はなかったし、そもそもそんな記憶になる事もなかった。
そう考えてみると記憶というのは色々と厄介な代物なのだな、と全は思った。
「と、話が逸れたな。記憶を取り戻すにはいくつかのプロセスが必要という所だったな。まず、奪われた人物が自分の持っている記憶に違和感を抱かねばいけない」
「記憶に違和感を?」
「ああ、それが最初のプロセス。そしてその違和感の正体を確かめたい、と決意を新たにする事。これが次のプロセス。そして……決定的な記憶との違いを見る事……この最後のプロセスに関してはお前が既に解決しているがな」
「最後……あの写真の事か」
全は言われてその写真を思い浮かべる。それぞれの家族が思い出にと別れる前に撮った写真だ。
「その通りだ。実際、彼女達はあの写真を見て思い出した」
「……お前、何でそのまま記憶を奪っておこうと思わなかったんだ?」
目の前の神が言う事は全部当たっていた。まあ、途中の決意をするという所に関しては少し疑問を持っているが。
しかし、それにしてもおかしい。記憶を奪ってそのままにしておけばその記憶から力を吸収する事が出来る筈なのだ。
記憶にも新鮮な物などがあるのかもとも思ったが、それでも記憶を返還するシステムなど組んでも神にとっては関係ない筈なのだ。
「そうさなぁ……これもまた、運命の神たる由縁なのだろうが。私はな……見てみたいのだよ。記憶を失いそれでも、と抗うお前のそんな運命と……記憶を取り戻したいという人の決意の光という物を」
神はそう言って扇子をパチン、と閉じる。
「そして見せてもらった。アリサ・バニングスと月村すずかの決意の光と……お前の中にある抗う運命を。これからも……そんな気持ちを忘れないでほしいな」
「神……」
「私には真名がある。せっかくだ、名乗っておこう。我が名は真耶。よく覚えておけ」
「真耶……」
「そろそろ、帰る時間だ」
そう言われると、全の意識は次第に薄くなっていき……全は意識を手放した。
「ん……朝、か……」
全は何か、爽快な気分で起きた。
というのも、アリサとすずかの記憶が戻った事による嬉しさもあったのだろう。
「という事は……他の皆も……?」
と、そこまで考えて全は他の皆……残る五人の少女の事を思い浮かべる。
「期待、して……いいのか……いい、のか……!」
全は泣いた。朝だというのに、それでも泣いた。
それは悲しみの涙などではなく……記憶を取り戻してくれるかもしれないという、喜びの涙だった。
泣いてばかりもいられないので全は朝食を済ませて学校へと行く身支度をする。
その際にシンを首にかけるのを忘れない。
『マイスター、良かったですね。アリサさん達の記憶が戻られて』
「ああ。ホント、戻らないと思ってたから。年甲斐もなく泣いたけどな」
『泣くのは当然です。嬉しければ泣くのは当然なのです』
何とも人間のような事を言うデバイスだな、と全は思った。
そんなこんなで学校についた全。
自身の教室に向かい、自身の机に座り本を読む。
ここまでは、いつも通りだったのだが……
「おはよう、全」
「おはよう全君」
全よりも早く到着していたアリサとすずかが全に挨拶をする。
ここまでも昨日と変わらなかった。
「お、おい、今……」「あ、ああ……バニングスさん達」「ああ、間違いねぇ」
「「「「「橘の事を名前で呼んだ!」」」」」
クラスの全員の思っている事が一つとなった瞬間であった。
「あ、アリサすずか。何で神楽院の事を名前で?」
「何でもいいでしょ。気分の問題よ」
「うん、名前で呼んでもいいからって言ってくれたから」
おい待て。そんな事は言ってない、と言おうとするとアリサ達は目で全に訴えかける。
呼んでもいいよね?と。
事後承諾かよ…と全は肩を落とす。まあ、名前呼びになっても以前と変わらないので別段否定する気はないのだが。
全は特に気にしたような素振りもみせないで読書を再開する。
「アリサ、すずか。あんな奴、名前で呼んでも意味はないぞ。というか、調子にのるかもしれないんだぞ」
読書を続ける中、全の耳に高宮のそんな言葉が入り込んでくる。
別段、調子にのる気もない。しかし、そんな言われ方は心外なのだ。
「おい、高宮」
全は読書を中止。読んでいたページにしおりを挟み、立ち上がる。
「な、何だよ。神楽院、何か言いたい事でも」
「ああ、大いにあるな。まず、俺がアリサ達に名前で呼ばれて調子に乗る、だったか。人の事を勝手に評価するのは止めてもらいたい」
「お前の今までの言動から見ればそう考えるのは自然なんだよ」
「だとしてもだ。俺の人格を勝手にお前が決めるな。俺は俺だ。他の誰でもない、俺なんだ。だから……そうやって俺の事をやたらと吹聴するような真似は止めろ」
「「っ!?」」
全は高宮が驚き、唾を飲み込む音を聞いた。しかし、全はそれ以上に……もう一つの音が気になっていた。
音の出所を見てみると……そこにはるいが立っていた。
(おかしいな。るいに向けて言った言葉ではなかったんだが……)
全は怪訝に思いながらも席に座り、先生がやってくるまでの読書を再開した。その間中、ずっと高宮は何か難癖言っていたが全部無視していた。
るいSIDE
私は……今、橘が言った言葉が信じられなかった。
もちろん偶然だろう。それでも……私が聞いた事のある言葉と殆ど一緒だったのだ。
『お前たちが勝手に○○の事を知ったような事を言うな。○○は○○だ。他の誰でもない、○○なんだ。だから……そうやって○○の事を悪く吹聴するのは止めろ』
それを言ってくれたのが誰か……顔も名前も思い出せない。前世で言われたと思う。けれど……それでも、その言葉だけは嬉しかった。
前世の私は虐められており、その主犯は女子。その為か、陰湿な物が多かった。
その言葉をかけてくれた男子は……私にとって大事な人だった筈。でも、思い出せない。
なぜなの……と思いながらも、先生がそろそろ来る時間だったので思考を中断して、自身の席に座った。
後書き
まあ、条件とこの展開を見れば次に記憶を取り戻す方はお分かりでしょう。
それとるいの独白ですが……これ、実はある伏線でございます。と言っても分かりやすい伏線ですがね。
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