ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~
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ワールド・カタストロフ~クロスクエスト~
Round《8》~ゴッド・アンド・マリア~
前書き
短いっす。
『――――プレイヤーネーム《クロエ》VS《タツ》を開始いたします――――』
準決勝第二回戦。出場選手の片割れであるクロエは、控室で、ログイン前に調べ上げてきた情報の復習を行っていた。
次の相手の名前は、タツ。
準決勝までの戦いを最短で勝ち抜いてきたプレイヤー。
所属する世界は『漆黒の勇者と純白の英雄』。茅場晶彦の実の弟であるとされる。使用するスキルは多数、嘘を真実に変えるチート能力や、あらゆる装備を作成可能なスキル、そして全異能を自らのモノにできる異能を有する、《神》。
相手として不足はない――――どころか、クロエですら敵うかどうか危うい、圧倒的な相手である。
全力で相手をしなくてはならない。
『――――今回は、あなたの力を借りる』
語りかける。
ソレは《聖女》。ある世界で神の域に座する、一人の女。
己の分身。己の守護者。
其の名は《聖母》。とある世界のあらゆる生命の守護者であり、母であり、そして敵対者でもある存在。
ナクシタ何かを取り返す為に、クロエに憑依したのはその方翼、《黒の聖母》。
クロエの身体を何者かが包み込む。全体的に白を基調とした、拘束具にも似た装備。半透明に透き通った髪が伸び、前髪の一房が白く変わる。
クロエの意識もまた、聖母の抱擁によって微睡に入る。七割は『彼女』へ。三割は我が身が。
錆びついた白銀の銃、《錆びた十字架》がその手に納まり、《心剣》スキル、《モード・トリニティ》によって光と闇の剣が姿を見せる。白いメッシュが広がる。瞳の色がアイスブルーに変わる。
多金属生命体、クリスの《変身》スキルを十二分に発揮したその形態こそ、クロエの最強形態、《聖母共鳴》。かつて世界を滅ぼした、聖女の力の制御体。
「行くか」
『「了解」』
エコーのかかった声で、クロエはクリスに答える。出現した転移光に、刹那の速さで飛び込んだ彼女は――――
次の瞬間には、もうすでにコロシアムの端に出現していた。
反対側には、圧倒的な存在圧をもつ青年。光と闇の帯を展開し、巨大なクローを装備したその姿、まさしく《神》……否、もはや魔王と言っても過言ではあるまい。
タツである。不機嫌そうに顔をゆがめて、彼は出現した。
『「――――怒っていますね……何がタリナイのですか? あなたは私にオシエテくれますか……?」』
「……? ああ、融合しているのですか。なるほど、答えましょう……お断りします」
『「そうですか……残念です」』
感情に敏感な《マリア》が、クロエの口から、タツの不機嫌の理由を探ろうと声をかける。しかしタツはあざけるように一蹴。《マリア》の頼みを断る。
そして幕は上がる。
閃光が――――
【デュエル!!】
弾けた。
『「……シッ!」』
開幕早々、クロエは神速で駆け出す。《錆びた十字架》をタツに向け、全方位から一斉に射撃。
「……この程度ですか」
しかし彼は、手の一振りでその全てを破壊する。闇の帯と光の帯が発動し、クロエに向かってダメージを反射する。しかしクロエの光剣がそれを迎撃。同時に大量の闇剣が出現し、受けるはずだったダメージと同等の威力を以てタツに迫る。
「――――『それでは俺を傷つけられない』」
だが、《真実の言霊》がそれら全てを無効化した。闇剣たちはタツを穿てない。
タツの両腕のクローが、一回り巨大化する。太い爪を一振りすれば、常軌を逸した耐久力を持つはずの光剣すらバターのようにスライスされる。
それだけではない。いつの間にかタツの手に握られていた銃が、こちらを向いている――――
『「ッ……! 《マジック・アーチ》!!」』
全ての攻撃を反射するリングが、タツの銃から放たれた絶死の光を反射する。それはタツの闇の帯と光の帯に喰われ、無効化された。同時に、マジック・アーチたちもボロボロと崩れ去っていく。
「今の攻撃には対象を無力化する《真実の言霊》の術が編み込まれていました……一度は防ぐとは」
『「……」』
「俺はあなたを見くびっていたようだ。残念ながら俺は時間が掛けられないんですよ。だから――――」
そう、言って。
「ここで、終わりにさせていただきます――――《絶対無効結界》」
タツを中心にして、封絶の空間が展開されていく。
「マズイッ! クロエ!」
『「《コード・エタニティ》!!」』
彼にしては相当珍しく、切羽詰まったような声で叫ぶクリス。半ば条件反射のように、緊急時にしか使ってはいけない最後の一手を打つ。あらゆる無力化自体を無効化する、絶対の加護を――――
だが。
全能の主神の前には、《聖母》の力など通用しない。
「無駄です」
《全知全能》が、《コード・エタニティ》を奪い取る。《絶対無効結界》がコロシアムを侵食し、あらゆる異能を封じ込めた。
それはスキルも同義であり。
「ぐぁっ」
クロエの身体をコーティングしていたあらゆる装備が……《変身》スキルで返信していたクリスが無効化され、普段の金属ネズミの姿に戻る。《錆びた十字架》も消滅する。
《聖母》の意思も薄れていく。彼女自体が異能と認識され、封じられたのだ。
後に残ったのは――――裸体のクロエ。無力な、クロエ・スタッカートという一人の少女だった。
雪のように艶やかな肌。美の限りを尽くしたような滑らかな曲線。娼婦時代にますます磨き上げられたその美態。
「……っ」
クリスが分離したために声帯が存在せず、声が出せないクロエは、苛立たしげにタツをにらむ。しかし彼はクロエの裸体を興味なさげに見つめながら――――
「俺の勝ちです」
抜刀した巨大な剣で、クロエを刺し貫いた。
HPバーが0を表示する。
【Second―Battle:Winner is Tatsu!!】
神が聖母を、下した瞬間だった。
***
「やぁやぁ、おめでとう、無事決勝に進出できたんだね」
控室に帰ると、既にそこには存在しないはずの先客がいた。その存在は、控室の黒い革張りのソファにどっかりと腰を下ろして、ウザったらしい笑みを浮かべている。
「……貴方は……ッ」
ニヤニヤ笑う、くせ毛と黒カソックの青年――――アスリウ。《不存在存在》、アスリウ・シェイド・マイソロジー。
今回はその傍に、もう一人別の存在がいた。アスリウの膝の上にちょこんと腰を下ろした、彼とよく似た黒カソックの少女。年のころ十二歳ほどの、黒い癖っ気のその少女は、恐らく《確定存在》アーニャ・ヤヨイ・ザドキエルアルター。
「……女連れですか」
「そうだよ。可愛いでしょ、アーニャだよ」
タツの嫌味に馬鹿正直に答え、少女――――アーニャの頭をなでるアスリウ。アーニャの方は嫌がるそぶりを見せながら、その内心まんざらでもないのが目に見える、謎のコンビであった。
まるでタツを苛立たせるためだけにいるのかと錯覚しかねないほどのウザったらしさに、タツは今にも、神より授かった巨刀を抜き放ちそうになってしまう。そこでこの男には効果が無いのだ、と思い出し、思いとどまり――――
この少女にならどうだろうか、と思い至った。
アーニャと言う少女は、アスリウにとって自らよりも大切な存在であると《全知全能》は言った。ならばかの少女を人質にでもとれば、アスリウに一泡吹かせられるのではないか――――
そう考えたら、もう体は止まらなかった。即座に抜刀、アスリウの膝の上の少女に手を伸ばし、彼女に刃を突き付けて引きずり下ろす――――
しかしその動作は、少女自身の手によって止められた。
タツの刀が。
神々から授けられた巨剣が。
少女に《吸収》されて、消えていったのだ。
「なっ……」
「……? 何だこれは。つくりが粗い剣だな……ああ、なるほど、神気で強度を増すように創られてるのか。効率的だが使用者に優しくないな。神じゃないと使えないじゃないか……ほらもっと使いやすくしてやったぞ。感謝して受け取れ」
そう言って少女が手を振ると、まるで手品のようにその懐から失われたはずのタツの剣が出現する。再び己の手中に戻ってきた剣は、確かに頑丈になっているようだった。
あり得ない。
鍛治の神たちが総力を結して作り上げた、神界に二つとない神宝を、『つくりが粗い』と断じるなどと。
それはつまり、世界中の歴史に喧嘩を売るのに等しい。
「シェイド様、コイツは何なんですか? 跪きもせずに斬りかかってくるなど」
「まぁまぁ、落ち着いてアーニャ。タツ君は強いんだよ。君を試そうとしたんじゃないのかい?」
「ふぅん。確かにステは高そうですね。でも装備がもろいなぁ……ああ、もしかして《原典由来》なのか。なるほど、それなら異常に高いポテンシャルともろさの釣り合いが取れない理由が分かるな……おい、お前。これからは武器をもらったら自分で一回作り直せ。オリジンの神々は考えが古すぎて装備が脆い。お前は優秀らしいから、オリジンにもらった武器をアレンジするのが一番強いぞ。自作はむしろ駄目だな。シェイド様の剣みたいに脆くなる」
「うあーい、さりげなく落とされたー。そんなに僕の武器って雑魚いかな……」
「ひどいですよ。まず重心からしておかしいじゃないですか」
何を言っているのか、さっぱり理解できない。いや、会話の内容は理解できるが、端々が。
聞いたこともない言語が飛び出す。タツには無いはずの、『無知』が、そこに在った。それはタツにとって度し難い事態であり、ただひたすら頭にくる出来事であり。
「……何なんですか、貴方たちは」
問わねばならぬ、既知にせねばならぬ『未知』であった。
「……そうだな……今後の友好のために、詳しく名乗ろうか。レギオン《白亜宮》が玉座、《主》の《惟神》、《クリフォト》が第二席。《不存在存在》のアスリウ――――『二番』、アスリウ・シェイド・マイソロジーだ」
「その契約者。レギオン《白亜宮》『女王』ガラディーンが触覚、レギオン《弾丸の詰まった銃》第百八十九席、八代早紀。貴様の海馬に我が名、叩き込め」
そう、堂々と宣言して。
アスリウとアーニャは立ち上がった。
「じゃぁね、タツ君。次は決勝だ――――存分に時間稼ぎを、よろしく頼むよ」
後書き
マリアっていう名前はヘブライ語じゃなくて、起源不明の謎言語らしいですよ。ちなみにAskaは聖書に出てくる三人のマリアならマグダラのマリアが好きです。スペインにお墓があるらしいけど、行ってみたいなぁ。
刹「本編関係なくありません?」
見なさい、あなたの子です。見なさい、あなたの母です……ってこれイエスの言葉だわさ。
さてさて、今回は以前クリスさんが分離した時にあったお色気(?)をシリアスムードの中でブッパしてみました。実は《変身》スキルをジンに奪われてあんなことやこんなことされてBADENDっつー展開もあったんですが……対象年齢と……倫理的に……。
刹「実は『神話剣』は全年齢対象」
さすがにそこまでの『理不尽』は俺の正気が疑われる。
刹「最初っからもう誰もあなたの正気に期待してません」
どいひー!
それにしてもタツさんが参加したデュエルは終了がはやいな。アクト君が何もできないで退場したりとかしちゃったし。
刹「あれ前にあなたがRIGHT@さんにやっちゃダメって言ってた完封ですよね」
面白くないんだよなぁ、ああすると……でも今回は『理不尽』がキーだから、とにかく皆ガチで挑んでくる。タツさんも大分職権乱用するし。
刹「……言い訳が……この馬鹿作者!」(ざしゅっ!
ぐはぁっ!? ちょっ、刹那たん、やめっ……
刹「問答無用!!」(ざしゅざしゅざしゅッ!!!
ぎゃぁぁぁぁ―――――……
刹「ふぅ、すっきりしました。それでは次回もお楽しみに」
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