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美しき異形達

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第四十話 大阪の華その五

「はっきり言ってな」
「料亭とかで出るものじゃないわね」
「ああ、全くな」
「あの鰻丼もな」
 今度はいづも屋の鰻丼の話もした。
「あれだってな」
「お金持ちのご馳走じゃないわね」
「そうだよな、面白い鰻丼だったけれどな」
 そのことは確かでもだった。
「やっぱりお大尽の食いものって感じじゃなかったな」
「御飯の中に鰻があることは面白いですね」
 桜は笑っていづも屋のその鰻丼の話に加わった。
「噂には聞いていましたが」
「実際にそうなのよね」
「あれは確かに面白いです」
「そうね、けれどそれでもね」
 菫はその桜に対しても鰻丼のことを話した。
「当時の純文学では取り上げられないお料理だったのよ」
「善哉もカレーも鰻丼も」
「そうだったの」
「書いている織田作之助さんもか」
「文壇ではね」
「異端扱いだったのか」
「太宰治や坂口安吾と一緒で」
 菫はよく知られている作家達の名前も出した、特に太宰治は誰もが知っていると言っていい作家であろう。
「文壇ではそうだったの」
「太宰も異端扱いだったのか」
「そうよ」
 太宰についてはだ、菖蒲が答えた。
「あの人もそうだったの」
「へえ、そうだったんだな」
「あの人はかなりの家柄だったけれど」
「青森の大地主で代々政治家だったんだよな」
「そう、お父さんもお兄さんもね」
 太宰の実家はそうだった、青森の津軽で大地主の家だった。そして太宰自身経済的に困った生活を送ったことはない。
「それで今も親戚筋の人が政治家だから」
「名門のご子息って訳か」
「そう言ってよかったの」
「けれどそれでもか」
「当時文壇の頂点にいた志賀直哉と考えが違っていて」
 つまり主流派ではなかったのだ、主流派と反主流派の対立は何処にでもあるものだが当時の文壇もそうだったのだ。
「それで異端と言っていい立場にあったのよ」
「それで織田作之助さん達と一緒にか」
「文壇では外にいたのよ」
 そうだったというのだ、太宰にしても。話はここでは太宰を軸に進んでいた。
「あの人も」
「何か意外だな」
「意外かしら」
「太宰の方が志賀直哉より有名だから」
 それで、というのだ。
「異端だったなんてな、けれどな」
「けれど、なのね」
「太宰ってあんまり派閥とか作るタイプじゃないか」
 薊は自分がこれまで聞いた太宰の性格からこう言った。
「性格的にも」
「そうだったの、実際に」
「だからか」
「そもそも派閥が好きじゃなかったから」
「それは織田作之助さんもか」
「あの人は余計にね」
 そうだったというのだ。
「派閥とか政治とかは無縁の人で」
「それでか」
「そう、派閥とは縁のない人で作風もね」
「そうした当時の純文学とは無縁で」 
 そうした立場の人間だったからだというのだ。
「作風は最初からそうだったのよ」
「当時の文壇のものじゃなかったんだな」
「それであのカレーや鰻丼も」
「それに夫婦善哉もか」
「どれもそうだったのよ」
「まあそもそもこの街ってな」
 その難波を見回してだ、薊はこうも言った。 
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