僕の周りには変わり種が多い
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来訪者編
第33話 学校内か
十文字先輩が驚いたというのも数秒で立ち直り
「陸名が所属しているチームは何をしている」
十文字先輩は師族会議へは十文字家代理とはいえ出席しているのだから、僕がアルバイトをしている先である円明流合気術道場の裏もある程度は知っているだろうが、他のメンバーがいることも考慮して、
「僕自身は、昨晩で一旦チームから外れているのですが、チームは古式魔法でも賀茂系の退魔に協力できるメンバーを中心としたものです。ここのチームが望んでいるのは、ICPO魔法犯罪3課を国内に入れてもらうこと。もしくは、先輩方のチームに九島家が協力していただくことです」
「ICPO魔法犯罪3課って何なの?」
九島家のことを聞かないのは、西の古式魔法師の大部分がそこにつらなっているから知っているのだろう。そうならば、
「ICPO魔法犯罪3課は国際的な魔法犯罪も含みますが、本来の目的は各国で対処できない霊的な犯罪や、妖魔などが発生したときに直接対処する課です。つまり、警察権の行使を行う課です」
警察権の行使があるから、日本やステイツが嫌がっているというのはあるのだろうが、捕まえることができていない警察がなーって思いながら、
「そしてICPO魔法犯罪3課では、今回のパラサイトは新種と思われるので、まずはネゴシエーター(交渉人)と捕縛結界師が来るのではということです」
「ネゴシエーターって、何を交渉すると言うの?」
「妖魔の保護地に入ってもらうか、人間と共存するかを、まずは話し合うって聞いていますよ」
「えっ? 保護地? 共存? 何を言ってるの? 相手は人間を殺しているのよ!」
「七草先輩のおっしゃることもわかるんですけど、今回のパラサイトは処分したら、他の人間に寄生する可能性が非常に高いのに、どうするんですか?」
「えっ? そのー」
七草先輩って動揺すると目が泳ぐんだと見ながらも、
「そういうことで、ICPO魔法3課の入国許可か、九島家が先輩方のチームと協力体制をとるか、賀茂系の退魔チームあるいは僕のアルバイト先である円明流合気術道場へ、直接依頼されたら、そこから対応する術具を借りて動けます。そうでなかったら、個人的に直接狙われるか、パラサイトに襲われた友人のレオがリターンマッチをしたいとか言い出したなら、それのサポートにまわるぐらいはするつもりですけどね。僕はそれくらいで、皆様は違う方針でしょうけど、方針はどうしますか?」
「翔くんはそうだとして、達也くんはどうしろって言うのよ」
「どうしろというつもりはないが」
質問をしたのはエリカだが、達也の返答はさすがに予想外だった。
「友人が痛い目にあわされたんだから、放っておくつもりは無い。だけど、自分の手で思いしらせてやることにこだわるつもりも無いな。公安や警視庁やICPOで対処するなら余計な手出しをするつもりは無いし、師族会議が責任を持って処分するというならそれに文句は無い。西の古式魔法師が対処するというのならそれにも文句は無い。もちろん、千葉家が単独で討伐しても一向に構わない」
それで、達也と深雪は帰ることになったが、僕としては
「それで、先輩方は師族会議で方針確認が必要だと思いますが、エリカさんたちは方針変更に関しての決定権はあるのかい?」
「わたしは手足をぶった切って目をつぶして捕まえる。あとはミキに封印してもらってから尋問、そして処分ってところだったけど、尋問までなら、わたしたちでもここで話せるわよ」
わたしたちね。幹比古にまかせるつもりかな。
「現在、最終対処の方法は保留ということのようなので、僕も抜けさせていただきますが、戸締りのほどお願いします」
十文字先輩が、無感情な様子で了承してくれた。
翌日月曜日の昼休み。昼食をとりおわって、リーナが臨時生徒会役員になってからは生徒会室に行く週間がついていたのだが、土曜日の深夜のことを考えると、教室にいるクラスメイトと話していた。
そしてそれは、突如きた。パラサイトのプシオン波だ。今回の『吸血鬼』と呼ばれるタイプのプシオン波は火と反対の性質を持つために、僕にとっては感知しづらいものだが、2夜連続して身近にいただけあって、感じることができた。プシオンをサーチしてみたが、学内だ。なんで、よりによって学内なんだよっと思い、
「ちょっと、トイレ」
教室をでた後は、2科生のトイレと反対方向だが、気にしているのはいなかった。多分だけど。
パラサイトは実習棟のそばのトレーラに立っているリーナの方向へ、トレーラの中から歩いていく女性だ。しかもこのプシオンの感じだと、金曜、土曜日の晩に観ているやつだ。そのパラサイトが取り付いている女性の付近には、火が強すぎる僕にとっては視ずらい黒色系の水精が個別に認識できる。これは、幹比古の術でパラサイトを識別しようとしているのだろう。そもそもこの女性の魂が見えない時点で、ほぼ水の力が強い系統の妖魔かパラサイトに確定なんだが。
その女性のそばに寄っていくと、リーナはようやく僕が後ろから来ていることに気がついたのか、どうしようか迷っている様子だ。その様からすると相手がパラサイトと認識しているというよりは別な要件だろう。他にも、達也や深雪のプシオンを屋上付近に感じたが、そんな皆を無視してパラサイトがついている女性に向かって、
「はじめまして。生徒会で書記をしている陸名翔と申します」
「こちらこそ、はじめまして。マクシミリアン・デバイスでセールスエンジニアをおこなっている本郷未亜と申します」
「実は、学校とは関係のない話なのですが、今、あなたのまわりには、精霊がかなり寄っています。さっきから払いのけるようにしているので、なんとかしたいと思いませんか? たとえば精霊を身近によせつけないようにする処置をしてくれるところの紹介とか」
その未亜と名乗ったパラサイトは、リーナの方をみて少し困ったような感じをしているということは、リーナが少なくともシリウスだということを知っている可能性は高そうだ。
「ええ、最近なんですがよくわからないものがまわりに視えるようになってしまったのですが、仕事には支障が無かったので……」
「もしかして、最近国外へ出ていたとかありませんか?」
「ええ」
「そういう場合、魔法師としての資質をもっている方は、環境が一度かわったために、今まで見えなかった精霊などが視えることがあるそうです。僕のアルバイト先は地縛霊を専門に扱っているのですが、アルバイト先の師匠ならそういう人を治せるか、もしくは治せる人を紹介できると思います。よろしかったらコンタクト先を紹介いたしましょうか?」
「……よろしければ、紹介いただけますか」
「それではメッセージで送りますので、ソフトウェアを起動して待ってて下さい」
こちらは、情報端末をとりだして1対1で直接メッセージのやりとりができるソフトウェアを起動して、円明流合気術道場のコンタクト先と、僕自身のメールアドレス。ただし教えるのは人外用のメールアドレスで2人目だ。1人目はICPO魔法犯罪3課のブラドー氏で、ダンピール……あるいはバンパイア・ハーフとも呼ばれている吸血鬼と人間のハーフだ。まさかこのアドレスを使う相手が増えるとは思わなかった。
上記に加え『監視がついているみたいだから、学校ではあばれないで、とっとと逃げて欲しい』と付け加えてメッセージを送った。
受け取った方のミアは驚いたが、目の前の少年が敵意をみせていないのと、左腕に付けている汎用型CADでいつでも攻撃できたことから、自分がパラサイトであることを知っている。少なくともすぐには手を出さないと仲間と意志を疎通しあって判断した。問題は他に監視がいるという方だ。
「問合せしづらかったら、僕のメールアドレスも送ってありますので、そちらに連絡をいただければ、マクシミリアン・デバイス社へ行ける人も探せると思いますから」
「そのようなことにはならないと思いますが、お気をつかわせてありがとうございます」
ようするに、マクシミリアン・デバイス社に戻らないという意志なのだが、どのタイミングで脱出するかの判断を仲間とすることにした。
僕はこのミアというパラサイトが驚いてはいたようだが、明確な攻撃の意思を示してこなかったので、
「そういえばリーナはどうしてここにいるんだ?」
「えーと」
「よかったら生徒会室に一緒に行かないか?」
とりあえず、リーナがなぜここに来たのかは不明でも、あのパラサイトをパラサイトとして認識していないようだから、ここから引き離そうとした。
リーナがトレーラーに近寄る前から見ていた達也には、リーナが女性に向かって「ミア」と呼びかけたところから、UNSA軍がマクシミリアン・デバイス社に潜り込ませているエージェントだろうと推測をした。その女性に対して翔が話をしていることから、翔はこのミアという女性をパラサイトだと認識していると考えられる。その間のリーナの様子からして、UNSA軍のシリウスともあろう者が、目の前の人物をパラサイトとわかっていないのか、それともパラサイトを日本に潜りこませて、日本の魔法師を減らしていく作戦の一環なのかともいえるが、そういう作戦にしてもシリウスを日本に投入までして、パラサイトと敵対しているように見せるのは、不可思議な点がある。まだ全体のパーツが出そろっていないのと、ここで問題を起こしていないので、まずは傍観することにきめた。
ここに学校内の存在では最も好戦的なグループがいた。エリカは言うにおよばず、十文字、幹比古のグループだ。そこに美月がいたのは、最近の午前中としては珍しくはない、エリカが机で眠りこけていて昼と同時に、美月をつれて、色々と愚痴をこぼしていたところで、幹比古から昼食がわりのパンの差し入れやら、パラサイトの侵入を感じとったあとのCAD受け取りで十文字と合流したものによる。
僕はプシオンから、美月まで絡んでくるのかよと思いながら、幹比古が何らかの術を掛けようとしたのは察知したので、リーナも一緒に包み込むようにして、外部からのサイオンとプシオンとついでに音の遮断に、弱い認識阻害の魔法をかけた。これに気が付いたリーナは、
「何をしようとしているのよ!」
「いや、リーナと一緒にいると目立つだろう。周りに聞かれたくない話をちょっとしたいだけ。それに最近なら生徒会室にいる時間だろ?」
「ワタシから話す内容は無いわよ」
背後の気配から、戦いが始まったのはわかったが、とりあえず、今はパラサイトと事をかまえる気はない。
「話さなくてもいいけれど、臨時の生徒会役員で、放課後は早めに帰れるようにと昼休みの時間を使っていたのに、今日はこないんだなぁっと思ってね」
そもそも僕自身が今日は生徒会室へ行っていないから、時間かせぎという意味合いが高い。そのまま生徒会室まで向かって、直前で魔法を解いて中に入ろうとすると、リーナの口のふきんと耳からサイオン光がみえる。口付近の魔法式のパターンは遠隔地からの盗聴用の魔法だろう。耳の魔法は相手からの送信用の魔法か? 起用な相手だなと思いながら、リーナのひとことは
「シルヴィ?」
耳の方の魔法からの音声は聞こえてこないので、何を話しているのかは不明だが
「ミア? 彼女が白覆面だったんですか?」
ミアというと、さっきのパラサイトの下の名前がそんなんだったなと思い、プシオンから幽体を探ったが見つからない。つまり肉体的な死をむかえて、精霊とおなじような状態でいるわけだ。エリカが四肢を切って、目をつぶすようなことを言ってたが、それだとダメだったのかってところだ。深雪のプシオンを凍らせる魔法はつかわないだろうから、対応できるとしたら幹比古か。ただ、美月のプシオンへと触手らしいプシオンを伸ばしている感じが気にかかる。他のメンバーは『吸血鬼』と戦うことを意識していたメンバーで、美月はそんなそぶりを見せていなかった。
プシオンの感触をみるのはパラサイト周辺を向いていたが、現実世界では身近にいるリーナが動こうとしたので、通路に『圏』の術を発動した。『火圏』の術ほど得意ではないが、火を使わないということ以外の原理は一緒だ。さらに外には、遮音とサイオンとプシオン漏れを防ぐ結界も同時に展開しているが、
「なんでこんな結界を張るのよ!」
「うん? 生徒会室に入るんじゃなかったのか?」
とぼけてみせたが、
「ショウ、もしかして吸血鬼の仲間なの!」
「それは違うよ。今のところ中立に近いかな。問題は、パラサイトがそういうふうに思ってくれているかは別だけど。なんせ、吸血鬼の討伐したい魔法師達が、今、交戦中だからね、って終わったかな?」
達也の術式解体らしいサイオンを感じたあとに、パラサイトのプシオンを感じなくなった。精霊に似ている状態のパラサイトに、効くとは思わないから、追い払ったというところだろう。
「中立? 終わった? どうやって?」
「話す内容はなくても、質問したい内容はあるようだね」
そうしたら、ぷいっとして、生徒会室入り口へと向かったので、結界をとくことにした。
生徒会室には生真面目な中条会長だけがいる。そのままたいしてたまっているわけでもない電子データの整理をし、午後の授業で教室に入ると、不機嫌そうなエリカたちを目にしたが、捕捉が失敗したのだろうが、あのパラサイトは僕のほうを、どう思ったのだろうかと気に掛けるところだった。
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