美しき異形達
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第四十話 大阪の華その四
「ここも有名なのよ」
「美味いものばかりなんだな」
「そう、がんこ寿司もあって」
寿司もとだ、菫は善哉を食べ続けながら話した。
「海の幸にも困らないわ」
「何か美味いものばかりだな」
「それが大阪よ、ではね」
「この善哉食ったらか」
「カレー食べて。奮発して鰻丼を食べて」
そしてなのだった。
「お好み焼きやたこ焼き、串カツも食べて」
「けつねうどんもだよな」
「ラーメン、豚まん、餃子、アイスキャンデーもよ」
菫はこちらも忘れていなかった、金龍ラーメン等もだ。
「とにかく気合入れて食べるわよ」
「戦争みたいですね」
桜は菫のその言葉を聞いてくすりと笑って言った。
「大阪は」
「食べる戦争ね」
「はい、そんな感じですね」
「そうかもね。食い倒れの街だから」
「その食べることで」
「倒れるのよ」
文字通りだというのだ、こうした話もしながらだった。
一行は夫婦善哉で善哉を食べた、織田作之助もよく通っていた店のそれを。そして食べ終えてから店を出て細くかつ昔ながらの小路を進んで。
そしてだ、そのうえで。
一行は法善寺横丁から今度はカレーの自由軒に入り鰻丼も食べた、その後でアイスキャンデーもデザートとして食べて。
それが終わってから一行は難波の見物に入った、薊は仲間達と共に人でごった返している難波の街を歩きながら満足している顔で言った。
「いや、あそこのカレーはな」
「私の言った通りだったでしょ」
「独特だったな」
「最初から御飯とカレーを混ぜていてね」
「それでああなっているんだな」
「そうなの、一見するとドライカレーにも見えるけれど」
その実は、というのだ。
「それがね」
「違うんだな」
「そうなの、御飯とルーを混ぜているの」
「そこに卵を乗せて」
「私達がそうしたみたいにね」
「おソースかけてかき混ぜてか」
「食べるの」
実際に彼女達がした食べ方をだ、菫は話した。
「美味しかったでしょ」
「そうして食ったらな」
「織田作之助さんの写真もあったけれど」
「結構男前な感じだったな」
「あっ、タイプ?」
「タイプって訳じゃないけれど」
それでもと言う薊だった、左手にビッグカメラを見ながら話す。
「何か書いている姿が様になっててさ」
「いいっていうのね」
「文士って感じだよな、戦前の」
「小説家といては結構異端扱いされてたらしいのよ」
「へえ、そうなのか」
「高尚とはまた別の。庶民的な作風の人で」
大阪の市井を書いた作品が多かった、それでそうした評価を受けていたのだ。志賀直哉等の作風とは確かに違っていた。
「当時は純文学とはいっても」
「異端だったのか」
「そう思われていたのよ」
「じゃあ自由軒とかもか」
「そう、純文学にはあまり出さない様な」
「そうしたお店だったんだな」
「そうだったみたいよ」
菫もビッグカメラを見つつ薊に話した。
「どのお店もね」
「そういえばあのカレーも」
薊は実際に食べたそのカレーのことを思い出してだ、そのうえで菫に返した。
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