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僕の周りには変わり種が多い

作者:黒昼白夜
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来訪者編
  第32話 秘密は多いけどさ

九重先生のところのお弟子さんには、僕と協力関係にある甲賀の忍者の面倒をみてもらうために残ってもらって、かわりに僕はモーターセダンに乗せてもらって、リーナの横にいる。

リーナが一緒に移動するのを嫌がったので、

「今だとトイレにいってもらう術っていうわけにいかないし」

そういうとリーナがキッと視線を向けてきたが、九重先生が

「そういう術の使い方じゃないんだけどね」

「九重先生に何かいい案ありますか」

「1つお願いごとをしたいだけなんだよね」

その一言の気配で、リーナはモーターセダンに同乗することにはなった。そこにこめられた気配は殺気と呼ばれるものだろうか。いまひとつピンとこないんだよな。

モーターセダンの中で九重先生がリーナに要求したのは、パレードを他人に伝えないことだけ。リーナが九重先生の言葉を信じられないのも無理は無いだろう。僕の場合は、他人へ伝える資格があるかどうかを見られていたので、毎年一回なんて条件がついていたけどね。

モーターセダンに乗る前のことがあるのでリーナが僕の言葉に耳を貸すわけもあいので、とりあえずは思考を変えてもらうために、持っている情報端末に昨晩のシリウスとしてのリーナと『吸血鬼』と呼ばれているパラサイトとの戦いを、画面に流して目の前に出して見せたらさすがに反応があった。

「これを撮っていたというの?」

「そうだよ。だいたいリーナとパラサイトから20m前後ぐらいの距離かな」

「嘘言わないで!」

「そうしたら、気がつかせない方法の1つを実施するから、反対側をむいてくれないかな?」

そう言って少し考えていたようだが、反対側を向いたので『纒衣の逃げ水』により車外に分身の幻術を発生させて、本体は座ったままだがまわりからは消えたように見えるので、リーナへ声をかけて、振り向いてもらった。

「なんで視えないの?」

「ここにいるよ」

「スピーカーか何かでごまかしているんじゃないでしょうね」

「違うよ」

『纒衣の逃げ水』の術といてみせた。

「っということで、パレードと同一系統の古式の魔法だよ。一瞬でも目を放したら、リーナには僕を目視することが不可能だとわかっただろう? ちなみに九重先生は僕の上を行くはずだから」

そう師匠に聞いているだけで、九重先生のは見せてもらったことは無い。もしかしたら、こっそり行なわれて気が付いていないという可能性もゼロではないが、背後ならともかく、目の前ならプシオンで気が付くだろう。

「だけど、『ブリオネイク』を振り回されたら、無理かもしれないな」

「なぜ『ブリオネイク』のことを!」

「どうやって探ったなんて、僕だって知らないし、知る必要もなかったからねぇ。ただ、日本では使わないでほしいと言ったところかな」

師匠がおこなっているので、どうやってスターズの極秘情報を入手したのかはわからない。多分、電子精霊を使っているとは思うのだが。
リーナは黙っているので、

「まあ、いいとして、僕が知りたいのは、ステイツから日本へ何体の『吸血鬼』が来ていて、そのうちの何体を処刑したと認識しているのかを知りたいんだ」

リーナは沈黙のままなので、あとでもいいかと思い、そのまま黙ってリーナの気配とプシオンを確認したまま、窓の外を眺めていた。



東京都内でも比較的第一高校に近い真っ暗な河川敷へとつき、達也から

「リーナ、フェアに取引と行こう。1対6がずるいというなら、1対1で勝負しようじゃないか。君が勝ったら今日のところは見逃すことにする。その代わり、深雪が勝ったら、俺や翔から訊かれたことに正直に答える。これでどうだ?」

達也と深雪をつなぐ霊気のラインを見直してみたが、普段と変わっていない。

「達也。その条件なら、僕は飲めないな」

「なぜだ?」

「今の深雪さんの状態なら勝ち目は1割以下。だけど10月末に一緒に戦った深雪さんなら、結構いい勝負とみるかな」

「翔はああ言っているが、どうする?」

「……残念ながら、お兄様にお任せいたします」

「そうか。なら、翔がおこなってみないか?」

「僕かい?」

「そうだ」

そういえば、達也には九校戦でアルバイト用CADの起動式をみせていたか。

「リーナには拳銃型の武装一体型CADを持たされていないとか、アンジー・シリウスとしての専用CADを持っていないようだから、僕からの攻撃は正面からの火のみで、防御はなんでも良いというのではどうかな? 移動されたら、火以外も使うけどね。たとえばトイレに駆け込みたくなるようにするとか」

「ショウ! まさか、私を相手に防御へのキャパシティを分けながら、ワタシに火で勝てるつもりでいるの?」

「灼熱地獄『ムスペルスヘイム』だろ。十分だよ」

「ずいぶんと舐められたものね!」



このあとは、達也とリーナが条件のことを話したり、九重先生が審判となることとなったが、九重先生から

「では、始めようか」

そう言われた瞬間に僕は『火圏』の術の外部からのプシオンを侵入させないアレンジ版と、念のための『炎衣』の術を発動した。
その間にリーナは灼熱地獄『ムスペルスヘイム』を発動して、気体分子をプラズマに分解し、さらに陽イオンと電子を強制的に分離することで高エネルギーの電磁場を作り出す領域魔法だが、その魔法は僕の『火圏』に入りこんでくるたびに、僕の『火圏』で設定されている温度に低下するため、通常の状態になる。

このままなら、どちらが先にサイオン切れを起こすかになるか、あるい他の術式に切り替えてくるのだろうが、それより先に『倶利伽羅剣(くりからけん)』のアレンジ版を出して、『ムスペルスヘイム』の中に投げつける。
倶利伽羅剣(くりからけん)』は降魔(ごうま)利剣(りけん)で、魔法により改変された事象を切り裂く能力がある。このアレンジ版はさらに火に改変される前のサイオンと制御のプシオンを吸収して剣が巨大化していくことにある。火の魔法に対抗するのは最も効率の良い古式魔法のひとつだ。八尾の妖孤の時にも併用して使った古式魔法だが、あの時は妖孤のサイオン量が多すぎて、何十本作り上げたか覚えていない。おかげでこちらのサイオンはともかく、サイオンを操作するためのプシオン量を使い果たしてしまった。

その最中にもう一つの魔法を実施するために、アルバイト用のCADを操作していた。そして、準備ができたところで発動したのは『五火』の術。陰陽五行系の魔法で火による結界術としては最大級の魔法だ。ただし、これは、まだ続けている魔法の前準備。『火圏』の術をキャンセルして、次の魔法は現実世界にまで高位の精霊を呼ぶ魔法で、呼んだのは『火之迦具土神(ひのかぐつち)』だ。(にえ)のかわりに『倶利伽羅剣(くりからけん)』を喰わせて、リーナのムスペルスヘイムを喰らわせながら近づける。

「リーナ。このあたりで降参してくれないかな?」

「嫌ッよ!」

「……そうか、わかった。それなら僕の方が降参する」

そして『火之迦具土神』には現実世界からサイオン次元へ戻ってもらった。

「えっ?」

驚いていたのはリーナで、攻撃まで止めてしまった。僕の方はそれですべての魔法をやめた。

「なんで降参するのよ!」

「さっきの火の精霊をあまり長い時間現実世界にいさせると、火傷を負わすならともかく、意地をはっているリーナをプシオンごと喰ってしまうかもしれないからね」

「……」

「っというわけで、悪いけど降参するよ」

「こんなの屈辱よ!」

「そう言われてもね。九重先生、審判お願いします」

「陸名翔の負け」

「そこは勝者の名前を挙げるところじゃないですか!」

「取り決めには勝ち名乗りを上げるとはなっていなかったからね」

この性格の悪い九重先生のもと、受け入れるしかなかった。



リーナを駅まで送るのは、九重先生のモーターセダンだが、往路と違うのは、僕は助手席に座って、達也と深雪はバイクで先に帰ってしまったことだ。リーナの不信感を減らすと言う意味もあったのだろうから、九重先生もそのまま帰らせている。

駅についたところで、リーナへの情報端末と拳銃型CADの引き渡しは車外で、僕がおこなうことになった。車内で発砲されたら、匂いが移るからという理由には、さすがになんともいえない感じだったが、

「これで端末とかのチェックは了承してもらえるかな?」

「いいわよ。ところで……」

「何だい?」

「9名と2名よ。それに協力者が1名以上いると思われるわ」

「……往路での話かい?」

「そうよ。これで借りは無しよ」

「達也たちにも言っていいかな?」

「ご自由に」

貸しだなんて思っていない。僕の作戦が失敗しただけだ。強力な精霊を現実世界まで呼び寄せたなら、サイオン量の違いが普通の魔法師ならわかるから、勝ち目はないと判断して降参すると思っての作戦だっただけだ。
しかし、余計なことは言わないで、そのままモーターセダンに乗り込んで、場所を教えてもいない自宅まで送ってもらった。その最中に、達也へ月曜日の朝に九重寺で会えないかとメールを送ったら、返信には明日日曜日の朝に生徒会室へとの内容だった。



翌朝、一高の生徒会室に入ると先にいたのは、達也と深雪はもちろんだったが、幹比古とエリカだった。

「おはよう。なるほどね、九重寺じゃなかったのは、幹比古とエリカがいるからか」

「他にも来るから、話はメンバーがそろってからしたい」

そこで、適当に話をしていたら、ノックをした人物がいる。プシオンから連想しているうちに、達也が律儀にもドアを手で開けているのだから、七草先輩は令嬢だからいいとして、達也はどこの執事かよと思っていた。

入ってきたのは十文字先輩も一緒で、エリカと七草先輩の間で、「なぜこのメンバーを集めたのか」なんていう話はでたが、達也はあっさりスルーして、

「我々が追いかけている吸血鬼の捕獲について、お知らせしたいことがありましたので」

「聞かせてもらおう」

「了解」

十文字先輩と僕だ。

「昨晩、三時間おきに特定パターンの電波を発信する合成分子機械の発信器を打ち込みました」

あのパラサイトに打った弾丸って、そういう効果のあるやつだったんだと思いながら

「発信器の寿命は最長で三日間。電波の出力は微弱ですが、街路カメラに併設した違法電波取締用の傍受アンテナなら受信可能です」

まわりから達也に質問はとんだが、それもあっさり無視して

「これが電波の周波数とパターンです」

達也から各自へとカードが滑らされた。

「翔は不明だが、先輩のチームもエリカ―のチームも傍受アンテナを利用できるはずですね?」

普通の古式魔法師もからんでいたら、利用可能のはずだけど、裏賀茂系だけなら、関西はともかく関東はどうなのかな。知らないから、師匠に話すだけだろう。

「……これで居場所を突き止めろ、ってこと?」

「……なぜ、これを私たちに?」

七草先輩には達也が黙ってうなずき、エリカは質問をしたが

「我々が追いかけている吸血鬼の正体ですがUSNA軍からの魔法師のようです。それも単独ではありませんね。脱走者は少なくとも2人以上です」

「達也、補足していいかな?」

「……いいぞ」

「USNA軍からの脱走は10名以上。うち日本にきたのは9名。協力者は1名以上いると思われますけど、その協力者もパラサイトと考えるのが合理的だと思われます。また、このパラサイトの特性は確認できていませんが、処刑にあったあと幽体あるいはプシオン体ともいいますが、それが観測されていることから、他の人物へ寄生する可能性は非常に高いです」

レオの見舞いに行った時や、幹比古とエリカには別途可能性を伝えてあったから、そうでもないが、十文字先輩と七草先輩は驚きを隠せなかった。
 
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