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戦国異伝

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第百九十九話 川中島での対峙その十一

「では」
「寝ましょうぞ」
「明日は大きな戦になる」
 それは避けられないというのだ。
「ではな」
「ゆっくりと寝ましょうぞ」
「たっぷりと」
「そして明日の戦は」
「勝ちましょうぞ」
 絶対にというのだ。
「是非」
「そして天下を」
「天下を泰平に」
「ようやく長きに渡った戦が終わるのじゃな」
 幸村の言葉には感慨もあった。
「戦国の世が」
「ですな、まことに」
「応仁の時より長く続きましたが」
「間もなくです」
「終わります」
「よいことじゃ、どの者も戦に怯えずに和やかに暮らせる」
 そのことが、というのだ。幸村は今の言葉にも感慨を込めて言う。
「平安楽土がな」
「来ますな」
「それが楽しみじゃ」
 こうも話してだ、そしてだった。
 幸村はその場を後にした、十勇士達もまた。彼等は松永を見ているだけだった。それで松永の方はどうかとは気付いていなかった。
 見れば松永のところには影が二つあった、一つは彼のもの。そしてもう一つは彼とは逆に場所にありゆらゆらと動いていた。
 そのゆらゆらと動く影がだ、彼に問うた。
「あの者がじゃな」
「はい、真田幸村殿です」
 松永はその影に穏やかな声で答えた。
「武田家きっての武者であった」
「天下一の武者だそうだな」
「智勇兼備、政にも秀で仁愛の心も篤い」
「まさに誠の武者か」
「やはり天下一と言っていいかと」
 こう影に話すのだった。
「あの御仁は」
「よいのか」
 影は咎める声で松永にまた言った。
「あの者を放っておいて」
「と、いいますと」
「あの者を放っておいてよいのか」
 再び松永に言うのだった。
「我等の為に」
「長老は真田殿を恐れておいでなのでしょうか」
「織田信長とも武田信玄とも違う」
 天下を治められる彼等とはだ、幸村はまた別のものを持っているというのだ。
「上杉謙信ともな」
「ですな、あの御仁は天下を求めてはいませぬ」
「天下人への野心はない」
「領地や金銭、財宝への野心もですな」
「ないのう、権勢にもな」
「かといって無欲ではありませぬ」
「実に貪欲な男じゃ」
 幸村をこう表するのだった。
「武士の道を歩みその果てを目指しておる」
「天下一の武者からさらに」
「天下人よりも大きな野心かもな」
「変わった方ではありませぬな」
「全くじゃ、そしてあ奴の光もまた」
 それも、というのだ。
「強いのう」
「だからですか」
「我等の邪魔とは思わぬか」
 松永に直接問うた言葉だった、この言葉は。
「そう思わぬか」
「さて、そこまでは」
「とぼけるつもりか」
「ははは、そうではありませんが」
 それでもとだ、松永は影に笑って返した。 
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