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戦国異伝

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第百九十九話 川中島での対峙その九

「その首落とせます」
「我等十人全てがいれば」
「一人ならいざ知らず」
「十人が一度にかかれば」
「いや、待て」
 だがだった、ここで幸村は十勇士達を制止した。
「何か様子かおかしい」
「おかしい?」
「おかしいとは」
「確かに並の御仁とは気配が違う」
 それは確かに感じる、紛れもなく。
 しかしだ、それでもだというのだ。
「妖気は感じぬ」
「妖気をですか」
「それを」
「うむ、感じぬ」
 そうだというのだ。
「邪な類はな」
「隠しておるのです」
 すぐにだ、猿飛はこう言った。
「蠍のその毒針を」
「御主はそう思うか」
「はい、何しろ相手が相手です」
 天下にその悪名を馳せた者だからだというのだ。
「何時何をしようともです」
「おかしくはないというのじゃな」
「そうです、幸い今あの御仁は一人です」
 まさにそうだった、周りには誰もいない。松永も織田家の主な将の一人だが今は周りに誰もいなかった。
 それでだ、ここでというのだ。
「消して骸を何処かに捨てれば済みます」
「何、あの者は織田家でも敵だらけです」
 海野も言う。
「ここで我等が消そうとも」
「だから待つのじゃ」
 やはりだった、幸村はここは十勇士達を制するのだった。
「それはな」
「あの者の首を討つこと」
「そのことを」
「そうじゃ、今のあの御仁には妖しいものも邪なものも感じぬ」
 そういったものは一切、というのだ。
「よく見るべきじゃ」
「しかし公方様を弑逆した者ですぞ」
「主家の三好家も脅かしましたし」
「大仏殿も焼きましたし」
「そうしたことを考えますと」
 どうしてもというのだ、十勇士達も。
「あの者を討ちましょう」
「ここで憂いを絶っておくべきです」
「何としても」
「だから待つのじゃ」
 松永を攻めることはというのだ。
「とりあえずはな」
「ここで討たぬと」
「左様ですか」
「あの御仁を」
「今は、ですな」
「うむ、それにじゃ」
 さらに言う幸村だった。
「わし等はあの御仁を知っておるか」
「松永殿をですか」
「あの御仁を」
「そうじゃ、知っておるか」
 こうも問うのだった。
「あの御仁と話したことはあるか」
「いえ、それは」
「そう言われますと」
「我等も松永殿とは」
「一度も」
 十勇士の誰もが言うのだった。
「ありませぬ」
「あの御仁と話したことは」
「織田家に入って日が浅いですし」
「関わわぬ様にしてきましたので」
「ですからそれは」
「そう言われますと」
 これが彼等の返事だった。 
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