僕の周りには変わり種が多い
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来訪者編
第34話 水晶
パラサイトが一高に入ってきた日から5日後の土曜日の早朝。
いつもなら、ここ九重寺で達也と殺し合いまがいの練習をしていたりするのだが、今日は達也の対パラサイト用の修行をながめていた。それで、ちょっとした疑問をもったので
「達也って、今は術式解体『グラム・デモリッション』をつかっているけれど、サイオン粒子塊は扱えないのか?」
「威力が足りない」
そういわれると、純粋なサイオン量だけなら無理だったよな。それに付加させるプシオンを多くできれば、結構いい手だとはオムのだが、魔法には向き不向きがあるから、どうしようもない。そこで九重先生に向かって
「僕にも現実世界にはでてこない式神をだしてもらえませんか?」
九重先生も、土曜日にくる僕のことを忘れていたのか、わざと連絡しなかったのか
「ほい」
そうして、だしてくれる。僕にはっきり見えるのはあくまでプシオン次元の情報体であって、サイオン次元の情報体はなんとなくそこに居るという感じだけだ。
そのプシオン次元の座標を感じ取り、無系統魔法の起動式をつめたカートリッジを装填済のシルバー・ホーンで、プシオン次元の式神のプシオンを削るために、外殻にむかって少しづつ座標をずらして連射する。プシオンの中でも一番外の部分に放ったから、サイオンをコントロールする部分を削って、相手をした式神の放出できるサイオンを削ったのと同じ効果になるはずだ。
アルバイトではたまにだけど、魔法師の能力がある顧客がみたいというときに使ってみせる、悪霊から現実世界のサイオンを削るための方法を変形だ。普通なら座標はプシオンだが、今回はプシオン情報体にたいしておこなってみただけだが。
「達也がおこないたい事とはことなるけれど、パラサイトを弱らせて逃げ出さすくらいは、これでできると思うけど」
「それを自分におこなえと?」
「達也なら術式解体を自身の能力だけで行うより、幹比古あたりと組んで束縛してもらうのもいいと思ってな。それにシルバー・ホーンのループ・キャスト機能を使った方が楽だろう? 必要だったら、今の起動式は見せても問題ないけど」
「プシオン誘導型サイオン起動式か?」
「ああ。プシオン誘導式を外せば、実質同じだっていうのはわかるだろう?」
「まあな。自分につかえるかどうかわからないが、後でみせてくれ」
「そうしたら、学校でな」
深雪は来ないそうだし、見ているだけなのもつまらない。今回のパラサイトが寄生するのに記憶が、プシオンなのか、魂なのかで対応がかわってくる。プシオンなら地縛霊と同じく魂を送り出せばよいだけだが、魂に刻み込まれていたなら、魂が戻ってきた時に変な術を覚えていられると厄介だから、手だしが簡単にできないでいる。新種じゃなければ、方法は確定しているから楽なんだけどなと思いながら、学校へ向かうことにした。
2月14日のバレンタインデー。
バレンタインデーは本命がいなければ面倒なだけだ。プラットフォームから学校に向かいながらも、ここしばらくの状況変化を思いうかべていた。
リーナの方は学校でのパラサイトが現れた後は、昼休みの生徒会室利用もなくなり、放課後だけになったのがどういう意図なのかが不明だ。ステイツでのマイクロブラックホール生成実験が行なわれたあとで、吸血鬼が発生したというニュースが流れだしてから、ステイツでは、軍人以外のパラサイトとはいっても『吸血鬼』以外の捕獲や、妖魔の捕獲がおこないやすくなっているらしい。そうはいってもステイツにいる古式魔法師があくまで中心となっておこなうために、以前よりはマシになったというところだ。
日本では、いまだ師族会議で九島家、七草家、四葉家が首をたてにふらないらしくまとまりがないし、ICPO魔法犯罪3課は日本に介入できていないなか、どうも日本でのパラサイトの動きは陰にうもれたようだ。報道がなされていないだけかもしれないが、それこそ今さらだろうしな。
教室に入ればレオがきていて
「よう、ひさしぶりだな」
「学校では1カ月ぶりってとこか」
そのあと、幹比古、達也に美月とはいってきたところで、
バレンタインデー用の同じ包みの箱を美月から渡された。幹比古はそこで不満げだが、レオは何やら珍しそうにしている。中学時代の個人的な経験から
「レオ、1カ月後にお返ししておかないと、来年からはもらえないかもよ」
「そうなのか?」
そう言った拍子に、教室へとエリカが入ってきたのと同時にこの現場を目ざとく見つけて、
「ずいぶん急いで退院すると思ったら、チョコが目当てだったの?」
「そんなわけねぇだろ! ふざけんなよ、このアマ」
「あら、もしかして図星」
レオがチョコレートをもらった反応から、そんなことは無いと思うが、その部分を見ていなければ、そのように考えられなくもない。
そのあと達也が、エリカと話してバレンタインデーにまつわる、門下生の愚痴を言ってた。
「バレンタインなんてさっさと無くなっちゃえばいいのに」
「ホワイトデーでお返しは返ってこないのかい?」
「半分はこないわね。それなのに、欲しがるだけは欲しがるんだから。そういえば翔くんが通っている道場ってどうなの?」
「僕もアルバイトで指導員をしているから、もらうことはもらうけど、指導している相手は主に小学生だからねぇ」
「もしかして、小学生が好みだったとか?」
「もしもし、エリカさん。それは大きな勘違いをみんなにふりまくからやめてくれよ。単純に道場の方針だよ。小学生か、もしくはものすごく安定的な体型をしている女性を相手にすることもあるから、そういう人から義理チョコが来るだけで、お返しのバランスを考えるのが面倒なだけだよ」
それで、エリカの興味は僕から幹比古に移り、
「ミキのところは女の人が多いんでしょ。毎年よりどりみどりなんじゃない?」
「吉田くん……そうなんですか?」
エリカについで、美月まできいてきている。
「そんなことないよ! 大体、そんな浮ついた気持ちで修行に挑むなんてとんでもないことだよ」
これはエリカの地雷を踏んだようで、その返答に対して美月まで眼が座っている。可愛そうにと思っていたら、南がクラスメイトの男子の全員に配りにきて、その場の雰囲気は解消された。
放課後は生徒会室で仕事をしていたが、中条会長から義理チョコをもらったのは、まるっきり思っていなかった。深雪がいる時に怒らせないようにガス抜きをしているからだろう。それにしても、ほのかの髪についている水晶に何か違和感があることに気がついた。
「ほのかさん。それ水晶だよね?」
「あっ、うん」
「達也からか」
「……うん、チョコのお返しにって」
ほのかと僕の間にいるリーナはなんとなく、達也という言葉に反応するが、水晶のプシオンの感じからすると深雪が多分選んだのだろう。中条会長はにこやかに見ている。昨日のほのかの落ち着かない状態からみると、今日はまだよい方なのだろう。五十里先輩は千代田先輩につかまって、すでに帰っている。まあ、生徒会の会計は毎日来る必要は無いのだが、たまに別件が入ることはある。
今触っている生徒会室の情報端末から、手を放して自分の情報端末で達也へメールでの生徒会室への呼び出しをかけた。その動さが不自然に見えたのだろう。中条会長から
「その水晶、何かあるの?」
「……生徒会には関係ないことですから」
この言葉に反応したのは中条会長ではなく、深雪だった。
「お兄様が何かしたとでも言うのですか!」
「したとは思っていないが、気がついていなかったという可能性はある。ごくわずかだけど、ほのかさん以外のプシオンの反応があるから入手経緯とか、渡した状況とかを聞きたいと思って」
「これって、有害なんですか?」
「多分ほのかさん自身には問題は無いと思うけど、その水晶に関連したどこかに何かの問題が発生する可能性がありそうなプシオンだから、なるべく早く調べたい」
「そうしたら、わたくしがお兄様に連絡します」
「お願いするよ」
もう一度水晶のプシオンを観るが、ほのかにラインがつながっているのははっかりとわかる。しかし、水晶には別なラインで非常に視ずらいタイプのプシオンがつながっている。
このラインの色から見て何やら嫌な予感がする。リーナにも別な霊気のラインはついているが、スターズではやはり気がついていないようだな。まあ、この学校のプシオン偽装対策もすりぬけてるようだし。
達也が生徒会室に来たので声をかけようとしたら、ほのかがつけている水晶のラインに何かが流れたところまではわかる。ちなみに達也が、大量のチョコを持っていることにたいして、心配になったのか、そこの中にいわゆる本命チョコと呼ばれる大きさのチョコレートの包み紙をみたあらなのかはわからんが。
「えーと、達也とほのかさんに話があるから、下の風紀委員室で話させてくれないか?」
「それならわたしも」
「深雪さんもか。ほのかさんがよければそれでも良いけど、どうする?」
「……かまいません」
「中条会長。ちょっと時間がかかるかもしれませんので、戻ってこなかったら一度戸締りお願いします」
返答をまたずに、生徒会室からつながる階段を通って、風紀委員会室に降りて、ほのかの水晶を見てから話を始めた。
「ほのかさんがつけている水晶なんだけど、ものすごく見ずらいプシオンのラインが視えている。そして生徒会室からここにおりてきただけでも、ラインの角度が変化していることから、学校内の何かとそのラインは結ばれていると考えられる」
「場所は推測できるのか?」
僕は方向を指さし示しながら
「10mぐらいしかラインは見えないけど、プシオンのラインの直線的にのびる性質を考えると、ロボ研のガレージ裏手の木陰付近じゃないのか。その水晶を手渡したのは」
「プシオンのラインだけでそこまでわかるのか?」
「いや、半分は推測。方向的にあっているから、あの木陰は密談とか、告白とかで有名なところだから、物の受け渡しにもちょうどよいだろうとね」
「そのプシオンのラインがつながっている先に何があると思っているんだ?」
「人間じゃないということだけは確かだと思う。それ以上は、単なる憶測だから、できることならほのかさんの水晶を借りて、1人で見てきたいのだけど」
今まで達也とはなしていたので、ほのかの方を見ると、
「私は直接行ってみてみたいです」
「っということで、達也にはほのかさんの護衛役を頼みたいんだ。僕だけなら逃げるだけならなんとでもなるんだけど」
「そこなら関係ないとはいえないな」
「お兄様が行くならわたくしも」
「深雪お前は待っていろ」
「達也、九重寺でおこなっている修行の成果は? それ次第によっては、深雪さんもきた方が良いと思うぞ」
「お兄様。つれていってくださいますよね?」
「まさか、この先の相手はパラサイトだと考えているのか?」
「……そう。だから、僕が敵対しているとは思われていなければ良いのだけど、なんともいえないからなぁ」
深雪からはなんともいえない微妙な雰囲気がただよってきたが、ほのかは最初こそやめようかという雰囲気はあったが、妙な雰囲気を感じたのかきょとんとしている。
結局はほのかの水晶から伸びるラインを目印にしながら、ロボ研のガレージまで近づいたところ、ラインは裏手ではなく、ガレージの中のある物を指し示していた。その物とほのかを見比べて
「まさか、こんな状態とはねぇ」
「まさかって、あの3H(人型家事手伝いロボット)か?」
僕の目をやっている先は壁だが、達也は論文コンペでここに入ったことがあるから知っているのだろう。
「その通りなんだけど、止まっている3Hの中にいても、プシオンが多少は動いているようだから、完全な休眠状態ともいえない。他の中にいる生徒は特に問題なし。それよりも、3Hのプシオンの特徴が、ほのかの特徴に似ているんだよね」
「えっ? わたしのですか?」
「うん。あくまで推測だけど、ここの裏での水晶の受取あたりでほのかさんの思念を、直接的に写し取ったんじゃないかな? 残留思念だとラインはつながらないはずだから、つながっているというのはそういうことじゃないかと……」
「危険性は?」
「パラサイトの意識が強いのか、ほのかの思念を受け取った方が強いのかによりけりだと思うけど、このプシオンの特徴だと表面上はほのかの思念の方が上回っているんじゃないかな。とりあえずは、今まであばれていないようだから、あの中の3Hの目の前を通るには、ロボ研で今出入りを管理している生徒に出てきてもらって、入場許可をとらないといけなかったよね?」
赤くなった顔を隠すようにほのかはしていたが、ほのかにとって今は幸いながら、ここで聞いたりする者はいなかった。
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