戦国異伝
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第百九十九話 川中島での対峙その十
「ありませぬ」
「やはり一度も」
「こうして見るのもはじめてです」
「一度もありませぬ」
「ですからとても」
「知っているとは」
「わしもじゃ」
幸村もというのだ。
「あの御仁とはまだな」
「話したことがないですな」
「殿もですな」
「そうじゃ」
その通りだというのだ。
「だからな」
「ここは、ですか」
「放っておいて」
「そして、ですか」
「ここは去り、ですか」
「休むべきですか」
「そうしようぞ」
これが幸村の考えだった。
「あの御仁と話してな」
「そして、ですか」
「そのうえで、ですな」
「それで知ったうえで」
「その時んい決めるのですか」
「そうじゃ、そうすべきじゃ」
十勇士達に言うことは変わらなかった。
「まだな」
「斬るべきではない」
「討つべき時ではない」
「では休み」
「明日の戦に備えるべきですか」
「そしてその時はじゃ」
松永を討つその時はというと。
「わしが一人でやる」
「殿がですか」
「殿がお一人で、ですか」
「松永殿を討たれるのですか」
「そうされますか」
「そうじゃ、だからじゃ」
それで、というのだ。
「御主達はな」
「特に、ですか」
「手を出すことはない」
「我等は」
「殿がされますか」
「正面からな」
幸村らしい言葉だった。
「だからじゃ、よい」
「ううむ、殿ご自身で」
「そうされますか」
「やはり殿は正々堂々とされていますな」
「常に」
「策も必要じゃ」
幸村もそれはわかっているのだ。
だがそれと共にだ、こうも言うのだ。
「しかし不意打ち闇討ちはな」
「出来る限りはですな」
「せぬ」
「それが殿ですな」
「それ故に」
「うむ、せぬ」
十勇士達に告げた言葉だ。
「断じてな」
「わかりました、では」
「ここは休み」
「そしてそのうえで」
「明日ですな」
「明日の戦に備えるのですな」
「そうじゃ」
まさにその通りだというのだ。
「ではよいな」
「はい、わかりました」
「それではです」
「我等今はです」
「ゆっくりと休み」
「そうしてですな」
「次の戦に」
上杉とのだ。
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