デート・ア・ラタトスク
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キミノナマエ
一度、フラクシナスで回収されたエミル達は琴里の元に来て、説明を受け、準備を始める。……途中にサポートするクルーの人達を紹介された。〈早すぎた倦怠期〉川越、〈社長〉幹本、〈藁人形〉椎崎、〈次元を超える者〉中津川、〈保護観察処分〉箕輪と五人の優秀なクルーを紹介された。正直頼りにしていいか不安だった
「さて、早いところ行くわよ。精霊が外に出る前にね」
「……分かったよ」
士道は不安げな顔を浮かべる。相手は精霊だ。失敗をすれば死を意味する。訓練したとはいえ、成功するか不安だった
「なーに不安そうな顔してんのよ。大丈夫、士道なら一回死んでもニューゲームできるから」
「どこの配管工のおっさんだそれ」
「確かそれこの前やったゲームのキャラのことだよね?」
「ていうか、死んだら普通終わりだよね……」
いつも通りのやりとりをしながら、顕現装置を使ってる転送機の上に乗る。エミルの世界にもレザレノカンパニーの地下にもこんなワープ装置があったのを思い出す
「じゃ、幸運を祈るわ。グッドラック」
「おう」
「行ってくるよ」
「行ってきます!」
三人は軽く手を上げて返す。この時士道は精霊を倒すとか、恋をさせるとか、世界を救うとか、力を取り戻すとか、そんな大それたことは考えていなかった
ただ────あの少女、もう一度だけ話をしてみたいという考えだけだった
校舎内に入った三人は精霊の反応がする場所に向かう。着いた場所は二年四組、士道達の教室だった。そしてエミルとマルタは近くの物陰に隠れ、士道は意を決して教室の扉を開ける
「───ぬ?」
「や、やあ───」
少女が士道の侵入に気づき、士道に向かい無造作に剣を叩きつけると激しい衝撃波が士道の横を通り過ぎる
「ちょ………!?」
「───そこに止まれ。そして、そこの物陰に隠れてる二人も」
「…………え!?」
凛とした声が響かせると同時にエミルとマルタが隠れてる物陰の上半分を剣で斬る
「───こっちに来い」
二人は従うように少女の元に来る。そして三人は頭の先から足のつま先までジロジロと少女に見られて、少女は士道に対して口を開く
「お前は何者だ」
「お、俺は───」
『待ちなさい、士道』
士道が答えようとする前に、琴里からストップが入る
フラクシナスの艦橋のスクリーンには精霊の少女が映し出されていて、その周りには『好感度』をはじめ、各種のパラメータが配置されて、士道が訓練したゲームの画面にそっくりである。そして突如、艦橋にサイレンが鳴り響くと同時に画面に選択肢が表示される
①「俺は五河士道だ!君を助けに来た!」
②「すいません、通りすがりの一般人ですので殺さないで……」
③「人に名を訊ねる時はまず自分から名乗れ」
④「君をペロペロするために来た変態です」
これが表示されるのは精霊の精神状態が不安定な時だけに限られ、ここで正しい対応をすれば精霊に取り入ることができるが、間違えれば………最悪だと死が待っている
「これだと思う選択肢を選びなさい!五秒以内で!」
クルー達は一斉に手元のコンソールを操作し、結果はすぐに琴里のディスプレイに表示された
最も多いのは③番だった。なぜか……絶対に選ばれることがない④番に1人だけがいたのは気にせずにディスプレイから目を離す
「……②は論外だね。万が一この場を逃れることができても、それで終わりだな」
「①は一見王道ですが、向こうはこちらを疑ってるこの場で言っても胡散臭いですね。まぁ、私は迷わず④を選びましたがね」
令音と神無月が声を発する。そして琴里はパチンと指を鳴らすと神無月の後ろに屈強な男達が現れ、神無月は喚き声を上げながら、屈強な男達に連れ去られていった
「そうね。③は理に適ってるし、上手くやれば会話の主導権を握れるわ」
琴里はマイクを引き寄せ、士道に指示を出す
『士道、聞こえる?今から私の言うとおりにしなさい』
「お、おう。分かった」
『人に名を訊ねる時はまず自分から名乗れ』
「人に名を訊ねる時は自分から名乗れ……って何を言わせ──」
その瞬間、少女は不機嫌そうに歪め、何やらぶつぶつと言い始める。そしてその言葉が途切れると光の球が現れる
「光よ──フォトン!」
「粋護陣!」
「レジスト!」
光の爆発が起こる直前にエミルがロイドに教えてもらった粋護陣とマルタが覚えたレジストが三人を包む。だが、威力が強過ぎたのか三人は教室の端まで転がる
「………ぐあっ……」
「士道!大丈夫!?」
『あれ?おかしいな……』
「おかしいなじゃねぇ……殺す気か!?」
頭をおさえながら身を起こすと、少女はしばし士道とエミルの顔を凝視する
「お前達は……前に一度会ったことがあるな…?」
「あ、ああ。今月の確か十日に街中で」
「うん。確かに会ってるね」
少女は「おお」と得心がいったように手を打つ
「思い出したぞ。何やらおかしいことを言っていた奴らだ」
少女から険しさが消えるの見取り、三人の緊張が緩む。だが───
「ぐっ…………!?」
少女が士道の髪を掴み、顔を上向きにさせる
「何が目的だ?お前達は何をしに現れたのだ?」
「……僕はエミル。僕とマルタは君の中にある力の暴走を止めるためにここに来たんだ」
「………ふむ。そうか……では、お前は?」
「それは──ええと……」
士道は口を開く瞬間、琴里の声が耳に響く
「また選択肢ね」
琴里はスクリーン中央に表示されている選択肢を見つめた
①「それはもちろん、君に会うためだ」
②「別にいいだろ、そんなの」
③「単なる偶然だよ、偶然」
④「君のスリーサイズが知りたくて来たんだ」
手元にあるディスプレイには瞬時にクルー達の意見が集まり、結果が出る。①の意見が多かった
「④は絶対に無理として、②は反応を見る限り無理でしょうね。士道、無難に君に会うためと言っておきなさい」
『き、君に会うために来た』
『……?私に?一体何のために』
きょとんとしながら、少女が言うとまた選択肢が表示される
①「君に興味があるから」
②「君と愛し合うために」
③「君に訊きたいことがあるから」
④「君と一緒に大人のホテルに行くために」
「ん──……どうしたもんかしら………特に④番」
さっきから④だけセクハラ発言が多い気がする。琴里はそのうち点検しようと思いながら、手元のディスプレイを見ると②の意見が多かった
「ここはストレートに行くわよ。士道、君と愛し合うためにって言いなさい」
琴里はマイクに向かって士道に指示をする
「き……君と愛し合うために」
「…………っ!?」
士道が言った瞬間、少女は恥ずかしそうに剣を横薙ぎに振り、教室の壁を切り裂く
「じ、冗談はいらない!ほんとのことを言え!!」
少女は士道の目の前に剣を突きつける。そして、少女は愛されるなんて微塵も思わない顔をする。その表情は士道が大嫌いな顔だった。まるで世界に絶望したようなその表情が
「俺は……君と話をするために来た」
「……どういう意味だ?」
「そのままだ!俺は君と話がしたいんだ。内容か何かはなんだっていい。気に入らないなら無視してくれたっていい。でも、これだけは分かってくれ……俺は──君を否定しない」
「…………っ」
少女は士道から目を逸らし、しばしの間黙ると、小さく唇を開く
「……シドー。シドーといったな。……本当にお前は私を否定しないのか?」
「ああ、本当だ」
「……エミルとマルタも私を否定しないのか?」
「うん。僕も君を否定しないよ」
「私もだよ。絶対に否定しないよ」
少女は今にも泣き崩れそうなを顔をしながら、後ろを向き、ずずっと鼻をすするかのような音を立ててから顔の向きを戻す
「誰がそんな言葉に騙されるかばーかばーか」
「だから、俺は──」
「まぁ、どんな腹があるかは知らんがまともに会話しようとする人間は初めてだからな。この世界の情報を得るために少しだけ利用してやる」
「「「…………え?」」」
「話くらいはしてやらんこともないと言っている。情報を得るためだ、大事、情報超大事」
三人は苦笑するが、少女の方はほんの少しだけ表情が和らいだ気がする
「そういえば……あなたは名前とか無いの?」
マルタは少女に問いかける。すると少女は眉をひそめて、考える
「……そうか。会話を交わす相手がいるなら、名が必要だな」
「え?名前が無いの?」
「うむ。だからシドー、エミル、マルタ。お前達は何と呼びたい」
「「「………は?」」」
「私に名をつけてくれと言ってるのだ」
「お、俺達がかッ!?」
「ああ。どうせお前達以外と会話する予定はない。問題あるまい」
「うっわ、結構ヘビーなのが来たわね」
「……ふむ。どうしたものか」
艦橋にあるスクリーンには選択肢が表示されていない。AIでは名前はパターンが多すぎて表示しきれなかったのだろう
「しょうがないわね。総員!今すぐに彼女の名前を考えて私の端末に送りなさい!」
そしてディスプレイに視線を落とすと既に何名かの候補が上がっていた
「ええと……中津川!澪ってあなたの大好きなアニメのキャラじゃない!」
「すいません……これしか思いつかなくて……」
「たくっ……他は……椎崎!敦子ってあんたの呪った相手じゃない!」
「……今でも思い出すと憎しみが……」
「危険過ぎて無理!」
他にも見てみるがロクなものがない。センスのない部下にやれやれと首を振る。仕方なく、琴里も少女の名前を考える。そして考えた末の結果───
「エリザベス」
『エリザベス!君の名前はエリザベスだ!』
士道が言った途端、画面内ではエミルとマルタが声を抑えて笑っていて、少女は三人の足元にズガガガン!!とマシンガンの光球が連続して降り注ぐ
「あれ?おかしいな。洋風で良い名前だと思ったのに」
「……なぜか分からんが馬鹿にされた気がした。特にエミルとマルタに」
「……す、すまん。ちょっと待ってくれ」
冷静に考えるとエリザベスはないだろと思い、士道は考える。言っても、出合い頭に名付け親になってくれとは予想してなかった。こうして、考えてるうちにも少女の顔が徐々に不機嫌になっていく
「──と、十香なんてどうだ?」
「あ、それ良い名前だね」
「エリザベスよりずっと良い名前だよ」
「まぁ、いい。エリザベスよりマシだ」
十香は少し満足そうな表情を見せる。そして十香は士道の方に歩み寄る
「ありがとう。シドー。こんな素敵な名をつけてくれて」
「い、いや……それほどでも」
「シドー」
「な、なんだ?」
「十香」
「……へ?」
「十香。私の名だ。素敵だろう?」
「あ、ああ………」
何というか……色んな意味で気恥ずかしい。その様子を見ていたエミルとマルタは静かにそこを後にして士道と十香だけにする
「あ、あいつら………」
二人ははこっそり隠れながら士道と十香をにやけながら見守っていた
───そして、十香はもう一度唇を動かす
「シドー」
………士道は十香の意図が分かり、恥ずかしそうに
「……と、十香」
士道がその名を呼ぶと、十香は唇の端をニッと上げる。この時、士道とエミルとマルタは十香の笑顔を初めて見た
と、その時。突如、校舎を凄まじい爆音と震動が襲う。ASTによる攻撃だった
『エミル、マルタ。ASTが攻撃してきたわ。すぐに迎撃しなさい』
「「了解!!」」
エミルとマルタは急いで外に出てASTの元に行く
「頼むよ………ラタトスク!!」
『ちょうど一際暴れたい気分だったんだ……いくぞ!!』
ドクンと心臓が跳ねると、おとなしそうな雰囲気から一気に攻撃的な化け物となる
エミル──ラタトスクの存在に気づいたASTは十香から目的を変え、ガトリングを撃つ。弾丸をよけて一気に間空いを詰める。AST隊員はガトリングを捨ててレイザーブレイドを引き抜き、ラタトスクと交戦する
「魔神剣!!」
ゴウッ!と衝撃波がAST隊員達を吹き飛ばす。そして隣ではマルタが呪文を詠唱し終わると
「喰らえっ!ディバインセイバー!」
追い討ちをかけるように裁きの雷が落ち、AST隊員達は倒れていく
「もっと暴れてやるぜぇぇ!!」
『はい。暴れるのはそこまで。フラクシナスに戻りなさい』
「ほら、行くよ。ラタトスク」
「ちっ………」
まだ暴れ足りなかったのにと残念そうにラタトスクはマルタと一緒にフラクシナスへと戻った
フラクシナスに戻ると士道が顔を手で覆い、恥ずかしそうにしていた
「士道……どうしたの?」
「………何かあったの?」
「……十香とデートすることになった……」
それを聞いた二人はフラクシナス全体に声が響き渡るほど驚いていた
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