ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~
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ワールド・カタストロフ~クロスクエスト~
Round《7》~デットリィ・ワールド・デッドエンド~
前書き
今回も色々とひどいです。鬼畜描写、R-15入りまーす。
なお、選手たちはお互いの試合を見れないため、誰が勝ち残ったのか以外の情報を知りません。つまりここに居るプレイヤー達はジンの能力の詳細を知りません。
《純白の英雄》リンの敗北は、観客たちに凄まじい戦慄を覚えさせた。彼は全世界のSAOプレイヤーの中でも最強クラスの存在だ。それと苦も無く倒してしまった、『ステータスを奪い取る』力を持ったプレイヤー、ジン。
本来であればコピー不可能である技能ですら、『この技能を習得したのは自分である』と改変させることで、使用はできずとも…できるのかもしれないが…奪い取ってしまう。文字通り、彼と敵対したプレイヤーは、自分を構成するステータス全てを奪われてしまうのだ。
そんな騒乱の中で、準決勝の組み合わせが発表された。
第一試合、《蒼藍の剣閃》シャオンVS《英雄》ジン。
第二試合、《聖女》クロエVS《光と闇の皇子》タツ。
集ったのは一騎当千のツワモノたち。その誰もが、敵対者を討てる可能性を秘めている。
誰が勝ち残るのか。観客たちが見守る中――――
今、準決勝の幕が上がる。
***
――――ついにここまで来たぜ。
シャオンは内心でガッツポーズを取っていた。トリッキーな薬師を下した一回戦。幸運少年を下した二回戦。次はあの《月の剣士》と同じ名前のプレイヤーだが、彼を倒せばいよいよその先は決勝。そこでも勝てば優勝だ。
焦りは禁物だ。だが高鳴る興奮を抑えることは難しい。
――――ここまで来たんだから、いい結果を残したいなー……。
「よっし! トップスピードで振り切るぜ!」
シャオンが己の頬を叩いて気合いを入れるのとほぼ同時に。
『プレイヤーネーム《シャオン》VS《ジン》を開始いたします――――』
「よっしゃぁ、《ソードユニゾン》!」
控室にアナウンスが入る。転移光が輝く。その中に勢いよく飛び込んだシャオンは、コロシアムのゲート付近に出現した。
フィールドへと入場すると、ほぼ同時に反対側のゲートからもやってくる人影。
薄銀色の髪と、赤と青のオッドアイ。青っぽい服装に、腰には三本の剣を挿している。
と、そこでシャオンは、その三本の剣のうち、一本に見覚えがあることに気が付いた。青色の空のようなその刀は――――《月の剣士》のほうのジンの武器だ。
「お前……! その、青い刀は……ッ!」
戦慄と共にシャオンがうめく。それに気が付いたのか、対戦相手――――『ジン』はにやり、と笑って、腰の刀をたたいた。
「ん? ああ、この刀か? 一回戦の相手にいただいたのさ。いい剣だな。軽いし、プライオリティが高い。あいつなんかにはもったいない剣だ」
「……あいつなんか、だと……ッ!?」
シャオンは《月の剣士》ジンと面識がある。フローラとの新婚旅行の時に異世界めぐりをしたことがあるため、その先として《月の剣士》の世界に滞在した時、デュエルしたことがあるのだ。
強かった。レベル的にはまだあの世界のSAOの攻略が進んでいなかったこともあって大きな開きがあったものの、並ぶものはないと言われたシャオンのスピードに追い付いてみせた。
シャオンは、仲間や友人を冒涜されることが大嫌いだ。あの戦いで確かに芽生えた《月の剣士》との友情を糧に。
「決めた。お前絶対ぶっ飛ばす」
「やってみな。逆にぶっ飛ばしてやんよ」
ニタリ、と嗤う『ジン』。
先ほどまでの興奮はどこへ行ったのか。冷徹な感情が自分を支配していく事を感じながら、シャオンは二本の剣を構える。六本の剣を《ソードユニゾン》して作り上げた最高の二刀で、かの者を打倒すのだ、と決意して。
対する『ジン』は、ジンの刀と、もう一本……どこかで見たことのある気がする白い剣…シャオンは与り知らぬことであるが、それはリンの《ソード・オブ・ヒーロー》である…を構えた。相手も二刀流だ。
「お前も《二刀流》スキルの使い手なのか!?」
「さぁて、どうだろうな」
ニタニタ嗤いを鎮めない『ジン』。相手の情報が少なすぎて、何を使うのかが想像できない。
もしここでシャオンが、ジンに対する情報を持っていたのであれば――――彼が二刀流を行うのは、リンから奪い取った《英雄剣》を始めとする、複数の二刀装備可能スキルの効果であると分かっただろう。シャオンがそれを知らずとも、もし観客席と連絡を取る方法があったのであればそれでも可能だ。
だが、システム上観客席と連絡を取ることはできない。故にシャオンは、観客席で悲鳴を上げるフローラと連絡を取り合うこともできない。
【デュエル!!】
しかし戦いは開幕する。閃光が奔ると同時に、シャオンは己の根源をなすスキルを起動させた。
「《SEED Mode―ExtremeAccel》!!!」
シャオンの瞳が青く輝く。みなぎる全能感。ステータスが一気に向上しているのだ。特にシャオンの象徴ともいえる、その圧倒的な敏捷値が、より高く。より速く。
「トップスピードで……振り切るぜ!!」
バァン!! 大気が破裂する音がした。
シャオンのスピードは、このデュエル大会の中では最高速度に達していた、と言っても過言ではないだろう。出だしでそれである。どんどん加速していくため、その速さは異常と言って差し支えないだろう。
繰り出すのは《連二刀流》上位ソードスキル、《ルナティック・スターブラスト》35連撃。神速の斬撃達が、月光の如く降り注ぎ、敵を圧倒する剣技だ。
しかしジンは、それを見ているにもかかわらず微動だにしない。否、もはや姿が掻き消えるまでとなったシャオンを、見つけられていないのか。
そしてさらに加速したシャオンが、ジンに斬りかかって――――
ガキィン! という鈍い音と共に、止められた。
剣が、つかまれているのだ。その手で。純白に深紅の十字が描かれたガントレットが嵌められた、その手で。
シャオンは知らないが、リンから奪い取った《破皇拳》で生み出されたガントレットだ。素体となっているのは、かつてジンがヒースクリフから奪い取った《神聖剣》、その専用装備である一対の十字剣と十字盾《解放者》。
「な、に……ッ!?」
「おせぇぞ。その程度か? 欠伸が出るな」
シャオンの視界が、怒りで赤く染まり始める。《神速剣》に搭載されたエクストラ効果、《感情フィードバックシステム》が起動し、シャオンの攻撃力と敏捷値が桁外れに増加していく。それだけ、『遅い』と言われたシャオンが怒っている、という事なのだが。
「おらよ」
「ぐあっ!」
ブンッ! という音と共に、シャオンの身体が投げられる。常軌を逸した筋力値が生み出すスピードで、シャオンはコロシアムの、先ほどまでいたところから真反対の場所まで吹っ飛ばされた。
「ぐぅ……」
「どうだ? Lv87594の筋力値が生み出す破壊力は」
「レベル……はちまん、ななせん……!?」
あり得ない。
SAOでは、経験値を得てレベルが上がるほどに、次のレベルに上がるための必要経験値が増えていくだけでなく、獲得できる経験値も減っていくのだ。相対的にどんどんレベルを上げることは難しくなり、理論上の限界は250であると言われている。
故に、どれだけあがいても、一万を超えることなど絶対に不可能であるのだ。一体どのような手を使えば、そのようなステータスになるのか。
「大変だったんだぜ、ここまで上げるの。百二十七個の世界でヒースクリフのおっさんを殺し、あいつからレベルと《神聖剣》を奪い続けたが、一向にレベルが上がらねぇ。あいつのレベルは150だから、せいぜい2000程度しか上がらねぇのさ。おっさんをいちいちワンパンするのも飽きてきたから、次はもっと別の世界に行ってみたんだが……いいのがいてなぁ」
ニタリ、と、怖気の走る笑みを浮かべるジン。あれは……ALOの、妖精王オベイロンと同じような顔だ。
「どこのSAOだったかな……キャサリン、っつーのがいてな。レベルはまぁ120位でそんなんでもなかったんだが、スキルの量が多くてな。スタイルは悪かったが顔は悪くなかった。何よりおっさんの恋人だったみたいでよ、アイツを犯して殺してスキルを奪ってやったら、おっさん泣き叫んで斬りかかって来るんだぜ。単純にワンパンするよりも楽しくて楽しくて。
ほかにも色々だなー。その世界では最強とか呼ばれてる雑魚みたいなプレイヤーを殺して、そいつの目の前で女を犯して殺してやる。するとあいつら、面白いほど発狂してくるんだぜ」
「お前……ッ」
ぎゃははは、と、ジンは高笑いを上げる。それを聞いて、シャオンは歯噛みした。その数々の世界の『主人公』たちはどんな思いだったのか。信じていたはずの物を奪われ、汚され、滅んでいく。どれだけ口惜しかったことか。
「一番おもしろかったのは何処だったかなぁ。確か真黒い鎧と大剣を以てる奴の世界だったか。女があいつにゃもったいないくらい美人でな。確か分岐めぐって一人連れて帰った気がするんだが……まぁいいや。その時のスキル、見せてやるよ。いつまでも長話してると、お前に復活されちまいそうだからな」
と、そこで。
ジンの顔が、少々冷静に戻った。シャオンが立ち上がりかけていることに気が付いたのだ。シャオンのスキルには、《戦闘回復》の回復力を大幅に助長するものがある。それのおかげで、もうHPは全快に近い。
だが、ジンはシャオンが完全に体制を整えるのを待ってはくれない。彼の背中に、一本の剣が出現する。それは禍々しい、漆黒の剣。その中に封じ込められているのは悲鳴。
「エクストラアイテム《災禍の鎧》と、ユニークスキル《抹殺剣》の使い手。名前は忘れたが、スキルは有用でレベルは高かった。確か400だったかな? それに《災禍の鎧》も、しかるべき人間が使えば強くてなぁ。精神干渉とかしてくるんだが、俺には《仙者の心得》と《魂無き者》があるから精神干渉は効かないしな。唯のお手軽強化アイテムだぜ……喰らえよ、《抹殺剣》最上位ソードスキル、《デッドエンド》だ」
抜き放たれた漆黒の大剣が、鮮血のエフェクトライトを纏って振り下ろされる。シャオンは全力でその攻撃を避けると、その余波で立ち上がって一気にその場から離れた。
そして見たのだ。
「なっ……」
大地がかち割れ、悲鳴を上げる姿を。
「ちっ、避けやがったか……ヒットすりゃぁイモータルオブジェクトでも破壊できるんだけどなぁ……」
忌々しげに舌打ちをするジン。戦慄を覚えながらも、シャオンはその二刀を強く握りしめて。
「やらせるかよ……振り切らせてもらうぜ!」
駆け出す。もはや神速すら超えた、超神速の域で。
「――――果てしなき加速を続け……今ここに、全てを超えて――――トップスピードで振り切るぜ!!」
繰り出すのは、シャオンが持つ最強のソードスキル。名は――――
「――――《ギャラクシーバースト・オーバードライブ》!!」
連撃数、475。HPを犠牲にするが、発動中はAGI+100強敵相手にしか決して使わないと決めていたその剣技を、今ここで使用する。
「……!」
ジンが瞠目する。シャオンの剣は、ジンが回避する間もなくヒットを開始する。一度当たれば、あとは終了時まで続くその斬撃の嵐は――――
「……なんだ、速いだけか?」
「!?」
ジンのHPを、全くと言っていいほど削っていなかった。
「どこだったかな。確か緑色の双剣を使う奴が主役張ってる世界で、《完全速攻治癒》っつースキルを持ってる女がいてなぁ。なかなかタノシメル奴だったんだが……ともかく、そいつから奪ったスキルだよ。対象のHPを永続的にMAXに保とうとするスキルだ。ちなみに自分以外にも使えるんだぜ。そいつは回復魔法みたいに撃ってたかな……」
それはつまり。
いつまでたっても、ジンのHPは減らせないという事で。
「ふーん、そのスキル、出し終わったら硬直するのか……詰まんねぇな。途中で終わらせてやらぁ。《スキルキャンセル》」
いつの間にか、両目を輝かせているジン。恐らく、《月の剣士》から奪った《千里眼》。
パチン、とジンが指を鳴らすと、シャオンの《ギャラクシーバースト・オーバードライブ》が解除される。否……『そもそも出さなかったことに』されたのだ。
「この……ッ」
「まぁいいや。そろそろ終わりにしようぜ」
そうしてジンが片手をあげ――――
「カーディナル」
哭を、呼ぶ。
『了解』
どこからか聞こえてきた、幼い少女の声。それと同時に、シャオンの足元に黒いナニカが集い始める。
「……!」
本能的な危険察知能力に突き動かされて、シャオンは全力でその漆黒を振り払う。あれにつかまったら――――終わりだ。
「おう? 逃げるのか……すげぇな、システムを振り切るスピード……ますます、『欲しくなった』」
そして。
気が付いたその時には、フィールド全体が漆黒のナニカに覆われていた。
「終わりだ。お前のステータス、いただくぜ」
バゴォン! という音が鳴り響き、シャオンの身体を漆黒の波動が包み込む。
「ぐあぁぁあああっ!?」
それはシャオンの中から、何か力を吸い取っていく。ジンの言葉を信じるならば、ステータスを。
最後には、シャオンは極限まで軽くなっているはずの装備の重量ですら立ち上がれないほどに弱体化していた。《ソードユニゾン》が奪われたせいだろうか。二刀は、元の六本の剣に戻ってしまっていた。
宙を見て、歓喜の表情で頷くジン。
「よしよし、首尾は上々だな……おお、AGIが+2200もされてる。こりゃぁいい……STRばっかり上がって鈍足気味になってたんだ。ユニークスキルの方は《SEED》、《神速剣》、《連二刀流》、か……ん?」
そこで、ジンは顔をゆがめた。そして勢いよくシャオンの方を振り向くと、その首をつかんで宙づりにする。
「ぐぁっ……」
「お前……どうやってスキルを保護した……!?」
「何の、ことだ……!?」
「とぼけるな! お前の《神速剣》……奪え切れていないぞ!? 《ソードユニゾン》のmodだけだ……! どういうことだ。専用スキルだって奪えるのに!」
理不尽、ともいえる八つ当たりをするジン。
シャオンには《神速剣》が奪われなかった理由が想像できた。恐らくだが、《感情フィードバックシステム》が奪取や無効化に対する完全耐性を備えているが故に、奴の能力でも奪い切れないのだ。
ある意味で、一矢報いてやった、と言えるだろう。
だから。
「教えるわけ、ないだろ……!」
「テメェ……ッ! ……もういい、死ね」
そう言って。
ジンは、その技能を使う。
「《ソードユニゾン》……《ホープライトクリエイター》《フリーズマインドセイバー》《ソード・オブ・ヒーロー》。さらに《スノーホワイト・エボリューション》《スター・キャスター》《蒼天~メモリアル~》をユニゾン!!」
禍々しいエフェクトライトと共に、ジンの手に握られた六本の剣が融合していく。
誕生したのは、無感情に、全てを凍り付かせるが如き英雄の剣と、空すら破壊する無化の剣。
「喰らえ……《ヒーロー・ゴッデボリューション》」
全てを無に帰す、破壊の嵐が舞い降りて。
シャオンのHPを、一瞬で削りきった。
【Fast―Battle:Winner is Zinn!!】
――――フローラ……ごめん……。
後書き
AGIを何回かAGOと打ち間違えた。アゴ+100て……どこの社長か御門だしww
刹「……」
というワケで今回も、開幕から全力土下座でお送りしています。
刹「本当にあなたと言う人は……ッ! 一体どれだけ無礼を働けば気が済むというのですか……ッ!」
今回の題材は『理不尽』だから……敵が異常に強いのはその象徴……とか言いたいんですが結局のところこのキャラを考えついた一か月前の俺とそれを実行しちゃう今の俺が外道なだけですごめんなさい!! あと《ギャラクシーバースト・オーバードライブ》の口上も調子のってまた変えちゃいましたごめんなさい!
総合してKZMさん本当にすいませんでしたぁぁぁぁぁぁッ!!
今回は《英雄剣》大活躍回でした。シャオン君の《神速剣》が奪われなかったのは、どうしても彼に一矢報いさせたかったという願望。ジンにとって、スキルを奪えない、というのは人生で一度もなかったことなので、ものすごいショックなことなんですね。ブチ切れたのはそのせい。シャオン君つえぇという事です。
刹「今回の敵をこのデュエル大会にぶち込まなければ、間違いなく優勝候補だったであろうものを……それを、貴方と言う作者は……ッ!」
ぎゃぁぁぁっごめんなさいぃぃぃぃっ!
ぜぇ、はぁ……とゆーわけで次回はクロエさんVSタツさんです。土日は基本PC構えない(このテキストを打っているのは金曜日)ので、更新は多分月曜日以降になります。
刹「それでは次回も、期待せずにお楽しみに」
なんかひどくなってる!?
*余談*
ヒースクリフのところで出てきた《キャサリン》っつープレイヤーは神代博士のことです。《ヒースクリフ》っていうのは『嵐ヶ丘』の登場人物の名前で、その対応ヒロインがキャサリン、っていう名前だったような、といううろ覚えの知識。合ってるならば、『キャサリン』で『神代凜子』だったりするのかな、と九里先生(川原先生)のネーミングセンスを賛美してみたり。
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