戦国異伝
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第二百話 青と黒その三
「自ら先陣に立ち戦い」
「己を毘沙門天の力を授かっていると思っておるからな」
「だからですな」
「そうじゃ、自ら突っ込んで来るのじゃ」
「己が死ぬ筈がないと」
「傷一つ負うことすらな」
ないと考えているというのだ。
「実際に戦の場でかすり傷一つ負ったことがないという」
「まさに毘沙門天ですな」
「そうじゃ、それだけにな」
「我等もですな」
「無理は出来ぬ」
謙信と正面きって戦うことはというのだ。
「さすれば四天王が束になっても敵わぬ」
「ではここは」
「退く」
そうするというのだ。
「吉法師殿の仰る通りな」
「まさにですな」
「攻めよ、そしてじゃ」
そのうえで、というのだ。
「退くぞ」
「さすれば殿」
大久保彦左衛門が槍を手に家康の横に出て来た。
「それがしがお護りしますので」
「頼めるか」
「はい、攻め終えればお下がり下さい」
「それではな」
「それではこれよりですな」
「鉄砲隊、よいか」
家康は自身の鉄砲隊の者達に声をかけた、彼等は既に一列に並び鉄砲を構えて家康の前に揃っている。
「これよりじゃ」
「はい、鉄砲をですな」
「撃ち」
「下がれ、そしてじゃ」
さらに言う家康だった。
「次はな」
「我等ですな」
「我等がですな」
槍隊の者達が言って来た。
「鉄砲隊と入れ替わりに前に出て」
「そして敵軍を防ぎ」
「そうしてですな」
「その後は」
「弓隊じゃ」
やはり整列していた、彼等も。
「よいな」
「はい、では」
「槍隊を援護しつつですな」
「槍隊と共に下がり」
「一番後ろまで行くのですな」
「そうするぞ、よいな」
「さすれば」
家臣の者達も応えだ、そのうえで。
まずはだ、槍隊の者達の間からだった。鉄砲隊が撃ち。
彼等は素早く後ろに下がる。その彼と入れ替わりにだった。
槍隊が槍をかざしてだ、そうして上杉の軍勢を防ぐ。上杉の軍勢は攻めようとするが槍とその後ろからの弓矢によりだ。
容易に攻められない、兵達がそれを見て謙信に言った。
「殿、これではです」
「容易に攻められませぬ」
「槍で阻まれ」
「容易には」
「そうですね」
謙信もその徳川の軍勢と見て言う。
「これは迂闊には攻められません」
「ではどうされますか」
「ここは」
「このまま攻めぬ訳にもいかぬかと」
「やはり攻めるしかありませんな」
「攻めます」
このことは変わらなかった、謙信にしても。
「何があろうとも」
「ではどうされますか」
「ここは」
「陣はこのままです」
車懸かりのままだというのだ。
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