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ヴォルデモート卿の相棒

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魔法薬の先生

 
前書き
お気に入りが6人に増えてた……!
今だからこそ告白しますが、1巻が終了するまでにお気に入りが5人以上にならなければ打ち切るという自分ルールを設けてました。 

 
シェーマス・フィネガンの起床は比較的早い。
これは幼い頃から厳格な母親の教育を受けていた賜物である。
彼は片方の手で黄土色の髪をかきあげながらもう片方の目をこすると、既に起きていたクレスが両の手の平と頭の上に、見るからに重そうな鉄の塊を乗せて瞑想しているのが視界に入る。

「何やってんだクレスレイ!?」
「あん? ようシェーマス、起きたか。あとクレスでいいぜ」
「ああわかったクレス……じゃなくて! まだ6時だぜ!?」
「見りゃわかるだろ。自己鍛練だ」

そう言ってクレスは鉄塊を降ろし、収縮呪文をかけてからトランクに閉まった。

「……自己鍛練、ねぇ……なんていうか君、魔法使いらしくないな、筋トレって……」
「まあそれも欠かさずやっているがな。結局最後にものをいうのは身体だし。だがあれは別に筋肉で持ち上げてたわけじゃねえよ」
「へ? どういうこと?」
「その内教えてやるよ。さて、そろそろランニングの時間だ」

クレスは小太刀を脇に差しローブに着替え、1キロの重りが入ったリストバンドを両手両足に巻くと、部屋から出ていった。








「しっかしハリー、随分と大人気じゃねえか」
「笑いごとじゃないよクレス……」

ハリーが寮を出ると、どこへ行ってもあらゆる生徒の注目がハリー達三人、具体的にはハリーに集まった。
どうやら『生き残った男の子』のネームバリューはハリーが考えていた以上に大きいらしい。

ホグワーツの構造は生徒泣かせの複雑なものであったが、クレスがルート探知呪文という目的地を探知する魔法を使えたため迷うことは無かった(真ん中あたで一段消えてしまう階段には三人仲良く引っ掛かったが)。
たまに出くわすポルターガイストのピープズは何故か手で触れることができるクレスが毎回追い払っていた。
他にも校内にはミセス・ノリスという猫が徘徊している。この猫は管理人のアーガス・フィルチの飼い猫で、彼女の前で規則を破ればすぐさまフィルチがやって来て生徒に罰則を課す。そのためホグワーツのほぼ全ての生徒から蛇蝎のごとく嫌われているのだが、アレクにはごく自然に懐いており、そのことは教師を含むありとあらゆる人間を戦慄させた。

授業に関しては、ついていけるか不安だったハリーを、皆も大体似たり寄ったりであると安心させた。
『天文学』では毎週水曜の真夜中に望遠鏡を観察し、星の名前や惑星の動きを、『薬草学』では城の裏にある温室に行き、不思議な植物やきのこの育て方、どんな用途に使われるのかなどを勉強した。
『魔法史』の授業は、唯一のゴースト教師・ピンズ先生の教え方が非常に単調で退屈なものであったので、第一回目の講義の時点でハーマイオニー以外のグリフィンドール生が睡魔に敗北してしまう事態に陥った(特にクレスは開始5分でドロップアウトしていた。)
『妖精の魔法』の担当教師はフリットウィックという非常に小柄な魔法使いである。最初の授業で出席を取っていた時、ハリーの名前までくると興奮のあまり教卓から転んでしまった。意外とミーハーな先生なのかもしれない。
『変身術』の授業は、生徒全員が着席するのを確認してから、教科担当のマクゴナガル先生がお説教を始めた。

「変身術は、ホグワーツで学ぶ魔法の中で最も複雑で危険なものの一つです。いい加減な態度で私の授業を受けるようならば出て行ってもらいますし、二度とクラスに入れません。初めから警告しておきます」

その後、さんざん複雑なノートを採り(クレスだけはかなり簡略化していたが)、一人一人にマッチ棒が配られ、それを針に変える練習が始まった。しかし授業が終わるまでにマッチ棒を針に変えられたのは結局ハーマイオニーとクレスだけだった(このときハーマイオニーは、針の完成度がクレスよりわずかに劣ってたと思ったため、クレスに対して悔しそうな顔で睨んでいたがクレスは無視した)。
マクゴナガル先生は二人の針について褒め称えた後、二人に向かってめったに見せないほほえみを見せた。
しかしその後クレスに「ぶっちゃけ似合わないっす」との酷評を受け、割と傷ついた表情でクレスをグーでしばくことになった。
『闇の魔術に対する防衛術』は生徒の誰もが楽しみにしていた教科だったが、教科担当のクィレル先生の余りのがっかり授業とやたらにんにく臭い教室のせいで誰もが肩透かしを食らった。ルーマニアで吸血鬼に襲われて以来トラウマになったらしい。

「今日は何の授業だっけ?」

オートミールに砂糖をかけながら、ハリーはロンに尋ねた。

「スリザリンの連中と一緒に、魔法薬学さ。スネイプはスリザリンの寮監で、いつもスリザリンを贔屓するらしいよ」とロンが答えた。

「マクゴナガル先生が僕達を贔屓してくれたらいいのに」
「天地がひっくり返っても有り得ねえよ」

ハリーの淡い希望をクレスがすぐさま一蹴した。
ちょうどその時郵便が届いた。
正直、食事中に何百羽のふくろうがテーブルに集まるのはいかがなものか。
クレスがルーチェから届いた手紙に目を通していると、ハリーのふくろう・ヘドウィグが初めてハリーに手紙を運んできた。ハリーが慌てて中身を確認すると、この後小屋で会おうという内容だった。ハリーは嬉々としてヘドウィグに返信の手紙を持たせた。

担当教諭のスネイプがスリザリンの寮監だけあって、教室もスリザリン寮に近い地下牢で行われた。
部屋の中ではすでにスネイプが教卓に立っており、生徒が揃ったのを確認すると出席を取り始める。
ハリーの前まで来たところで一度声が止まり、そして嫌に猫なで声で話した。

「ああ、左様。ハリー・ポッター。我らが新しい……スターだね」
(うわぁ、なんちゅう露骨な皮肉……)

クレスが呆れる中、ドラコ・マルフォイを筆頭としたスリザリン生の多くがクスクスと冷やかし笑いをした。
その後出席を取り終えたスネイプは生徒を見渡し、己が受け持つ授業について語り始めた。

「このクラスでは魔法薬調剤の緻密な科学と、繊細な芸術を教える。杖を振り回すようなバカげたことはやらん。よって、これでも魔法かと思う諸君が多いかもしれん。フツフツと沸く大釜、ゆらゆらと立ち昇る湯気、人の血管の中をはいめぐる液体の絶妙な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえふたをする方法である。ただし、我輩がこれまでに教えてきたウスノロたちより諸君がまだましであればの話だが」
(へえ……魔法薬学の落とし穴を遠回しに説明してるな。やや不親切だが思ったよりまともな教師らしい)

クラス中がシーンとする(ハーマイオニーだけは自分がウスノロではないと証明したくてウズウズしていた)中、クレスはハリーとロンがやや嫌そうに眉根をつり上げて互いに目配せしている傍ら、スネイプに対する評価を上方修正した。

「ポッター! アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」
(うわっ……なんつー意地悪問題……あー、やっぱりわからねえか)

クレスは完全にお手上げといった表情をしているハリー(ロンも同じく)に同情した。

「わかりません」
「チッ、チッ、チッ。有名なだけではどうにもならんらしい」
(うっれしそうな顔……)

スネイプはハリーのギブアップ宣言に非常に満足した表情でせせら笑った。ちなみにハーマイオニーは手を挙げていたが無視された。

「ポッター、もう一つ聞こう。ベゾアール石を見つけてこいといわれたら、どこを探すかね?」
(今度も嫌がらせみたいな問題……。ハリーは…お手上げか……)
「わかりません」
「クラスに来る前に教科書を開いて見ようとは思わなかったわけだな、ポッター、え?」

ハリーは完全に自分をバカにしているスネイプを不服そうに睨んだ。どうやらある程度目を通していたようだ。ハーマイオニーの挙げた手は当然のごとくスルーされた。

「ポッター、モンクスフードとウルフスベーンとの違いはなんだね?」
(今度は引っかけか……うん、わかってた……)
「わかりません。ハーマイオニーがわかっていると思いますから、彼女に質問してみたらどうでしょう?」

ハリーは落ち着いた口調でハーマイオニーを無視している事を指摘する。グリフィンドール生数名が笑い声を上げたがスネイプは不快そうな表情になった。

「教えてやろう、ポッター。アスフォデルとニガヨモギを合わせると、眠り薬となる。あまりに強力なため、『生ける屍の水薬』と言われている。ベゾアール石は山羊の胃から取り出す石で、たいていの薬に対する解毒剤となる。モンクスフードとウルフスベーンは同じ植物で、別名をアコナイトとも言うが、とりかぶとのことだ。どうだ? 諸君、なぜ今のを全部ノートに書きとらんのだ?」

生徒はいっせいに羽ペンで羊皮紙にメモを取り始めた(既に知っていたクレスはやはり簡略化してメモったが)。

「ポッター、君の無礼な態度で、グリフィンドールは一点減点」

その後スネイプは生徒を二人一組にして、おできを治す簡単な薬を調合させた。ハリーはロンと、マルフォイはジークと、クレスはハーマイオニーと組まされた。そのときハーマイオニーはクレスにしかめっ面をしていたがクレスはスルーした。
ジークとクレスの作業の手際の良さは他の生徒と一線を画していた。干しイラクサの計測、蛇の牙を砕く、角ナメクジを茹でる、どの作業もスムーズにこなした。
その様子を見ていたハーマイオニーがクレスに話しかける。

「……随分手慣れてるわね」
「あ? そりゃ魔法薬は手際が肝心だからな。お前は気をつけたほうがいいかもな」
「どういうことよ?」
「さっき先生も言ってたろ? 緻密な科学と繊細な芸術だって。この科目はお前みたいにただ教科書を隅から隅まで暗記しているだけじゃダメなんだよ」
「……っ!? 私がウスノロだとでも言いたいわけ!?」

クレスは喧嘩をふっかけたつもりなどこれっぽっちもないのだが、癪に障ったハーマイオニーがテーブルを叩いて怒鳴り散らす。よほど腹が立っているようだ、自分がどういう状況にいるか頭から吹っ飛んでしまっている。

「いい度胸だな、グレンジャー」
「え?………あっ……」

スネイプの底冷えするような声を聞き、ハーマイオニーは即座に状況を把握し青ざめる。

「グリフィンドール五点減点。それと今の君の発言についてだが…気の毒だが君はウスノロだと判断せざるを得ないようだ」

ハーマイオニーはその後恨みがましい視線をクレスに送っていたが、クレスは気にも留めず作業を進めた。スネイプは長いマントを翻しながら、生徒達の様子を見て回っていた。その際、完璧に調合していたクレス達とジーク達以外全員が注意を受けた。
生徒が作業を進める中、突然地下牢いっぱいに強烈な煙が上がり、シューシューと大きな音が広がった。ネビル作の薬が大鍋を爆発させ、床をつたって教室中に広まった。生徒達は椅子の上に避難して事なきを得たが、間近にいたネビルは薬をモロにかぶってしまい、身体中からおできが噴出しうめき声を上げていた。

「バカ者! おおかた、大鍋を火から降ろさないうちに、山嵐の針を入れたな?」

スネイプが怒鳴り、こぼれた薬を魔法で取り除いた。
ネビルはおできが鼻にまで 広がってきて、シクシク泣き出した。

「医務室へ連れていきなさい」

苦々しげにシェーマスに言いつけた後、ネビルの隣で作業をしていたハリー達に矛先を向けた。

「君、ポッター、針を入れてはいけないとなぜ言わなかった? 彼が間違えば、自分の方がよく見えると考えたな? グリフィンドール一点減点」
(うわぁ、すげー言いがかり……よほどハリーが嫌いらしい)

ハリー達の方を見ると、言い返そうとしているハリーをロンが小突いて止めていた。
ハーマイオニーは友人である(ここ重要!byハーマイオニー)ネビルの身を案じていた。

その後薬は完成したが、完璧に調合できたのはクレス達とジーク達だけであった。

「…………………………」

スネイプは何か考え事をしていたのかしばらく無言だったが、

「グリフィンドールとスリザリン、それぞれに五点」

そっけなくそう言った後、生徒達を解散させた。








地下牢の階段を上がりながら、ハリーはグリフィンドールの点を減らしてしまったことで落ち込んでいた。

「まあ気にすんな。たかが二点だ」
「そうだよ。フレッド達もスネイプしょっちゅう減点されてるんだ」

クレスとロンはそんなハリーを励まし、ハリーもいくらか調子を取り戻したようだ。

「でもどうしてスネイプはグリフィンドールに加点したんだろう? 兄さん達に聞いた話じゃ、そんなこと一度もな無かったらしいよ」
「さあな」
「クレスにもわからないか……。ところでハリー、僕達もハグリットに会いに行っていい?」

その問いにハリーは快く了承した。













 
 

 
後書き
クレスに対して、スネイプ先生は何か思うところがあったようです。

ハーマイオニーとの仲は日に日に悪化している……大丈夫かクレス?
 
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