ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~
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ワールド・カタストロフ~クロスクエスト~
Round《6》~ストロンゲスト・カタストロフ~
前書き
やっぱりライトさんは面倒見のいい大人のイメージしか湧かない。
そして決勝に近づくにつれて対戦キャラが強すぎてすぐに試合が終わってしまう。
「どーした、機嫌悪そうな顔して」
第三試合の対戦相手。黄金に光り輝く稲妻を纏った、鎧の狩人――――ライトが、苦笑しながら問うてくる。それほど自分は、不機嫌そうな顔をしていただろうか。
タツは自分の口元を触りかけて、内心で首を振ってその手を下す。
「……別に。何でもありません」
口から出たのは、ライトの言うように不機嫌そうな声。なるほど、これでは機嫌が悪そうに見られるわけだ。
実際、タツは不機嫌であった。前回の試合を速攻で終わらせた故に、あの男から苦情の一つでも来るのかと思いきや、在ろうことか奴は使用者以外立ち入り禁止のはずの控室に姿を現し、
『面白い展開をどうもありがとう』
とだけ言って、嗤って去っていった。
負け惜しみだ、と考えられれば良かったのだが、あの男の纏っている雰囲気が本当に面白いと思っているのだ、と告げてきていた。
――――気に入らない。
《全知全能》はスキルでもあるが、その本質はタツの異能である。スキル封印空間でも一応軌道自体はできたので、それによって奴の情報をひたすら集め続けて見た。
結果として――――ヒットした情報は、恐ろしく少なかった。
名はアスリウ。
どこかの世界のSAOで、目撃されたことがある事。
《白亜宮》の《主》の触覚であること。
《契約者》である《確定存在》に全てを捧げていること。
彼はもうこの世界には存在しておらず、消滅自体が起こらない不死の存在であること。
どうしても倒したいのであれば、”世界の『外側』”にいる《【■■■】》を斃しに行く事――――
”世界の『外側』”、と言うのが何なのか。タツの能力でも知りえない、謎の用語が出現したことに、違和感を禁じ得なかった。そもそも、あのロストした単語は一体なんだったのか。存在するはずのない、『不明』な事柄。
――――君はあくまで被造物にすぎない。
――――忘れるな。僕もキミも、絶対に全知全能にはなれまい。
アスリウの言葉がタツの脳裏に反芻される。
己の存在を否定されたことが気に入らない。ならばお前はどうなのだ、と問い返したくも、奴自身は己も同じである、とその事実を許容している。
気に入らない。
気に入らない。
故に――――
「本気で行きますよ」
「おう。来いよ」
八つ当たりに近しい形で、
【デュエル!!】
戦闘が開始される。
「――――《絶対無効結界》」
単純にして究極のその名が、紡がれる。
あらゆる異能の発動を無効とする、消滅結界が出現する。この中では、タツだけがその権限を許され、それ以外の者は有象無象の塵と化す。
対処するためには、《無効化》という概念自体が効かない異能を保有するしかない。そしてライトの帯電能力は、それに分類される。
彼の――――【天城来人】という概念そのものに刻み込まれた、彼を構築する《設定》。それにはさしものタツも対処ができない。彼に概念への干渉は許されていないのだ。タツには異能をはく奪する異能も存在するが、この場合は対処ができない。
この空間内では、ライトはソードスキルも、何もかもが使え無い。彼は持ち前の筋力と、帯電の異能で戦うしかないのだ。
恐ろしいのは――――
「セイッ!!」
それでも、ライトが非常に強いことだ。
「……」
《創造》のスキルで生み出された翼をはためかせ、ライトのスラッシュアックスによる斬撃を回避するタツ。
同時に巨大なクローと大太刀を出現させ、光と闇の帯を伴って斬りかかる。瞬時にライトの武器が入れ替わった。ガンランスと、対応する大盾――――
「……『盾なんて存在しない』」
「ッ……」
《真実の言霊》が起動し、ガンランスの盾を消滅させる。雷光の力で高速移動するライト。しかし刃と帯は彼をしっかりと追撃する。
そして。
「武器がこれだけだと思ったらいけないですよ、ライト」
「何っ!?」
《創造》は、SAOに存在しないモノだって創り出せる。というか、この場所はSAOではない故に。
空を、無数の銃口が覆っている。ライトがどこに逃げても、その銃口から放たれる暴威は、彼を飲み込み撃墜するだろう。
だがそれはタツも同じである。異能ではない故に、無効化は不可能。であるからして――――
「『この攻撃、俺には効かない』――――照射開始」
真実を捏造し、そして銃撃を開始する。
瞬間。
輝きが、荒れ狂った。
「ぐああぁぁああぁぁああああっ!?」
ライトを飲み込んだ破壊の輝きは、しかしタツには何の効力も及ぼせずに消えていく。
光が治まったその時、立っていたのはタツ。膝をついていたのは、ボロボロになったライト。その差は歴然である。
タツのHPバーは今だ十全の状態を保っている。
対するライトのそれは、残すところあと二割ほど。
「……相変わらずの規格外だな、お前は」
「そうでなくてはならないですから。ほら、降参したらどうです?」
「バーカ。こっから逆転してみせらぁ」
にやり、と笑うライト。
しかしタツは。
《全知全能》の神は。
「いいえ。詰みです」
無情にも判決を下す。
「ぐぅッ……!?」
ドスドスドスッ! と音を立てて、ライトの体を、《創造》の帯が突き刺していく。
ライトが、驚愕の表情と共にうめく。
「こいつ……《光闇刃》じゃなかったのか……ッ!」
「ご明察。そして今更気付いても、もう遅い」
《光闇刃》の帯は、どちらかと言うと受け身系の権能を有した武器だ。しかしそれとよく似た外見をもつ、タツが新規に作り出したこの武器は、外見こそ似通っているものの、その正体はただの刃である。
そして、ライトのHPはあっけなく0となり。
「かー……不完全燃焼だぜ」
「それは残念でしたね」
無数のポリゴン片となって、爆散した。
【Third-Battle:Winner is Tatsu!!】
***
ところ変わって控室。セモンとの戦いが不完全燃焼であったリンは、今度こそと剣の素振りをしながら、次の戦闘を待っていた。
対戦相手は、あの《月の剣士》と同じ名前で、彼を破った『ジン』なるプレイヤー。その実力は未知数だ。どんなスキルを使うのか。どんな戦い方をするのか。
だが。
「ジンに勝ったくらいで、俺が負けると思うなよ」
ジンはタツに勝ったこともある猛者だが、リンも決して弱くはない。というかむしろ『異常に強い』部類に入るだろう。
準備は万端。いつでも勝てる。そんな状態で、リンは自分の番が回ってくるのを今か今かと待っていた。
すると、ぽーん、という音と共に視界端にウィンドウが開く。第三試合の勝敗が決したのだ。見れば、強敵《狩人》のライトをうち倒し、タツが準決勝へと駒を進めている。
「おっ、たっつんも勝ったか。へへっ、決勝で会うのが楽しみだぜ」
早くも勝った気でいるリン。普通ならばこれはただの死亡フラグだろう。
だが彼に至ってはそうとは限らない。何せ、リンはSAO最強のプレイヤー達の一人なのだから。
『それでは、第四試合、プレイヤーネーム《リン》VS《ジン》を開始いたします――――』
そしていよいよ、リンの出番がやってくる。
「さぁ、勝ちに行こうか!」
転移光に勢いよく飛びこむリン。
二度目となるコロシアムの雰囲気を味わいながら、リンはフィールドへと姿を現す。対戦相手はすでにそこにいた。にやにやと、薄気味悪い笑みを浮かべて。
ぞくり。
リンの背筋を、悪寒が駆け巡る。彼を以てしても、そう感じさせざるを得ない、不気味な笑い。
「おっせぇぞ」
「うるせー。お前が早すぎるんだよ。ジンって言ったっけ? せっかちは嫌われるぜ」
ジンの短い暴言に、リンも言い返す。機嫌を悪くしたのか、ジンは顔をしかめた。短気な奴だな、と、リンはジンについて内心でメモをする。
「はっ、口がよく回る奴だな」
「お前もな」
言い合いは止まらない。そして時間も止まらない。いつの間にかスタートしていたカウントダウンは、今、終着する。
【デュエル!!】
両者の間に、閃光が瞬いた。
「《紅緋眼》!!」
リンの瞳が赤く輝く。十の目にまつわる異能を操るこのスキル。まずは《目を隠す》能力で、敵の前から姿を消す。対象の目前に居ては効果が薄いので、もう一つのスキル、《光翼静翔》で瞬時に移動。光速を超えたスピードで、ジンの前から姿を消す。
これで、どれだけ索敵が高くても、リンの存在は見破れない。
「何っ!?」
ジンが驚愕で顔をゆがめる。いい気味だ。
――――さっさと決めさせてもらうぜ。
《翔翼神》スキルで、十対二十枚の翼を出現させる。その内、《チェーンビット》でジンの動きを封じて、《バレット・ビット》と《ビーム・ビット》でジンを滅多撃ちにする。
このコンボを受ければ、リンの勝利は決定したも同然である。少なくとも、今までどんな強敵もこのコンボを打ち破ることは不可能であった。
だから今回も、打ち破ることはできない。
事実、ジンはリンの攻撃を回避することも、そもそもリンを黙視することすらできていない。
だが。
リンは気が付いた。
ジンのHPが、恐ろしいことに一ドットたりとも減っていない、という事実に。
いや、減ってはいるのだ。ビットたちの銃撃が当たるたびに、ジンのHPはほんの0.1ドット程度ではあるが減っている。しかし、次の瞬間にはもう全快してしまっているのだ。塵を積もらせる間すらもなく。
「馬鹿な……!?」
リンのレベルは500を超えている。ビットの攻撃であるとはいえ、そこはレベル性MMOの性、レベルの低いプレイヤーはすぐに叩き潰される。
少なくともリンは、自分よりレベルの高いプレイヤーはタツ以外には見たことが無かった。
だから今も、多分銃撃耐性のスキルか何かを持っているのだろうと推察して、今度はソードビットやブロウビットで攻撃を仕掛けてみる。魔法も使ってみた。《英雄剣》の派生スキルで色々試してみたりもした。
しかし。
結果は無情にも同じ。ジンのHPは、全く減らない。
「どういうことだ……!?」
斬撃や打撃にも耐性があるのか。それでは、ビットによる攻撃はむしろ悪手。
しかしリンには……というより、彼のメインウェポンである《英雄剣》には、その状況を覆す最強のソードスキルが存在している。普段のリンは戦いを楽しむためにこの力を使わないが、しかし今は――――
「面白れぇッ!」
使うことこそが、面白いと確信した。
二本の剣を抜刀する。不可視となっているリンは、高速でジンへと近づき――――
ソードスキル、発動。《英雄剣》最上位ソードスキル、《ヒーロー・ゴッデボリューション》。連撃数無限。その内容は、『相手のHPがゼロになるまで、《英雄剣》のソードスキルを放ち続ける』というもの。
ジンに、不可避の敗北を与えるべく。
『最後には必ず勝利する』という、《主人公の法則》が発動する。
見えない暴威が、ジンを蝕み始め――――直後、リンは彼にしては珍しく、かつてない戦慄に身震いした。
「ようやく見つけたぞ、この真っ白野郎」
にたり、と、ジンの口元が笑みの形に歪む。その手が、見えるはずのないリンの首元へと延び、しっかりとつかんだ。
「ぐぁっ!?」
ソードスキルが中断される。《英雄剣》にスキルディレイなど最初から存在しないものの、100%という絶対の確立を無視された驚愕で、リンの反応も遅れる。
「なん、で……」
「便利だな、このスキル。発動までに一分もかかるし、制限時間もある。見えないものは『見えない』みたいだが――――《天狗眼》と《限界突破》があれば、そんなのも関係ないな」
そしてリンは気付いた。
ジンの瞳が、黄色に輝いていることに。その姿は、まるでもう一人のジン……《月の剣士》ジンの様で。
「そのスキル……《千里眼》!?」
「ご明察だ」
ますますニタリ、と笑みを深めるジン。
馬鹿な。どういうことか。ジンのスキルを、何故この男が保有している。名称が同じだけか、と思いきや、制限まで同じならば完全に同一のスキルだろう。自分や《滅殺剣》のダークと同じように、コピースキルを持っているのか。
そしてなおかつ、リンが聞いたことすらないスキルの名前は何だ。リンの世界では、茅場晶彦は超越者に関して寛容だ。彼こそがその頂点に立っているが故に。いつでも世界をコントロールできる故に。
だからこそ、彼の世界のSAOのスキルは、1000を超えてなお収まらない。リンはその全てを知っているし、覚えている。故に、リンが知らないスキル、と言うのは、彼の世界に存在しなかったスキル、という事だ。
「面白れぇ……コピー、させろよな」
「断るぜ。ククク……見えるぞ、お前のスキル。お前のステータス」
未知の事態に、こんな時でも興奮してしまうリン。しかしそれを嘲笑と共にジンは一笑する。
そして次なる言葉が、リンを戦慄させた。
「うまそうだ」
ドクン。
何かが、蠢いた。
リンの足元を、漆黒のナニカが覆って行く。それは――――リンの中から、力を吸い取り始めた。
「ぐっ!?」
ごくん。ごくん。と、不気味な音がどこかから鳴り響く。力が抜けていく。二刀が手から滑りおちる。透過が解除される。翼が、消える。
最後にどちゃり、と投げ捨てられたとき――――リンは、己の手で愛剣を構えることすらできなかった。それどころか――――装備の重みで、立ち上がることすらできない。
「これ、は……!?」
遭遇したことのない事態に、困惑を隠せないリン。
対するジンは、恍惚とした表情で空を仰いでいた。
「素晴らしい……なんて強力なスキルなんだ。それにこのパラメーターも。レベルも!!」
「どういう、ことだッ!」
怒鳴るリン。否。もう分かっているのだ。この男が、何を引き起こしたのか。
「素晴らしいスキルをくれたお礼に――――冥土の土産として教えてやるよ。
俺はな――――相手の情報を奪い取る力を持ってるんだ」
やはり、そうか。
つまりこの状況は――――リンのレベルも。ステータスも。スキルも。全て、あの男に奪われたという事なのだ。恐らく、《月の剣士》ジンも同じ状態なのだろう。
「返せ……ッ、俺の、《英雄剣》ッ……!」
「はぁ? 《英雄剣》だぁ? はっ、お前ごときが扱うのには過ぎた名前だな」
己の力を馬鹿にされたふんげきで、リンの視界が染まり始める。心意が高ぶり、リンの体が動き始める。
だが、そんな展開も、すぐに叩き潰される。
「おい」
ジンがどこかに語りかけると同時に――――ズン、という音と共に、リンの体が止まった。奇怪な重力が、アバターを縫い付けているのだ。
そして何処からか聞こえてくる声。何処か眠そうな、幼い少女の声。
『この程度で、止まる……英雄の称号にはふさわしくない……やはりその剣は、ジンのためにあるべき』
「おいおい、言いすぎだろうが『カーディナル』。過ぎた名前でも、こいつは元の保有者だぜ。ちゃんと与えられる意味はあったんだろうよ……まぁ、俺の前では無意味だがな」
ぎゃはははははは、と高笑いするジン。彼が口にしたのは、SAOを統括するシステムの名。
だが――――リンの知っているカーディナルは、こんな声ではなかったはずだ! そもそも、何故一人のプレイヤーに味方をしている!?
ともかく、この状況を抜け出さなくてはならない。心意は使える。ならば、《心雄剣》が使える可能性が高い。あれさえあれば、あんな奴なんてすぐに倒せる――――
そして、スキルを探そうとして。
リンは、心意のよりどころ自体が存在していないという事実に、驚愕した。
「ああ、言い忘れてた。俺の能力は、ただ奪うだけじゃなくてそれを俺が習得した、って歴史を変えて扱えるんだよ。つまりお前が習得した故に得た派生スキルも、皆俺のモノになるのさ。お前が《英雄剣》とか《翔翼神》をもとにゼロから創った心意技も、ぜーんぶ俺のモノってわ・け」
「そんな……そんなの、チートだろうが……」
「はぁ? 今更何言ってんだよ。
お前、今まで言われたことなかったのか? チートだ。そんなのありえねぇだろ、ってな。俺はあるぜ。何回も。もう何十個も世界を回ってるけど、その度に罵倒されて来てる――――けどな」
そこで彼は。
ニタリ、と笑って。
「そーいうのが、全部許されてんだよ、俺は。喰らえ。これが俺の――――レベル87594の一撃だ」
端数がリンのレベルと同一のレベルの、そのステータスを以て。
いつの間にか握っていた、《ソード・オブ・ヒーロー》で、リンの体を刺し貫いた。
たったそれだけで、Lv1の貧弱なHPは、急速に減少し――――
ゼロのところで、止まった。
――――ありえねぇ。
――――こんなの、在っていいのかよ。
【Forth―Battle:Winner is Zinn!!】
消えゆく意識の中でリンが思ったのは、理不尽な世界への罵倒だった。
後書き
ぎゃぁぁぁぁぁあああああぁぁあああああ(息継ぎ)あぁああああああああああああっ!
刹「うるさいです」(ざしゅっ
ぐぁっ!
そんなわけで開幕から全力土下座、Askaです。不完全燃焼極まりない、コラボ編第六話をお届けしました。
ついに明らかになったジンの能力……なのですが……やりすぎたよ。何考えてんだよ一か月前の俺。
刹「だから公開するならやるなとあれほど」
因みにデメリット効果のあるスキルはそっちも受け継ぐので、例えば《月光神化》の精神侵蝕はフツーに喰らいます。精神干渉耐性のスキルがあるからそれで無視されるんですが。
もうほんとに何考えてんだよ俺……次回は準決勝です。シャオン君とクロエさんの未来やいかに。
刹「それでは次回もお楽しみに」
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